15 / 16
妖精の楽譜 第3話 妖精の合唱
しおりを挟む
夜になった。
僕は夕食を少し残した。食いしん坊の僕には珍しいことだった。
早いうちからベッドに入り、回想した。初めて彼らに会った日のことを。
僕はちっちゃな子どもだった。果樹園を歩き回っているうちに、いつのまにか迷ってしまい、深い森の奥に入り込んでいた。もう夕暮れ時だった。僕は泣きながら森をさまよった。何時間も迷ってから、燈を見つけた。村だと思い、僕は夢中で駆け寄った。
ところが、そこは僕の村ではなかった。
不思議な雰囲気を感じ取り、僕は途中で足を止めた。慌てたら燈が消えてしまうような気がして、そろそろと歩み寄った。そして、僕は木の陰からおそるおそるそこを覗いた。
奇妙な音楽が鳴っていた。小刻みなギターや高く小さい声の合唱。赤、黄、青、紫の鮮やかな灯りが点々と空中に浮かび、何かが踊っていた。なんだろう、ひどく小さなものだ。
僕はしばらく目をこらしていた。輪になって踊ったり、自分の背ほどもある林檎を食べたり、小さなギターを弾いたり、歌ったりしている小さなものたち。
美しい透明の羽で飛んでいるものもいる。僕はそれを見たとき、驚とも喜びとも取れる声で叫んでしまった。
「うわー、妖精だあ」
いっせいに僕に視線が集まった。彼らは自分たちの活動をやめ、ささやきあった。
「人間だよ」
「子どもじゃないか」
「見つかってしまったよ。どうするの」
「記憶を消して、追い返しましょうよ」
僕は我を忘れてふらふらと足を動かし、彼らの中に入り込んでいた。真剣に驚き、無邪気に笑った。妖精がひとり飛んできて、僕の肩に座った。それですべてが決まった。
「今夜は祭りなんだ」と僕の肩にいる妖精が言った。
妖精たちは祭りを再開し、僕も交えて遊び始めた。彼らは僕の周りを優雅に飛び回り、僕の口に木の実を投げ入れたりした。よく見ると、彼らひとりひとりが赤、黄、青、紫に発光していた。
僕はけらけら笑ったり、小指で彼らと戦ったりした。道に迷ったときに感じた不安や淋しさは、どこかへ消え去ってしまっていた。
ひとしきり騒いだ後、妖精たちは全員で輪をつくった。僕もその中に入った。妖精たちは楽譜を持っていて、僕にも一枚くれた。
彼らは高く細い声で歌い始めた。
ランペルとかアベールとかステイルトとか僕には意味がわからない歌詞。でも、メロディは僕の心に焼き付いた。
いつか僕はラーラールールーと適当に合わせて歌っていた。何人かの妖精がときどきくすくす笑っていた。彼らはいつまでも歌いつづけた。
翌朝、僕は自分の家の前で眠っているところを発見された。行方不明になった僕を夜通し探しつづけた父が疲れ果てた後、ふと見つけたのだ。僕にはどうやって帰ったのか、記憶がまるでなかった。
僕は妖精の楽譜を握りしめていた。
僕は夕食を少し残した。食いしん坊の僕には珍しいことだった。
早いうちからベッドに入り、回想した。初めて彼らに会った日のことを。
僕はちっちゃな子どもだった。果樹園を歩き回っているうちに、いつのまにか迷ってしまい、深い森の奥に入り込んでいた。もう夕暮れ時だった。僕は泣きながら森をさまよった。何時間も迷ってから、燈を見つけた。村だと思い、僕は夢中で駆け寄った。
ところが、そこは僕の村ではなかった。
不思議な雰囲気を感じ取り、僕は途中で足を止めた。慌てたら燈が消えてしまうような気がして、そろそろと歩み寄った。そして、僕は木の陰からおそるおそるそこを覗いた。
奇妙な音楽が鳴っていた。小刻みなギターや高く小さい声の合唱。赤、黄、青、紫の鮮やかな灯りが点々と空中に浮かび、何かが踊っていた。なんだろう、ひどく小さなものだ。
僕はしばらく目をこらしていた。輪になって踊ったり、自分の背ほどもある林檎を食べたり、小さなギターを弾いたり、歌ったりしている小さなものたち。
美しい透明の羽で飛んでいるものもいる。僕はそれを見たとき、驚とも喜びとも取れる声で叫んでしまった。
「うわー、妖精だあ」
いっせいに僕に視線が集まった。彼らは自分たちの活動をやめ、ささやきあった。
「人間だよ」
「子どもじゃないか」
「見つかってしまったよ。どうするの」
「記憶を消して、追い返しましょうよ」
僕は我を忘れてふらふらと足を動かし、彼らの中に入り込んでいた。真剣に驚き、無邪気に笑った。妖精がひとり飛んできて、僕の肩に座った。それですべてが決まった。
「今夜は祭りなんだ」と僕の肩にいる妖精が言った。
妖精たちは祭りを再開し、僕も交えて遊び始めた。彼らは僕の周りを優雅に飛び回り、僕の口に木の実を投げ入れたりした。よく見ると、彼らひとりひとりが赤、黄、青、紫に発光していた。
僕はけらけら笑ったり、小指で彼らと戦ったりした。道に迷ったときに感じた不安や淋しさは、どこかへ消え去ってしまっていた。
ひとしきり騒いだ後、妖精たちは全員で輪をつくった。僕もその中に入った。妖精たちは楽譜を持っていて、僕にも一枚くれた。
彼らは高く細い声で歌い始めた。
ランペルとかアベールとかステイルトとか僕には意味がわからない歌詞。でも、メロディは僕の心に焼き付いた。
いつか僕はラーラールールーと適当に合わせて歌っていた。何人かの妖精がときどきくすくす笑っていた。彼らはいつまでも歌いつづけた。
翌朝、僕は自分の家の前で眠っているところを発見された。行方不明になった僕を夜通し探しつづけた父が疲れ果てた後、ふと見つけたのだ。僕にはどうやって帰ったのか、記憶がまるでなかった。
僕は妖精の楽譜を握りしめていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる