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「ミツ、それは依存ではない。」
隣の部屋から茶色の鞄を持ってきてくれ、それを渡しながらイチが言った。
「きっと、みんなどこかが欠けているから。
だからこそ、誰かと一緒になる。
そして、誰かと重ね合わせて、1つの真ん丸・・・1人の人間として成立させればいいから。」
「イチ・・・。」
イチがクマのぬいぐるみ・・・私の、私達の赤ちゃんを持ってきた。
「ミツが教えてくれた。
欠けている物ばかりの僕に。
ミツの名前も覚えられないくらいに、欠けている僕に。」
イチから渡されたクマのぬいぐるみを優しく抱き締める。
この約半年間、妊娠しなくても・・・私もイチもこのクマのぬいぐるみを赤ちゃんのように接していた。
それで・・・幸せだと思えていた。
「サチ、病院遅くなっちゃう!」
「ミツ、行こう。」
「幸子ちゃん、僕の病院だから車で一緒に行こう!」
お母さんと、イチと、お父さん・・・。
3人とも、私を別々の名前で呼ぶ。
お母さんは、“サチ”と。
イチは、“ミツ”と。
お父さんは、“幸子”ちゃんと。
私の名前は、幸子。
“幸満つる子で、幸子”。
3人の呼び方が重なって、私の“名前”は成立したのかもしれない。
手を繋ぎ、一緒に玄関まで向かってくれるイチ。
ボロボロでもヨレヨレでもなく、結婚してから“普通”の・・・格好良い男の人になったイチ。
「イチって・・・何で“博士”って呼ばれてるの?」
「大学院で修士課程だけでなく博士課程を終了し、博士の学位を取得しているからだと推測している。
友人の中でそこまで取得したのは僕だけだから。」
「大学院って、あの・・・国立で1番の大学の大学院・・・?」
「うん。」
「でも、教授をしてる大学って私立大学だよね?」
「そっちの方が自由度が高いから。
企業の社外取締役としても就任する必要があった。」
イチが・・・
本当の意味でも“博士”でもあったイチが・・・
格好良い顔で、私を見下ろす。
「いつも“何でも言うように”って言われているから、これも言った方がいいのか・・・。」
「なに?」
「お腹の中の子、双子の可能性も確率的にあり得る。
予想や予測ではなく、心の準備というものはしておいて欲しい。」
その言葉には、驚き・・・。
「出来れば・・・数字が入る名前を付けたい。
ミツがそれでいいなら。」
「うん。そうしよう。」
クマのぬいぐるみも一緒に、お父さんが運転してくれる車に乗り込んだ。
お母さんが見送ってくれる。
イチが、隣で手を繋いでくれる。
私がずっと恋をしていた、“博士”でもあるイチ・・・
結婚しても名前を覚えてくれなかったけど・・・
それでいい。
それで、いい。
私の名前は、幸子。
“サチ”“ミツ”る子で、“幸子”。
end.......
隣の部屋から茶色の鞄を持ってきてくれ、それを渡しながらイチが言った。
「きっと、みんなどこかが欠けているから。
だからこそ、誰かと一緒になる。
そして、誰かと重ね合わせて、1つの真ん丸・・・1人の人間として成立させればいいから。」
「イチ・・・。」
イチがクマのぬいぐるみ・・・私の、私達の赤ちゃんを持ってきた。
「ミツが教えてくれた。
欠けている物ばかりの僕に。
ミツの名前も覚えられないくらいに、欠けている僕に。」
イチから渡されたクマのぬいぐるみを優しく抱き締める。
この約半年間、妊娠しなくても・・・私もイチもこのクマのぬいぐるみを赤ちゃんのように接していた。
それで・・・幸せだと思えていた。
「サチ、病院遅くなっちゃう!」
「ミツ、行こう。」
「幸子ちゃん、僕の病院だから車で一緒に行こう!」
お母さんと、イチと、お父さん・・・。
3人とも、私を別々の名前で呼ぶ。
お母さんは、“サチ”と。
イチは、“ミツ”と。
お父さんは、“幸子”ちゃんと。
私の名前は、幸子。
“幸満つる子で、幸子”。
3人の呼び方が重なって、私の“名前”は成立したのかもしれない。
手を繋ぎ、一緒に玄関まで向かってくれるイチ。
ボロボロでもヨレヨレでもなく、結婚してから“普通”の・・・格好良い男の人になったイチ。
「イチって・・・何で“博士”って呼ばれてるの?」
「大学院で修士課程だけでなく博士課程を終了し、博士の学位を取得しているからだと推測している。
友人の中でそこまで取得したのは僕だけだから。」
「大学院って、あの・・・国立で1番の大学の大学院・・・?」
「うん。」
「でも、教授をしてる大学って私立大学だよね?」
「そっちの方が自由度が高いから。
企業の社外取締役としても就任する必要があった。」
イチが・・・
本当の意味でも“博士”でもあったイチが・・・
格好良い顔で、私を見下ろす。
「いつも“何でも言うように”って言われているから、これも言った方がいいのか・・・。」
「なに?」
「お腹の中の子、双子の可能性も確率的にあり得る。
予想や予測ではなく、心の準備というものはしておいて欲しい。」
その言葉には、驚き・・・。
「出来れば・・・数字が入る名前を付けたい。
ミツがそれでいいなら。」
「うん。そうしよう。」
クマのぬいぐるみも一緒に、お父さんが運転してくれる車に乗り込んだ。
お母さんが見送ってくれる。
イチが、隣で手を繋いでくれる。
私がずっと恋をしていた、“博士”でもあるイチ・・・
結婚しても名前を覚えてくれなかったけど・・・
それでいい。
それで、いい。
私の名前は、幸子。
“サチ”“ミツ”る子で、“幸子”。
end.......
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