57 / 78
第57話 お泊まり
しおりを挟む
夏休みの宿題が終わらない。
8月23日、24日、25日と宿題会はつづいたが、まだ半ばにもたどり着いていなかった。
英語と数学の問題集はやっと3分の1が終わったところ。
読書感想文と現代社会のレポートは手つかずのままだった。理科の宿題がないのが、せめてもの救いだ。
「時間が足りない。カズミ、夜もやらないと私たちの宿題は終わらない」
「じゃあ泊めて」
そんな成り行きで、カズミは8月26日から川村家に泊まり込むことになった。
その日、カズミは大きなリュックサックを背負って、川村家を訪問した。
リュックサックの中には、宿題、文房具、普段着の着替え、勝負下着の替え、寝間着、歯ブラシ、お気に入りの枕、おやつなどが入っている。勝負下着の替えは特に重要だ。どれもレースの下着で、色は白、黒、ピンク。いま穿いているのは水色。
「集中するよ」とカズミは自分に言い聞かせるように言った。
好きな人が目の前にいるので、集中が途切れがちなのだ。
数学の問題を解いていて、ふと目を上げると、そこに愛しの美沙希がいる。
美しい顔の輪郭、問題集に向けられた大きくて形の良い目、長い睫毛……。ああ、見惚れてしまう。
欲情してしまう……。抱きしめたい!
「集中、集中。宿題に集中」念仏のように唱えて、勉強をする。
夜遅く、美沙希のお父さんが帰ってきた。
「こんばんは。お邪魔してます。あたし、美沙希さんの友人で、琵琶カズミと言います」
カズミはあいさつして、頭を下げた。
「ああ、こんばんは」
父親は無関心そうにそれだけ言い、自室に入っていった。
「お父さんは私には一切の関心がないの」と美沙希は言った。
その言葉どおり、この父と娘の間では何の会話もなかった。あいさつすらない。「ただいま」も「おかえりなさい」も「おやすみ」も「おはよう」も何もないのだ。
ただ同じ家に住んでいるというだけ。心の交流は皆無。
川村家に泊まって、カズミはそれを知った。
琵琶家とは正反対だ。
カズミはお母さんと仲がよくて、よくおしゃべりをする。
自分がレズビアンであることは隠しているので、恋愛のことは話さないが、その他のことはなんでも話題にする。高校のこと、友人である美沙希のこと、釣りのこと、釣具店のアルバイトのこと、なんでも話す。
川村家にはなんの会話もない。
8月26日、27日、28日、29日とカズミは川村家にお泊まりした。
カズミの下着の色は水色から白、黒、ピンクと変わり、29日のお風呂の後、また最初の水色に戻った。もちろん洗濯している。
着替えのとき、美沙希はきわどい勝負下着にしっかりと目を奪われていた。
カズミは彼女の視線を意識していた。
見てる見てる……。もっと見ていいのよ!
数学と英語の問題集が終わり、ふたりはお互いの答案を写しあった。
残りは読書感想文と現代社会のレポートだ。
国語の宿題、読書感想文。日本文学と外国文学をひとつずつ書くこと。図書の選択は自由。それぞれ800字程度。
現代社会のレポート。お題は「日本国憲法と大日本帝国憲法の特徴」。1200字程度でまとめること。
なかなか重い宿題だ。本を2冊読まなければならないし、憲法をふたつ理解しなければならない。
夏休みは残りあと2日。
8月23日、24日、25日と宿題会はつづいたが、まだ半ばにもたどり着いていなかった。
英語と数学の問題集はやっと3分の1が終わったところ。
読書感想文と現代社会のレポートは手つかずのままだった。理科の宿題がないのが、せめてもの救いだ。
「時間が足りない。カズミ、夜もやらないと私たちの宿題は終わらない」
「じゃあ泊めて」
そんな成り行きで、カズミは8月26日から川村家に泊まり込むことになった。
その日、カズミは大きなリュックサックを背負って、川村家を訪問した。
リュックサックの中には、宿題、文房具、普段着の着替え、勝負下着の替え、寝間着、歯ブラシ、お気に入りの枕、おやつなどが入っている。勝負下着の替えは特に重要だ。どれもレースの下着で、色は白、黒、ピンク。いま穿いているのは水色。
「集中するよ」とカズミは自分に言い聞かせるように言った。
好きな人が目の前にいるので、集中が途切れがちなのだ。
数学の問題を解いていて、ふと目を上げると、そこに愛しの美沙希がいる。
美しい顔の輪郭、問題集に向けられた大きくて形の良い目、長い睫毛……。ああ、見惚れてしまう。
欲情してしまう……。抱きしめたい!
「集中、集中。宿題に集中」念仏のように唱えて、勉強をする。
夜遅く、美沙希のお父さんが帰ってきた。
「こんばんは。お邪魔してます。あたし、美沙希さんの友人で、琵琶カズミと言います」
カズミはあいさつして、頭を下げた。
「ああ、こんばんは」
父親は無関心そうにそれだけ言い、自室に入っていった。
「お父さんは私には一切の関心がないの」と美沙希は言った。
その言葉どおり、この父と娘の間では何の会話もなかった。あいさつすらない。「ただいま」も「おかえりなさい」も「おやすみ」も「おはよう」も何もないのだ。
ただ同じ家に住んでいるというだけ。心の交流は皆無。
川村家に泊まって、カズミはそれを知った。
琵琶家とは正反対だ。
カズミはお母さんと仲がよくて、よくおしゃべりをする。
自分がレズビアンであることは隠しているので、恋愛のことは話さないが、その他のことはなんでも話題にする。高校のこと、友人である美沙希のこと、釣りのこと、釣具店のアルバイトのこと、なんでも話す。
川村家にはなんの会話もない。
8月26日、27日、28日、29日とカズミは川村家にお泊まりした。
カズミの下着の色は水色から白、黒、ピンクと変わり、29日のお風呂の後、また最初の水色に戻った。もちろん洗濯している。
着替えのとき、美沙希はきわどい勝負下着にしっかりと目を奪われていた。
カズミは彼女の視線を意識していた。
見てる見てる……。もっと見ていいのよ!
数学と英語の問題集が終わり、ふたりはお互いの答案を写しあった。
残りは読書感想文と現代社会のレポートだ。
国語の宿題、読書感想文。日本文学と外国文学をひとつずつ書くこと。図書の選択は自由。それぞれ800字程度。
現代社会のレポート。お題は「日本国憲法と大日本帝国憲法の特徴」。1200字程度でまとめること。
なかなか重い宿題だ。本を2冊読まなければならないし、憲法をふたつ理解しなければならない。
夏休みは残りあと2日。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる