悪魔少女狩り

みらいつりびと

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第18話 居酒屋カノン ホーテとベール

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「夕食を一緒に食べよう。居酒屋カノンに行かないか」とダダはパンピーを誘った。
 カノンは村の中心市街地の商店街にある居酒屋だ。
「いいけど、あたしは未成年だから、お酒は飲めないわよ」
「ボクらも未成年だ。酒は飲まない。ぶどうやりんごのジュースを飲んでいるよ。ワインを飲んでいるのは、アモンだけだ」
「では、ご一緒させていただくわ」
 パンピーはダダと神聖少女騎士たちと夕食を取ることにした。
「あの、私は疲れているので、家に帰ってよろしいですか」とアモンが言った。
 彼はダダたちと行動を共にすることで、疲れ果てていた。毎日、殺人や戦闘や事件があり、心も身体もまいっている。ダダは精力的に悪魔少女狩りをしていて、休日もない。税金課長として部下をあごで使っていた頃に戻りたかった。
「いいよ。じゃあ明日の朝、またホテルのロビーに来てくれ」
「明日も狩りをするのですか?」
 アモンはもうこの仕事から解放されたいと思っていた。お金は稼げるが、ストレスが大きすぎて、精神的な病気になりそうだ。
「やるかもしれないし、やらないかもしれない。明日はデートしたいと思っている。もしパンピーちゃんが悪魔少女だったら、デートは狩りに変更だ。ふふっ。いずれにせよ、おまえも一緒に行動するんだよ。ボクらがこの村にいる間、ずっとおまえは案内係だ」
「や、休ませてもらえませんか?」
 アモンはおそるおそる言った。
「なんだと?」
「休日がほしいんです。この仕事で疲れてしまって……」
「だめだ」
 ダダは冷酷に断言した。
「おまえに金貨をいくら支払ってやったと思っているんだ。破格の報酬だぞ。この村での悪魔少女狩りが終わるまで、毎日働け。おまえはもうボクらと一蓮托生なんだよ。弱音を吐くな。命をかけて悪魔少女狩りに協力しろ。裏切ったり、怠けたりしたら殺すぞ」
 アモンは震え上がった。ダダの目はマジだ。逆らったら、本当に殺されるだろう。
「は、はい。ダダ様に尽くします」
「頼むよ。仕事がすべて終わったら、きみを昇進させるよう村長に頼んでやるからさ」
「ありがとうございます。それで、いつ頃終わる見込みなのでしょうか?」
 その言葉がダダの逆鱗に触れた。
「そんなことわかんねえよ! 誠心誠意働け! そうすりゃあ早めに終わるだろうさ」
「はいいっ! 一生懸命つとめます。今日のところは失礼します」
 アモンは頭を下げて、指揮棟の屋上から去っていった。
 案内係を脅かすダダを、パンピーは冷ややかに見つめていた。

 居酒屋カノンは1日の仕事を終えた酒好きたちで混んでいた。酔っ払いたちがわめいたり、愚痴を言ったりしている。アルコール臭と肉を焼く香ばしい香り。ビールやワインを注文する声。汗水たらして接客に邁進するウエイター。カノンの中は混沌とした雰囲気だ。
 ダダ、パンピー、シャン、ノナ、ユウユウはかろうじて空いていたテーブルに滑り込んだ。
 パンピーはきょろきょろと初めて来た店内を眺め回した。
「この店はアモンに教えてもらったんだ。料理が旨いから、酒を飲めなくても楽しめるよ。牛と豚の内臓焼きがおすすめだ」
「注文はまかせるわ」
 ダダはウエイターを呼び、牛の舌、心臓、肝臓、豚の頭、胃、子宮を頼んだ。飲み物は全員ぶどうジュース。
 すぐにジュースが運ばれてきた。
「ほわあ、これ美味しい。味が濃い!」
 パンピーが感嘆した。
「100パーセントぶどう果汁なんですよ。地元の農家で栽培したぶどうを使っています」とウエイターが説明した。
「そうなんですよ。うちの果樹園でできたぶどうです」
 そう言ったのは、酔客のひとりホーテ・ワイナーだった。殺された光の悪魔少女フルーテの父親。
「あっ、おまえらは悪魔少女狩り隊! うちのぶどうを飲むんじゃねえよ!」
「からむなよ。ボクたちは客だ」
「おまえらは娘の仇だ!」
「果樹園の娘はまごうことなき悪魔少女だった。恨むなら、あの子を生んだおまえの妻を恨め」
「殺したのはおまえらだ!」
「処刑すべき者を処刑しただけだ」
「フルーテはまだ8歳だったんだぞ。太陽を見るのが好きなだけのやさしい子だった。おれはおまえを許さない!」
 たちまち騒動が始まってしまった。パンピーはしらけて、ジュースを飲む気を失った。

 店内には医師ベール・コヤノもいた。娘ムーンを殺されている。
「ムーンは悪魔少女ではなかった」と言って立ち上がった。
「証拠もなくうちの子を斬殺したな。どう償ってくれるんだ?」
「償いなどしない。ボクは任務を遂行しただけだ」
「悪魔少女だったのなら、まだ納得できる。だが、ムーンは断じてそうではなかった」
「喜々として解剖を行っていた。悪魔の所業だ」
「娘は外科医になるための修行をしていただけだ」
 居酒屋カノンの中は騒然としてきた。
「悪魔少女狩り隊はマーロに帰れ!」
「村の平穏を乱すな!」
「人殺し!」
 酔っ払いたちが被害者の父親たちに同情して叫び出した。
 
「この村も居辛くなってきたな。だが、ボクは平民たちの数の圧力になど屈しはしない」
 ダダも立ち上がり、店内を睥睨した。
「聞け、敬虔なるバルーン唯神教徒たちよ!」と彼は大きな声を出した。よく通る美声だ。
「悪魔少女は殺人衝動を持っている。この世で起こる殺人事件の犯人はたいてい悪魔少女だ。地獄の悪魔の娘たちのしわざなのだ。悪魔は人間の女性の子宮に罠を仕掛け、悪魔少女を生ませる。その少女は人間ではなく、悪魔の娘だ。ボクたちは命がけで、悪魔少女と戦っている。ボクらが戦わなければ、この世は悪魔に支配されてしまうだろう。悪魔少女狩りを支援せよ。邪魔するやつはバルーン教皇国の敵だ!」
「神聖少女騎士も悪魔少女だと聞いたぞ!」と店内で誰かが叫んだ。
「彼女たちは正義の悪魔少女だ」とダダは即答した。
「悪魔少女に対抗するには、悪魔少女の力が必要だ。悪魔をもって悪魔を制する。教皇に忠誠を誓い、唯一神を信仰する悪魔少女は味方にする。それが我が国の戦略だ。悪の悪魔少女を滅ぼし、平和を取り戻すただひとつの方法なのだ。文句があるなら、教皇猊下に言ってみろ! ボクと同じ答えを仰せになるはずだ。ボクの邪魔をするな。悪魔少女狩り小隊は教皇の命令で動いているんだ!」
 
 店内は静まった。教皇猊下と言われて、反論できる者はめったにいない。
 ホーテ・ワイナーとベール・コヤノは支払いを済ませて去った。
 ダダは席に座り、内臓焼きを待った。しばらくして、熱々の焼肉が運ばれてきた。
 甘辛く味付けされたそれを「旨い!」と言いながら、ダダは食べた。シャンとノナは淡々と口に入れていた。
 パンピーは食欲をなくしていた。少しだけ食べてみたが、味がわからなかった。
 ユウユウはまったく手をつけなかった。
「美味しかったね」とダダが言い、「ええ……」とパンピーは曖昧に返事をした。
「明日もデートしよう。午前8時にラシーラグランドホテルのロビーに来てくれないか」
「いいわよ」
 虎の威を借る狐、とパンピーは思った。こんな男、早く殺したい。
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