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過労死転生
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町役場で過労死するとは思わなかった。
わたしは地方の公立大学を卒業し、故郷の町役場に就職した。
配属されたのは町おこし課。
その仕事が、まさかの異常な忙しさだった。
なんの変哲もない町。
取り柄と言えば、きれいな海があり、美味しい魚が獲れることくらい。
わたしが生まれたとき、町の人口は4万人だった。就職時は2万人。確実に過疎化が進んでいる。
県議会議員をつとめたことのある町長が異様なやる気を出して、町おこし課を新設した。
課の実状は、課長ひとり、係長ひとり、課員はわたしひとり。
町役場にマンパワーは乏しい。豊富な人材なんていない。
課長は役場のエリートだった。しかしその実態は、働く気がないくせに、パワハラ気質を持つ町長のイエスマン。
係長は生真面目なだけの人。町おこしには向かないアイデア皆無の事務屋だった。
必然的に、新人なのに、わたしがなにもかもやらなければならない流れができていった。
故郷のよいところは美しい海。これに尽きた。
遠い首都圏からも釣り人が来るほど、釣り場としての人気は高かった。
わたしはこれに目を付け、町営の釣り公園をつくろうと思った。
やらなければならない仕事は異常なほどあった。
町長や町議会議員への説明資料作成、漁協との交渉、立地選定、予算編成、設計委託、財政係や都市計画係、公園係などとの役場内折衝……。
課長や係長はほとんど役に立たなかった。
わたしひとりで仕事に立ち向かい、そして敗れた。
睡眠時間をほとんど取れず、精神を病み、それでも働きつづけ、結局、釣り公園建設の端緒にもつかないうちに、わたしは過労死した。
就職して1年後のことだった。
気がついたとき、目の前にかっこいい容姿の神様がいた。
ちょっとチャラそうだったけれど、後光で、神様だとわかった。
「いやあ、過酷な人生を送らせてしまってごめんね。おわびに過労死特典として、好みの異世界へ転生させてあげるよ」
「えっ、転生できるんですか?」
「もちろんできるさ。人間はみんな転生する。記憶は失ってしまうけれどね。だけどきみの場合、やっぱり過労死特典として、前世の記憶を持ち越しできるよ。同じ失敗をくり返さないように気をつけてね」
「過労死していいことがあったなんて……」
わたしは涙ぐんだ。でも、あんな体験は二度としたくない。のんびり生きたい。
「少しくらいなら特殊能力も付与してあげよう。きみは予定外に若くして亡くなってしまったからね」
わたしは故郷の海が好きだった。
だから町役場に就職したのだ。
美しい海のある土地がいい。
平和で平穏な田舎がいい。
あくせく働かなくても生きられる自然の恵み豊かな世界へ行きたい。
できれば美少女に生まれ変わりたい。
スローライフに役立つ特殊能力が欲しい。
そんなことを神様に要望した。
わたしが転生した土地は、海辺の辺境伯領だった。
物心ついたとき、前世の記憶を思い出した。
もう絶対にあくせく働かない、と心に決めた。
田舎のスローライフを楽しみたい。美味しいものを食べて暮らしたい。
父は漁師だった。前世の記憶にある物とはほど遠い粗末な漁具で、魚を獲っていた。しかしこの世界の海には、日本の海より遥かに濃い魚影があって、生きていくには困らない程度の収穫があった。
わたしは美味しい魚を食べて育った。
母は畑で野菜をつくっていた。日本の土より遥かに肥えた土があって、肥料なしでも実りは豊かだった。
わたしは美味しい野菜を食べて成長した。
魚と野菜は商人に買い取ってもらえて、衣食住に不自由はなかった。
そしてわたしは、神様への要望どおり、美少女に転生していた。前世では十人並みだったのに。
銀色の艶やかな髪。ぱっちりとしたアーモンド型の目。輝くような青い瞳。輪郭も目鼻立ちも整った小顔。
スラッとして長い手足。胸はまだそんなに大きくはないけれど、母のように成長すれば、スタイルも期待できる。
16歳のとき、特殊能力に気づいた。
抜け落ちた1本の自分の銀髪を指で持っていたら、それがキューンと伸びていったのだ。
いろいろと試してみたのだが、わたしの長く伸びた髪の強度は抜群だった。この世界にあるどんな糸よりも切れにくい。
父は亜麻糸でつくった網で魚を獲っていた。
わたしの毛髪を使えば、もっとずっとすぐれた網をつくれると直感した。
そしてこの世界ではあり得ないほど、細く強度のある釣り糸として使用できるはずだ。
わたしが転生した地域は、若くてイケメンで無類の釣り好きの辺境伯が治めていた。
この銀色の毛髪釣り糸を欲しがるだろうな、と容易に想像できた。
性格もよかったら、あげてもいいかなあ。
釣りをしてみようかな。
異世界の海で魚を釣り、美味しい料理をつくる。
スローライフを満喫するわよ!
わたしは地方の公立大学を卒業し、故郷の町役場に就職した。
配属されたのは町おこし課。
その仕事が、まさかの異常な忙しさだった。
なんの変哲もない町。
取り柄と言えば、きれいな海があり、美味しい魚が獲れることくらい。
わたしが生まれたとき、町の人口は4万人だった。就職時は2万人。確実に過疎化が進んでいる。
県議会議員をつとめたことのある町長が異様なやる気を出して、町おこし課を新設した。
課の実状は、課長ひとり、係長ひとり、課員はわたしひとり。
町役場にマンパワーは乏しい。豊富な人材なんていない。
課長は役場のエリートだった。しかしその実態は、働く気がないくせに、パワハラ気質を持つ町長のイエスマン。
係長は生真面目なだけの人。町おこしには向かないアイデア皆無の事務屋だった。
必然的に、新人なのに、わたしがなにもかもやらなければならない流れができていった。
故郷のよいところは美しい海。これに尽きた。
遠い首都圏からも釣り人が来るほど、釣り場としての人気は高かった。
わたしはこれに目を付け、町営の釣り公園をつくろうと思った。
やらなければならない仕事は異常なほどあった。
町長や町議会議員への説明資料作成、漁協との交渉、立地選定、予算編成、設計委託、財政係や都市計画係、公園係などとの役場内折衝……。
課長や係長はほとんど役に立たなかった。
わたしひとりで仕事に立ち向かい、そして敗れた。
睡眠時間をほとんど取れず、精神を病み、それでも働きつづけ、結局、釣り公園建設の端緒にもつかないうちに、わたしは過労死した。
就職して1年後のことだった。
気がついたとき、目の前にかっこいい容姿の神様がいた。
ちょっとチャラそうだったけれど、後光で、神様だとわかった。
「いやあ、過酷な人生を送らせてしまってごめんね。おわびに過労死特典として、好みの異世界へ転生させてあげるよ」
「えっ、転生できるんですか?」
「もちろんできるさ。人間はみんな転生する。記憶は失ってしまうけれどね。だけどきみの場合、やっぱり過労死特典として、前世の記憶を持ち越しできるよ。同じ失敗をくり返さないように気をつけてね」
「過労死していいことがあったなんて……」
わたしは涙ぐんだ。でも、あんな体験は二度としたくない。のんびり生きたい。
「少しくらいなら特殊能力も付与してあげよう。きみは予定外に若くして亡くなってしまったからね」
わたしは故郷の海が好きだった。
だから町役場に就職したのだ。
美しい海のある土地がいい。
平和で平穏な田舎がいい。
あくせく働かなくても生きられる自然の恵み豊かな世界へ行きたい。
できれば美少女に生まれ変わりたい。
スローライフに役立つ特殊能力が欲しい。
そんなことを神様に要望した。
わたしが転生した土地は、海辺の辺境伯領だった。
物心ついたとき、前世の記憶を思い出した。
もう絶対にあくせく働かない、と心に決めた。
田舎のスローライフを楽しみたい。美味しいものを食べて暮らしたい。
父は漁師だった。前世の記憶にある物とはほど遠い粗末な漁具で、魚を獲っていた。しかしこの世界の海には、日本の海より遥かに濃い魚影があって、生きていくには困らない程度の収穫があった。
わたしは美味しい魚を食べて育った。
母は畑で野菜をつくっていた。日本の土より遥かに肥えた土があって、肥料なしでも実りは豊かだった。
わたしは美味しい野菜を食べて成長した。
魚と野菜は商人に買い取ってもらえて、衣食住に不自由はなかった。
そしてわたしは、神様への要望どおり、美少女に転生していた。前世では十人並みだったのに。
銀色の艶やかな髪。ぱっちりとしたアーモンド型の目。輝くような青い瞳。輪郭も目鼻立ちも整った小顔。
スラッとして長い手足。胸はまだそんなに大きくはないけれど、母のように成長すれば、スタイルも期待できる。
16歳のとき、特殊能力に気づいた。
抜け落ちた1本の自分の銀髪を指で持っていたら、それがキューンと伸びていったのだ。
いろいろと試してみたのだが、わたしの長く伸びた髪の強度は抜群だった。この世界にあるどんな糸よりも切れにくい。
父は亜麻糸でつくった網で魚を獲っていた。
わたしの毛髪を使えば、もっとずっとすぐれた網をつくれると直感した。
そしてこの世界ではあり得ないほど、細く強度のある釣り糸として使用できるはずだ。
わたしが転生した地域は、若くてイケメンで無類の釣り好きの辺境伯が治めていた。
この銀色の毛髪釣り糸を欲しがるだろうな、と容易に想像できた。
性格もよかったら、あげてもいいかなあ。
釣りをしてみようかな。
異世界の海で魚を釣り、美味しい料理をつくる。
スローライフを満喫するわよ!
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