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第59話 2学期
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2学期が始まった。
1年1組のクラス委員長立花真央は、釣りばかりしている川村美沙希と彼女にかまけてばかりいる琵琶カズミが、きちんと夏休みの宿題を提出しているのを確認して、ほっとしていた。
相変わらずふたりの仲はいいようだ。
美沙希はほぼカズミとしか会話していない。
カズミは誰とでもフレンドリーに話すが、美沙希を特別に大切にしているようだ。
釣り雑誌の9月号にふたりの記事が載っていて、彼女たちはそれを眺めながら、楽しそうに話していた。
真央は自分が美沙希とカズミを気にしていることに気づいていた。
美沙希がクラスの中で浮いていて、カズミがそんな彼女の友だちだから、ふたりを気にかけているのだと思っていた。
でもどうやらちがうようだ、と思うようになってきた。
真央が本当に気になっているのは、琵琶カズミだった。
川村美沙希を大切にし、彼女に尽くし、愛おしんでいるようなカズミの姿を見て、なんてやさしい子なんだろうと思う。
気がつくと、カズミを目で追っている自分に気づいて、愕然とすることがある。
美沙希とカズミには勉強を教えて、ふたりとはそれなりに仲よくなっていた。
ふつうに話すことができる程度には。
しかしあのふたりの異常なほどの仲のよさに割って入ることはできていない。
カズミにはそっけない態度を取ってしまうことが多い。
そのたびに真央は少し落ち込んでいた。
もっとカズミと仲よくなりたい……。
10月第2週の土曜日と日曜日には文化祭がある。
1年1組も何か出し物をやらなければならない。
真央は文化祭を通じて、美沙希がもっとクラスに馴染み、そして自分とカズミが仲よくなれる方法を考えていた。
9月初旬のロングホームルームでは、真央が議長になって、クラスで文化祭について話し合った。
「はい、みんな、こっちに注目して。うちのクラスが文化祭で何をやるか決めるよ。まずは、案を出してほしいの。考えがある人は挙手してね」
クラスの中はシーンとしていた。
真央以外に、クラスの面倒事に積極的になれるような人物はいないのだ。
彼女は野球部の胡桃沢翔に声をかけた。
「胡桃沢くん、何かアイデアはないかな?」
「うーん、お化け屋敷とか?」
「いいけど、お化け屋敷をきちんとつくるのは、けっこう大変なのよ。みんな、やる気はある?」
シーン。反応なし。
次に、釣りが趣味の佐藤拓海に声をかけた。
「佐藤くん、何か案を出してよ」
「おれ、釣りのことしか考えてないから。わかんねえよ」
「釣りか。釣りね……。カズミと美沙希も釣りをやるよね?」
突然話を振られて、美沙希は緊張した顔になり、カズミは「うん、まあね」と答えた。
「あなたたち、釣り雑誌に記事が載るほどのすごい釣り人なんでしょう?」
「美沙希がすごいのよ。あたしはつきそいみたいなもの。この子は釣りの天才よ。きっと将来、釣りで有名になるわ」
「ちょっと、やめて、カズミ。私は天才じゃないし、有名になんてなりたくない……」
「わかったわ。とにかく、うちのクラスには釣りをやり込んでいる人が3人いる。しかもそのうちのふたりは雑誌に載るほどの釣り人。これを文化祭に活かさない手はないと思うの」
クラスの全員が興味を持って真央を見つめた。
美沙希は自分が文化祭に巻き込まれそうになっているので、怯えていた。
カズミは、面白いかも、と思っていた。美沙希が文化祭で成長できるなら、自分はなんでもやる。
佐藤は、どうでもよさそうな顔をしていたが、少しだけ口角が上がっていた。
「文化祭で釣りの展示をやるのはどうかしら。このイタコ市は釣りが盛んみたいだしさ。釣り具を展示したり、釣りの記事を書いたり、写真を貼ったりした模造紙を掲示して、釣りについての発表をするの」
「だめだめだめ、そんなの、面白くないよ……」
美沙希は激しく首を振った。
真央はカズミの目を力強く見つめた。
「わたしが強力にバックアップするわ。どんなことでも手伝う。だから、カズミと美沙希が文化祭実行委員になってくれないかな。釣りガールズ、ひと肌脱いでよ」
「嫌よ!」
「いいわよ」
「カズミ!」
「美沙希、あたしがほとんど全部やるよ。あなたは展示物を貸したり、あたしの手伝いを少しやってくれたりするだけでいい。やってみようよ」
美沙希はまだ怯えていた。
カズミは彼女の美しい目を見つめていた。
真央はふたりを羨ましそうに眺めていた。
「やってみろよ。おれも手伝う」
「やってよ、琵琶さん、川村さん」
クラスの雰囲気が、釣り展示でいいんじゃないかというふうになってきた。文化祭の中心人物にならずに、楽ができるから……。
美沙希はその流れに抵抗できるような力を持っていない。
「美沙希、あたしがいるから、だいじょうぶだよ!」
「美沙希、クラス委員長として、責任を持って助けるから!」
「うう……。わかった。やる……」
美沙希は涙目になっていた。
こうして、1年1組は文化祭で釣り展示をやることになった。
1年1組のクラス委員長立花真央は、釣りばかりしている川村美沙希と彼女にかまけてばかりいる琵琶カズミが、きちんと夏休みの宿題を提出しているのを確認して、ほっとしていた。
相変わらずふたりの仲はいいようだ。
美沙希はほぼカズミとしか会話していない。
カズミは誰とでもフレンドリーに話すが、美沙希を特別に大切にしているようだ。
釣り雑誌の9月号にふたりの記事が載っていて、彼女たちはそれを眺めながら、楽しそうに話していた。
真央は自分が美沙希とカズミを気にしていることに気づいていた。
美沙希がクラスの中で浮いていて、カズミがそんな彼女の友だちだから、ふたりを気にかけているのだと思っていた。
でもどうやらちがうようだ、と思うようになってきた。
真央が本当に気になっているのは、琵琶カズミだった。
川村美沙希を大切にし、彼女に尽くし、愛おしんでいるようなカズミの姿を見て、なんてやさしい子なんだろうと思う。
気がつくと、カズミを目で追っている自分に気づいて、愕然とすることがある。
美沙希とカズミには勉強を教えて、ふたりとはそれなりに仲よくなっていた。
ふつうに話すことができる程度には。
しかしあのふたりの異常なほどの仲のよさに割って入ることはできていない。
カズミにはそっけない態度を取ってしまうことが多い。
そのたびに真央は少し落ち込んでいた。
もっとカズミと仲よくなりたい……。
10月第2週の土曜日と日曜日には文化祭がある。
1年1組も何か出し物をやらなければならない。
真央は文化祭を通じて、美沙希がもっとクラスに馴染み、そして自分とカズミが仲よくなれる方法を考えていた。
9月初旬のロングホームルームでは、真央が議長になって、クラスで文化祭について話し合った。
「はい、みんな、こっちに注目して。うちのクラスが文化祭で何をやるか決めるよ。まずは、案を出してほしいの。考えがある人は挙手してね」
クラスの中はシーンとしていた。
真央以外に、クラスの面倒事に積極的になれるような人物はいないのだ。
彼女は野球部の胡桃沢翔に声をかけた。
「胡桃沢くん、何かアイデアはないかな?」
「うーん、お化け屋敷とか?」
「いいけど、お化け屋敷をきちんとつくるのは、けっこう大変なのよ。みんな、やる気はある?」
シーン。反応なし。
次に、釣りが趣味の佐藤拓海に声をかけた。
「佐藤くん、何か案を出してよ」
「おれ、釣りのことしか考えてないから。わかんねえよ」
「釣りか。釣りね……。カズミと美沙希も釣りをやるよね?」
突然話を振られて、美沙希は緊張した顔になり、カズミは「うん、まあね」と答えた。
「あなたたち、釣り雑誌に記事が載るほどのすごい釣り人なんでしょう?」
「美沙希がすごいのよ。あたしはつきそいみたいなもの。この子は釣りの天才よ。きっと将来、釣りで有名になるわ」
「ちょっと、やめて、カズミ。私は天才じゃないし、有名になんてなりたくない……」
「わかったわ。とにかく、うちのクラスには釣りをやり込んでいる人が3人いる。しかもそのうちのふたりは雑誌に載るほどの釣り人。これを文化祭に活かさない手はないと思うの」
クラスの全員が興味を持って真央を見つめた。
美沙希は自分が文化祭に巻き込まれそうになっているので、怯えていた。
カズミは、面白いかも、と思っていた。美沙希が文化祭で成長できるなら、自分はなんでもやる。
佐藤は、どうでもよさそうな顔をしていたが、少しだけ口角が上がっていた。
「文化祭で釣りの展示をやるのはどうかしら。このイタコ市は釣りが盛んみたいだしさ。釣り具を展示したり、釣りの記事を書いたり、写真を貼ったりした模造紙を掲示して、釣りについての発表をするの」
「だめだめだめ、そんなの、面白くないよ……」
美沙希は激しく首を振った。
真央はカズミの目を力強く見つめた。
「わたしが強力にバックアップするわ。どんなことでも手伝う。だから、カズミと美沙希が文化祭実行委員になってくれないかな。釣りガールズ、ひと肌脱いでよ」
「嫌よ!」
「いいわよ」
「カズミ!」
「美沙希、あたしがほとんど全部やるよ。あなたは展示物を貸したり、あたしの手伝いを少しやってくれたりするだけでいい。やってみようよ」
美沙希はまだ怯えていた。
カズミは彼女の美しい目を見つめていた。
真央はふたりを羨ましそうに眺めていた。
「やってみろよ。おれも手伝う」
「やってよ、琵琶さん、川村さん」
クラスの雰囲気が、釣り展示でいいんじゃないかというふうになってきた。文化祭の中心人物にならずに、楽ができるから……。
美沙希はその流れに抵抗できるような力を持っていない。
「美沙希、あたしがいるから、だいじょうぶだよ!」
「美沙希、クラス委員長として、責任を持って助けるから!」
「うう……。わかった。やる……」
美沙希は涙目になっていた。
こうして、1年1組は文化祭で釣り展示をやることになった。
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