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戦う乳房
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増殖し、戦う乳房を購入した。犬猫屋で売っていた。
かなり珍しいものです、と店主は言っていた。私もこんなものを扱ったのは初めてです。
どこから手に入れたんだい、とたずねた。
南蛮人が、この陶磁の容器に入れたまま売ってくれました。取り扱いには注意してください、と言っていました。
注意するよ、とわたしは答えた。
ふたつの乳房。
雑食で、なんでもよく食べた。水を飲んだ。口なんてないのだが、ぷにっとした身体に取り込んで、食べものを溶かす。
やがて分裂して、四つに増えた。かわいい、と思った。
容器いっぱいになってしまったので、庭に放って飼った。
わたしはそれを充分に増やしてから、戦国時代に打って出た。
敵は侍たちだ。強い。
しかし、戦う乳房の軍団も強かった。
ぷにぷにと動き、敵軍を飲み込んでいく。
敵の人間たちを取り込んだ乳房たちは、さらに増殖し、うねうねとうごめいて進みながら、新たな敵を求めた。
戦う乳房はわたしの指示を必要としない。
勝手に戦ってくれる。
雨を飲み、川の水を飲み、植物や動物を溶かし、どんどんと増殖し、無数の乳房となって進軍していく。
わたしはその後をついて歩いていく。
戦は壮絶なものだった。
ぐにぐにぐにと不定形に伸びて進む乳房たちの軍団が、矢を放ち、刀をふるって襲ってくる侍たちの軍団と接触する瞬間、乳房たちは血を流す。だが、簡単には死なず、伸び上がって、人間を頭から丸飲みする。敵軍を全員飲んでしまえば勝ちだ。
飲み込まれる直前、敵兵の顔は恐怖で歪んでいる。
なにと戦っているのか、理解できないにちがいない。
柔らかそうな乳房たちに、もにゅっと吸収されて終わりだ。
勝った後、戦う乳房は容積を増やしている。
しだいに巨大化しながら、乳房たちは戦国で勝ち進んでいく。
侍たちの軍勢は鬨の声を上げながら突進する。一方の乳房軍は声を出すことはない。ふにゅふにゅふにゅと進んで、敵軍にふにゃりと触れて、一体化するようにして戦う。
飲み込む。取り込む。食べる。
やがて、国をひとつ滅ぼした。わたしの故郷の国だ。
戦う乳房は隣国の大名との戦いを始めた。
もみゅもみゅもみゅとかなり不気味に乳房たちは前へと動く。ものすごい大きさになっている。
敵の城をひと飲みにして、満足そうに侍たちを溶かしていった。
乳房たちを見ると、敵は恐慌を起こすようになった。
戦う前から逃げ出す敵も少なくない。
乳房たちは敵の領地を占領しながら、家畜を食い、畑の野菜を取り込み、さらに大きくなって、強くなっていく。
無敵なんじゃないか、とわたしは思った。
草原を食べ、林を飲み込み、そこにいた獣も食べて、乳房たちは増えに増え、とてつもなく大きくなる。巨大な波のようになる。
むにむにむにむに。隣の国にも勝ち、戦う乳房軍は二国を切り取った。
もうどのくらいの大きさになったのか、よくわからない。
わたしは戦国大名なのだろうか。
乳房たちの後ろから歩いているただのひとりの女にすぎないのだろうか。
戦う乳房の群れは前に進む。ひたすら進む。大地の上の生き物をすべて取り込んで進む。水たまり、池、沼、湖の水を飲んで進む。後には土と石しか残らない。
侍たちが消え失せるだけではない。百姓も商人も工人もいなくなる。女子どもも食われて死ぬ。家も溶かされる。本当に土と石だけしか残らないのだ。村や町も消える。
わたしは最後尾の乳房を包丁で切り、食べている。そしてなんとか生き延びている。戦う乳房の後を追うのは大変だ。
強力な戦国大名が、鉄砲隊の大軍を前衛にして、乳房たちと戦った。それには苦戦した。山のような乳房たちに無数の弾痕が開き、血しぶきが舞った。
しかし、戦う乳房の進撃は止まらなかった。
自らの血で赤く染まりながらも進み、ついに鉄砲隊にたどり着き、それを飲み込んだ。
鉄砲隊の後ろには槍隊がいた。
それは敵ではなかった。
あっという間に取り込んで、乳房たちは進んだ。
強力な戦国大名にも勝った。
敵の大将は、信じられない、という顔つきで立ち尽くしていた。むにゅーんと伸びて、乳房たちは敵将を食べた。織田信長とかいう大将は最後に、あ、と言ったかもしれない。
その後は早かった。
戦う乳房は幾何級数的に増えて、進行方向にあるすべての敵を飲み込んで、ついに天下の半分を統一した。
前方は海。
乳房たちはもにゅーんと反転した。
わたしは超巨大な戦う乳房たちと正対して、ヤバい、と感じた。
こいつらは別にわたしを飼い主とは認識していないと思う。
おっぱいに食われる。
わたしは走って逃げたが、逃げ切れないと知っていた。
戦う乳房の進行速度は意外と速いし、止まることがないのだ。
死んだな、わたし。
かなり珍しいものです、と店主は言っていた。私もこんなものを扱ったのは初めてです。
どこから手に入れたんだい、とたずねた。
南蛮人が、この陶磁の容器に入れたまま売ってくれました。取り扱いには注意してください、と言っていました。
注意するよ、とわたしは答えた。
ふたつの乳房。
雑食で、なんでもよく食べた。水を飲んだ。口なんてないのだが、ぷにっとした身体に取り込んで、食べものを溶かす。
やがて分裂して、四つに増えた。かわいい、と思った。
容器いっぱいになってしまったので、庭に放って飼った。
わたしはそれを充分に増やしてから、戦国時代に打って出た。
敵は侍たちだ。強い。
しかし、戦う乳房の軍団も強かった。
ぷにぷにと動き、敵軍を飲み込んでいく。
敵の人間たちを取り込んだ乳房たちは、さらに増殖し、うねうねとうごめいて進みながら、新たな敵を求めた。
戦う乳房はわたしの指示を必要としない。
勝手に戦ってくれる。
雨を飲み、川の水を飲み、植物や動物を溶かし、どんどんと増殖し、無数の乳房となって進軍していく。
わたしはその後をついて歩いていく。
戦は壮絶なものだった。
ぐにぐにぐにと不定形に伸びて進む乳房たちの軍団が、矢を放ち、刀をふるって襲ってくる侍たちの軍団と接触する瞬間、乳房たちは血を流す。だが、簡単には死なず、伸び上がって、人間を頭から丸飲みする。敵軍を全員飲んでしまえば勝ちだ。
飲み込まれる直前、敵兵の顔は恐怖で歪んでいる。
なにと戦っているのか、理解できないにちがいない。
柔らかそうな乳房たちに、もにゅっと吸収されて終わりだ。
勝った後、戦う乳房は容積を増やしている。
しだいに巨大化しながら、乳房たちは戦国で勝ち進んでいく。
侍たちの軍勢は鬨の声を上げながら突進する。一方の乳房軍は声を出すことはない。ふにゅふにゅふにゅと進んで、敵軍にふにゃりと触れて、一体化するようにして戦う。
飲み込む。取り込む。食べる。
やがて、国をひとつ滅ぼした。わたしの故郷の国だ。
戦う乳房は隣国の大名との戦いを始めた。
もみゅもみゅもみゅとかなり不気味に乳房たちは前へと動く。ものすごい大きさになっている。
敵の城をひと飲みにして、満足そうに侍たちを溶かしていった。
乳房たちを見ると、敵は恐慌を起こすようになった。
戦う前から逃げ出す敵も少なくない。
乳房たちは敵の領地を占領しながら、家畜を食い、畑の野菜を取り込み、さらに大きくなって、強くなっていく。
無敵なんじゃないか、とわたしは思った。
草原を食べ、林を飲み込み、そこにいた獣も食べて、乳房たちは増えに増え、とてつもなく大きくなる。巨大な波のようになる。
むにむにむにむに。隣の国にも勝ち、戦う乳房軍は二国を切り取った。
もうどのくらいの大きさになったのか、よくわからない。
わたしは戦国大名なのだろうか。
乳房たちの後ろから歩いているただのひとりの女にすぎないのだろうか。
戦う乳房の群れは前に進む。ひたすら進む。大地の上の生き物をすべて取り込んで進む。水たまり、池、沼、湖の水を飲んで進む。後には土と石しか残らない。
侍たちが消え失せるだけではない。百姓も商人も工人もいなくなる。女子どもも食われて死ぬ。家も溶かされる。本当に土と石だけしか残らないのだ。村や町も消える。
わたしは最後尾の乳房を包丁で切り、食べている。そしてなんとか生き延びている。戦う乳房の後を追うのは大変だ。
強力な戦国大名が、鉄砲隊の大軍を前衛にして、乳房たちと戦った。それには苦戦した。山のような乳房たちに無数の弾痕が開き、血しぶきが舞った。
しかし、戦う乳房の進撃は止まらなかった。
自らの血で赤く染まりながらも進み、ついに鉄砲隊にたどり着き、それを飲み込んだ。
鉄砲隊の後ろには槍隊がいた。
それは敵ではなかった。
あっという間に取り込んで、乳房たちは進んだ。
強力な戦国大名にも勝った。
敵の大将は、信じられない、という顔つきで立ち尽くしていた。むにゅーんと伸びて、乳房たちは敵将を食べた。織田信長とかいう大将は最後に、あ、と言ったかもしれない。
その後は早かった。
戦う乳房は幾何級数的に増えて、進行方向にあるすべての敵を飲み込んで、ついに天下の半分を統一した。
前方は海。
乳房たちはもにゅーんと反転した。
わたしは超巨大な戦う乳房たちと正対して、ヤバい、と感じた。
こいつらは別にわたしを飼い主とは認識していないと思う。
おっぱいに食われる。
わたしは走って逃げたが、逃げ切れないと知っていた。
戦う乳房の進行速度は意外と速いし、止まることがないのだ。
死んだな、わたし。
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