中学生小説

みらいつりびと

文字の大きさ
16 / 16

妖精の楽譜 第4話 ハーモニカ

しおりを挟む
 夏休みを僕は幸福に過ごした。
 玲にはもう愚痴を言うことなく遊んだ。沢蟹を取ったり、小川でフナやヤマベを釣ったりした。蟹や魚は家に持ち帰り、母に渡した。それは美味しい夕食になるのだ。
 母の料理はとても美味しい。寮の食事よりも遥かにうまい。
 故郷はやはり素晴らしかった。
 ただひとつ、失ったもの……。
 僕はひとりきりで大木と青林檎と野薔薇の森へ行った。何度も何度も。しかし、目的の妖精には一度も出会えなかった。
 かつては何度も出会ったのに。ここに来れば、ひとりやふたりは必ず出てきてくれたのに。なぜ彼らは出てこない?
 僕が純粋でなくなったから?
 くだらない高校生になり、常識の埃をかぶり、きみたちの存在を疑うようになったから?
 僕にはもう彼らに会う資格がないのだろうか。
 妖精たちはけっして姿を見せようとしない……。
 夏休みも終わりに近づいたとき、僕はハーモニカで妖精たちの祭りのメロディを吹いていた。
「いい曲だね」と玲が言った。「都会の流行歌かい?」
「ちがうよ。これは妖精たちの曲なんだ。田舎の森の歌だよ」
「なにそれ?」
 僕はハーモニカを吹きつづけた。
 妖精たちの陽気な歌は、僕が吹くとなんだか物悲しく響いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...