中学生小説

みらいつりびと

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妖精の楽譜 第3話 妖精の合唱

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 夜になった。
 僕は夕食を少し残した。食いしん坊の僕には珍しいことだった。
 早いうちからベッドに入り、回想した。初めて彼らに会った日のことを。
 僕はちっちゃな子どもだった。果樹園を歩き回っているうちに、いつのまにか迷ってしまい、深い森の奥に入り込んでいた。もう夕暮れ時だった。僕は泣きながら森をさまよった。何時間も迷ってから、燈を見つけた。村だと思い、僕は夢中で駆け寄った。
 ところが、そこは僕の村ではなかった。
 不思議な雰囲気を感じ取り、僕は途中で足を止めた。慌てたら燈が消えてしまうような気がして、そろそろと歩み寄った。そして、僕は木の陰からおそるおそるそこを覗いた。
 奇妙な音楽が鳴っていた。小刻みなギターや高く小さい声の合唱。赤、黄、青、紫の鮮やかな灯りが点々と空中に浮かび、何かが踊っていた。なんだろう、ひどく小さなものだ。
 僕はしばらく目をこらしていた。輪になって踊ったり、自分の背ほどもある林檎を食べたり、小さなギターを弾いたり、歌ったりしている小さなものたち。
 美しい透明の羽で飛んでいるものもいる。僕はそれを見たとき、驚とも喜びとも取れる声で叫んでしまった。
「うわー、妖精だあ」
 いっせいに僕に視線が集まった。彼らは自分たちの活動をやめ、ささやきあった。
「人間だよ」
「子どもじゃないか」
「見つかってしまったよ。どうするの」
「記憶を消して、追い返しましょうよ」
 僕は我を忘れてふらふらと足を動かし、彼らの中に入り込んでいた。真剣に驚き、無邪気に笑った。妖精がひとり飛んできて、僕の肩に座った。それですべてが決まった。
「今夜は祭りなんだ」と僕の肩にいる妖精が言った。
 妖精たちは祭りを再開し、僕も交えて遊び始めた。彼らは僕の周りを優雅に飛び回り、僕の口に木の実を投げ入れたりした。よく見ると、彼らひとりひとりが赤、黄、青、紫に発光していた。
 僕はけらけら笑ったり、小指で彼らと戦ったりした。道に迷ったときに感じた不安や淋しさは、どこかへ消え去ってしまっていた。
 ひとしきり騒いだ後、妖精たちは全員で輪をつくった。僕もその中に入った。妖精たちは楽譜を持っていて、僕にも一枚くれた。
 彼らは高く細い声で歌い始めた。
 ランペルとかアベールとかステイルトとか僕には意味がわからない歌詞。でも、メロディは僕の心に焼き付いた。
 いつか僕はラーラールールーと適当に合わせて歌っていた。何人かの妖精がときどきくすくす笑っていた。彼らはいつまでも歌いつづけた。
 翌朝、僕は自分の家の前で眠っているところを発見された。行方不明になった僕を夜通し探しつづけた父が疲れ果てた後、ふと見つけたのだ。僕にはどうやって帰ったのか、記憶がまるでなかった。
 僕は妖精の楽譜を握りしめていた。
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