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ヴェネツィアの海
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アテネからローマへの移動方法を検討した。
空路、陸路、海路。
鉄道での移動がコスパ的によい。
イタリア北部から入ることになるので、ヴェネツィア、フィレンツェを経由してローマへ行こう……。
そして5月19日の午後2時ごろ、わたしはヴェネツィアの玄関口、サンタ・ルチア駅に到着した。
移動は疲れるが、それよりも「水の都」「アドリア海の女王」と呼ばれるヴェネツィアに来られた歓びの方が大きい。
わたしは元気だった。
駅構内の観光案内所でヴェネツィアの地図を手に入れた。
とにかくお腹が空いている。遅くなったが、昼ごはんを食べたい。
わたしはなにを食べようか考えながら、サン・マルコ広場へ向かってぶらぶらと歩いた。
イタリアの食堂はざっくりと7種類に分けられる。
高級レストランのリストランテ。
気取らない家庭料理が食べられる大衆向けレストラン、トラットリア。
ワインを楽しみ、料理も食べられる居酒屋、オステリア。
ピザ専門店、ピッツェリア。
セルフサービス食堂、ターヴォラ・カルダ。
ワインバー、エノテカ。
軽食が取れ、酒も飲めるカフェ、バール。
ヴェネツィア中心部をSの鏡文字のように流れる大運河カナル・グランデに架かるスカルツィ橋を渡り、市街地に入った。
街路は複雑に入り乱れ、迷路のようだった。
古く美しい建物が立ち並ぶ路地を散策するのは、わたしにたまらない愉悦をもたらした。
適当に目についたピッツェリアに入り、カプリチョーザを注文した。
生ハム、オリーブ、マッシュルーム、アーティチョーク、卵と具だくさんのピザ。
塩辛い生ハムがものすごく美味しかった。
ピッツェリアから出て、入り組んだ路地をさまよった。ときどき地図を確認しながら、小さな運河の橋をいくつか渡り、カナル・グランデの有名な橋のひとつリアルト橋も渡り、観光名所サン・マルコ広場をめざした。
途中で宮殿や教会をたくさん見た。さすがヴェネツィア。探さなくても、不意に麗しい建築物に出会えるのだ。
2時間ほどの楽しい迷路散策を経て、目的地サン・マルコ広場に着いた。
広場は壮麗な建物の数々に囲まれていた。
サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿、時計塔、鐘楼、旧政庁、新政庁、コッレール博物館……。
南へ向かって少し歩くと、サン・マルコ運河がある。運河なんて呼ばれているけれど、そこは海だ。
わたしは美しく凪いだエメラルドグリーンの海を眺めた。
海風が気持ちいい……。
だが、いつまでも微風を楽しんでいることはできなかった。
風向きが変わったな、と思った瞬間、海水面がわたしの腰まで上昇していたのだ。
津波が来たわけではなく、時間が跳んだ感じだった。
旅に出て以来、ときどき起こる時間跳躍が起こったのだ。
サン・マルコ広場が海になっている。
いつもは過去へ遡るのだが、今回は海面が上昇した未来に来てしまったのかもしれない。
ざばざばと水を押して歩いた。
さっきまで観光客でざわめいていた広場が人っ子ひとりいなくなっている。
サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿などがさびれている。明らかに放棄されていて、廃墟になっている。
広場から街中へと進んだ。
ヴェネツィアは全体が低地だ。水没して、街全部が打ち捨てられたようだった。
廃都市化している。
これは何十年後の未来なのだろう?
わたしが生きている時代でなければいいのだが……。
いや、死んでいたとしても、実現してほしくない未来だ。
むしょうに悲しくなり、涙が出た。
涙滴がぽつーんと海面に落ちた瞬間、光景が変貌し、現代に戻ってきた。
わたしはサン・マルコ運河を眺めていた。背後を振り返ると、地元民と観光客が行き交っていた。
わたしの服は濡れてはいなかった。
空路、陸路、海路。
鉄道での移動がコスパ的によい。
イタリア北部から入ることになるので、ヴェネツィア、フィレンツェを経由してローマへ行こう……。
そして5月19日の午後2時ごろ、わたしはヴェネツィアの玄関口、サンタ・ルチア駅に到着した。
移動は疲れるが、それよりも「水の都」「アドリア海の女王」と呼ばれるヴェネツィアに来られた歓びの方が大きい。
わたしは元気だった。
駅構内の観光案内所でヴェネツィアの地図を手に入れた。
とにかくお腹が空いている。遅くなったが、昼ごはんを食べたい。
わたしはなにを食べようか考えながら、サン・マルコ広場へ向かってぶらぶらと歩いた。
イタリアの食堂はざっくりと7種類に分けられる。
高級レストランのリストランテ。
気取らない家庭料理が食べられる大衆向けレストラン、トラットリア。
ワインを楽しみ、料理も食べられる居酒屋、オステリア。
ピザ専門店、ピッツェリア。
セルフサービス食堂、ターヴォラ・カルダ。
ワインバー、エノテカ。
軽食が取れ、酒も飲めるカフェ、バール。
ヴェネツィア中心部をSの鏡文字のように流れる大運河カナル・グランデに架かるスカルツィ橋を渡り、市街地に入った。
街路は複雑に入り乱れ、迷路のようだった。
古く美しい建物が立ち並ぶ路地を散策するのは、わたしにたまらない愉悦をもたらした。
適当に目についたピッツェリアに入り、カプリチョーザを注文した。
生ハム、オリーブ、マッシュルーム、アーティチョーク、卵と具だくさんのピザ。
塩辛い生ハムがものすごく美味しかった。
ピッツェリアから出て、入り組んだ路地をさまよった。ときどき地図を確認しながら、小さな運河の橋をいくつか渡り、カナル・グランデの有名な橋のひとつリアルト橋も渡り、観光名所サン・マルコ広場をめざした。
途中で宮殿や教会をたくさん見た。さすがヴェネツィア。探さなくても、不意に麗しい建築物に出会えるのだ。
2時間ほどの楽しい迷路散策を経て、目的地サン・マルコ広場に着いた。
広場は壮麗な建物の数々に囲まれていた。
サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿、時計塔、鐘楼、旧政庁、新政庁、コッレール博物館……。
南へ向かって少し歩くと、サン・マルコ運河がある。運河なんて呼ばれているけれど、そこは海だ。
わたしは美しく凪いだエメラルドグリーンの海を眺めた。
海風が気持ちいい……。
だが、いつまでも微風を楽しんでいることはできなかった。
風向きが変わったな、と思った瞬間、海水面がわたしの腰まで上昇していたのだ。
津波が来たわけではなく、時間が跳んだ感じだった。
旅に出て以来、ときどき起こる時間跳躍が起こったのだ。
サン・マルコ広場が海になっている。
いつもは過去へ遡るのだが、今回は海面が上昇した未来に来てしまったのかもしれない。
ざばざばと水を押して歩いた。
さっきまで観光客でざわめいていた広場が人っ子ひとりいなくなっている。
サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿などがさびれている。明らかに放棄されていて、廃墟になっている。
広場から街中へと進んだ。
ヴェネツィアは全体が低地だ。水没して、街全部が打ち捨てられたようだった。
廃都市化している。
これは何十年後の未来なのだろう?
わたしが生きている時代でなければいいのだが……。
いや、死んでいたとしても、実現してほしくない未来だ。
むしょうに悲しくなり、涙が出た。
涙滴がぽつーんと海面に落ちた瞬間、光景が変貌し、現代に戻ってきた。
わたしはサン・マルコ運河を眺めていた。背後を振り返ると、地元民と観光客が行き交っていた。
わたしの服は濡れてはいなかった。
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