バンド若草物語の軌跡

みらいつりびと

文字の大きさ
15 / 66

バンド若草物語始動

しおりを挟む
 金曜日の放課後、樹子の部屋で3人が顔を合わせていた。
 園田樹子。
 高瀬みらい。
 淀川与一。
 未来の日本の音楽シーンをリードするかもしれない3人が集っていた。
 樹子はYMOの結成時の真似をした。部屋にこたつを置き、みんなでみかんを食べた。
「あたしたちでバンドをやる。目標はあたしたちの音楽を世界に発信して、YMOを上書きすること」
「さすがにそれは無理だろ。YMOは結成時からプロフェッショナルの集まりだった。おれたちはただの高校生だ」
「ヨイチ、あなたらしくないわね。常識的過ぎることを言わないでよ!」
「おれはけっこう現実的なんだよ」
「夢を見なさい。夢に挑みなさい。夢を叶えなさい」
「夢なら夜に見てる」
「その夢じゃないよ、ヨイチくん」
「未来人、おまえも乗り気なのか?」
「うん。目標はどうでもいい。でもこのメンバーで音楽をやりたい!」
 ヨイチはみかんを口に入れた。むしゃむしゃと食べた。
「おまえに何ができる?」
「何もできない!」
 みらいは無邪気だった。
「未来人にはヴォーカルをやってもらうわ。この子、なかなかの美声を持っているのよ」
「おれがギター、おまえがキーボードか」
「そうよ」
「ベースとドラムスは?」
「いまのところはなし。この3人でバンドを始動させるわ」
 ヨイチはにっと笑った。
「まあいいや。おまえの道楽につきあってやるよ。いちおう彼氏だしな」
「いちおうなの?」
「いちおうだ」
「嫌な人」
 樹子は心から嫌そうだった。
「バンド名はどうする?」
「とりあえず『園田樹子と仲間たち』でいいんじゃないかしら?」
「それなら『淀川ヨイチと仲間たち』だろ?」
「バンドマスターはあたしよ。それだけは譲れない。嫌なら参加させない」
「わかったよ。しかしそのバンド名は却下だ」
「『バンド若草物語』はどうかな?」とみらいが言った。
「いやよ、そんなダサい名前」
「それ、いいじゃないか。『バンド若草物語』。なんか格好いい!」
「ヨイチ、あなたそんなセンスしてたの?」
「ああ、オルコットは大好きだ」
 ヨイチはにっと笑っていた。
 ルイーザ・メイ・オルコットはアメリカの作家で、『若草物語』は彼女の自伝的小説だ。
「オルコットいいよね!」
 みらいは花のように笑っていた。
 つられて樹子も、にんまりと笑ってしまった。
「いいわ、バンド名、『若草物語』で」
「やったあ!」
 樹子は冷蔵庫に行き、ペプシコーラを3缶持ってきた。
「バンド若草物語の結成を祝して乾杯しましょう」
「コーラでか?」
「コーラでよ。あたしたちは高校生よ。仕方ないでしょ」
「わたしはコーラが大好きです! カンパーイ!」
「カンパーイ! しまった、音頭を未来人に取られた!」
「カンパーイ! しまった、未来人に音頭を取られた!」
 こうして、バンド若草物語が始動した。
 彼らがメジャーデビューできるのか、この時点では誰も知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...