作家志望愛詩輝の私小説

みらいつりびと

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へそ出しゴスロリ

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 数日間、藤原会長は村上劉輝くんを引き止め、退会を翻意させようとしたが、だめだった。 
 村上くんは退会届を会長に投げつけ、SF研を辞めた。
 火曜日、定例会。
「すまん。村上は正式に退会した。俺たちは6人で会を続けることになる」
「ボクの責任です」
「ちがう! 全責任は会長の俺にある。愛詩のシナリオを最初に認めたのも俺だ。中国人である村上を怒らせる要素があるのに気づけなかった。けじめとして、俺は頭を丸める」
「ちょっと、会長、やめてください」
「藤原、そこまですることはない。愛詩のシナリオは悪くない……。村上の地雷を踏んでしまったのは不運だった……」
「そうですよ。日本と中国の戦争を描くのは、そうなってほしくないからです。会長が坊主になるほどのことじゃない。あいつが話し合いにも応じずにやめた、それだけのことです」
「いや、だめだ。俺は髪を剃る。その上で、6人で『愛は理解不能』を撮影したい」
 藤原会長はポケットからバリカンを取り出した。
「愛詩、剃ってくれ。つるつるの頭にしてくれ」
「えっ? 今ボクが剃るんですか? 嫌ですよ。会長の黒髪、好きなんですから」
 ほんとに好きなんだ……。
「いいから、さっさと剃ってくれ!」
 会長の意志は固そうだ。ボクはバリカンのスイッチを入れた。
 ブーン、とバリカンが鳴る。
 艶々とした会長の長髪を、ボクは剃って行った。パサリ、と黒髪が落ちて、陽にまったく焼けていない青い頭皮が現れる。
 痛々しい。なんでボクは好きな人を坊主にしているんだ? 何の罰ゲームなんだ? やっぱり村上くんを怒らせた罰なのか?
「あ、ああ、会長の髪がぁ」ボクは泣きそうだった。
 会長は終始うつむいていた。ボクは剃り続け、ついに最後の髪も剃り落とした。丸坊主だ。
「どうだ、似合うか」
 会長も泣きそうになっていた。
 ぷっ、と土岐さんが吹き出した。全然似合ってなかった。
「あははははははは」土岐さんが笑い出した。
「わっはっはっはっ」と小牧さんも爆笑した。
「くくっ」と和歌さん。
「うひっ、ひひひひひ……」と尾瀬さんは変な笑い声を立てた。
 ボクも笑いが止められなくなってしまった。
「うくっ、あははははっ、あはっ、苦しい……」
「おっ、おまえら、笑うなぁっ」
 会長の怒鳴り声が可笑しくて、全員大爆笑した。
 その笑いで、わだかまりが吹っ飛んだ。
「はぁ、6人でやろうよ。な、みんな、チョコパイを食べなよ」
「『愛は理解不能』、絶対いい映画にしよう……」
「成功させましょう」
「ありがとう。やろう!」青々しい頭を光らせて、会長が言った。ボクは何かがこみ上げてきて、ついに涙が出た。
「ボクにも責任を取らせてください」
「いいよ、おまえはいいシナリオを書いたんだ。何の責任もない」
「じゃあ、いい映画を撮るために、貢献させてください。ボク、セクシーなスーツを着てもいいです」無意識に言ってしまった。
 土岐さんがわっ、と叫んだ。
「プラグスーツ! いや、まんまパクるわけにはいかないから、なんかセクシーなパイロットスーツ! 自分、コスプレやってる知り合いがいるから、頼んでみるよぉ」
 発言を後悔した。やっぱりそんなのは嫌だ。プラグスーツって、綾波レイや式波アスカが着ている水着みたいなやつだよね。いや、水着よりも恥ずかしいコスプレだ。でも、映画に貢献できるなら……くっ。
「土岐、やめてやれ」
「でも、SF映画にはセクシーな女の子が出ていてほしいですよぉ」
「わかった。愛詩、へそを出せ」
「へっ、へそ?」
「へそ出しゴスロリを着てくれ。責任を取って」
「か、会長、ボクには責任はないって言ったじゃないですか」
「村上が辞めた責任じゃない。軽率な発言をした責任だ。セクシーな服を着ろ」
「は……はい……」
 へそ出しゴスロリかぁ。藤原さんを悩殺してやる。
 って言いたいところだけど、ボクはそんなにスタイルはよくない。すらっとしてる少年体型だ。
「へそ出しゴスロリもいいなぁ」
 土岐さんはどうでもいいんだよ。
「会長、渋谷に買いに行くから、付き合ってください」
「え、へそ出しゴスロリ買うのに、俺も行くの?」
「映画の衣装なんだから、監督がお金出してください。あと、大切なことだけど、映画に合っているか確認してください」
「う、わかったよ」
 藤原さんと渋谷でデートだ。ファッションビルでへそ出しゴスロリを売っているかどうか、調べなくちゃ。
 大笑いして、デートの約束を取り付けて、村上くんのことが遠く思えるようになっちゃった。
 再出発だ。シナリオも登場人物を5人に変更しなきゃ。
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