カナと怪獣

みらいつりびと

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第1話 カナと怪獣

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 裏山に怪獣があらわれた。
 自衛隊が怪獣を駆除するというので、村人は避難することになった。
 みんな逃げたけれど、カナは逃げなかった。こっそりと隠れて、避難をやり過ごした。
 怪獣と自衛隊の戦いを見たかったから……。
 怪獣は巨大なセンザンコウだった。
 体長およそ20メートル。
 全身硬そうな鱗で覆われている。四足歩行で、尻尾がある。鼻が顔の先端にあって、そこだけ鱗で覆われていない。
 やさしそうな目をしている。
 怪獣は1匹だけだ。仲間がいない孤独な怪獣。
   裏山で木の葉を食べているだけで、人間を襲ったりしないし、村にも下りてこない。
 なぜ駆除しなければならないのだろう、とカナは思った。
 カナは高校1年生の女の子だ。奨学金をもらっている。
 かわいい顔立ちをしているが、めったに笑わない。
 おとうさんとおかあさんはいない。
 孤児だ。村長の計らいで、公民館の管理人室にひとりで暮らしている。
 よく晴れた朝だった。
 イチゴジャムを塗ったトーストを食べているとき、爆音が聴こえた。
 カナは管理人室の窓から外を見た。
 自衛隊の航空機が3機編隊で飛んできていた。
 裏山の頂上付近に怪獣がいる。
 自衛隊機はミサイルを発射して、巨大なセンザンコウを攻撃した。
 びくともしなかった。
 ミサイルが3発爆発したけれど、硬い鱗は傷ひとつつかなかった。
 すごいな怪獣、とカナは思った。
 怪獣は顔を上げて、目をぱちくりとさせた。
 3機の自衛隊機が2発目のミサイルを一斉に発射した。
 1発が怪獣の鼻に当たり、爆発した。
 鼻は怪獣の弱点だったようだ。
 怪獣がぎょええええと叫んで苦しんだ。鼻がなくなり、血がぼたぼたと垂れていた。
 しかし死んではいない。
 怪獣は穴を掘って地中に逃れた。
 自衛隊機はしばらく裏山の上空を旋回していたが、やがて去った。
 自衛隊の地上部隊がやってきて、裏山を捜索したが、怪獣は地下深く潜って、なかなか見つからないようだった。
 怪獣の死が確認されないので、村人は帰ってこない。
 カナは管理人室でひっそりと暮らしつづけた。
 誰もカナを探しに来ない。
 彼女は実はひそかに怪獣を応援していた。
 ひとりきりで生きている怪獣に自分を重ね合わせていたのだ。
 負けるな怪獣。死ぬな怪獣。
 夏だった。
 蝉時雨を聴きながら、カナは怪獣の無事を祈っていた。

 怪獣と自衛隊機の戦いから2週間後、カナは裏山に入った。
 自衛隊の地上部隊は帰還して、いなくなっていた。
 頂上付近の林で、彼女は体長20センチぐらいの小さなセンザンコウを見つけた。
 鼻がなかった。
「おまえ、怪獣なのか?」
 センザンコウは草を食べるのに忙しく、反応がない。
 カナはこの子が元怪獣だと信じた。
 きっと小さく変化へんげしたのだ。
「しっかりお食べ」
 カナはセンザンコウをやさしく見つめた。
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