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瞳ちゃんが可愛く瞬きをしながら笑い、空のグラスにアイスコーヒーを注いだ。
それから、牛乳も・・・ガムシロップも・・・。



あたしはそれを無言で見詰める。
瞳ちゃんも無言で・・・空気はとにかく柔らかい空気で・・・。



泣きたくなるくらい柔らかい空気で・・・。
剛士の奥さんになれた人だった・・・。
この子は、あんなに難しい剛士の奥さんになれた人だった・・・。



そんな瞳ちゃんが、「あ!」と声を上げ照れた顔で笑った。



「混ぜるやつ忘れちゃいました!!」



本気の空気でそう言っていて、あたしは思わず本気で笑ってしまった。



「あたし取りに行ってくるから、瞳ちゃんは座ってて~!!」



「いえ、いりません。
きっと混ぜても“木葉さん”の好きなコーヒー牛乳の味にはならないと思いますし。」



瞳ちゃんがそんなことを言って、何も混ざっていないままのグラスを両手で持った。



「コーヒー牛乳です。
今日は“友達”の剛士君に会いに来たのに、私でごめんなさい。
でも、旦那さんである剛士君の“友達”の“木葉さん”と、あたしも“友達”になりたいとずっと思ってきました。」



「それは嬉しい~!!」



「はい、なので“薬”を入れておきました。」



「うちの会社の珈琲店の店長が入れる有名な“薬”ね~!!
あたしには何の“薬”を入れてくれたんだろう!?」



あたしが聞くと、瞳ちゃんは可愛い可愛い笑顔で笑い・・・何も混ざっていないコーヒー牛乳を差し出してきた。



「コーヒー牛乳に“心を開く薬”を入れておきました!!」



そんなことを言ってきた・・・。
瞳ちゃんがそんなことを言ってきた・・・。



「私は出産間近ですが、剛士君と付き合う日数もほぼないまま結婚をして、すぐに妊娠をして。
なので、私に教えてくれませんか?」



「・・・あたしに教えられることなんてあるかな~!!」



「あります、旦那さんである剛士君の“友達”の“木葉さん”だけが教えてくれることが。」



瞳ちゃんが可愛く瞬きを繰り返しながらあたしを見詰め、両手に持った全然混ざっていないコーヒー牛乳をもっと近づけてきた。



そして、柔らかい空気であたしを包んでくれた。



「“友達”とする“恋バナ”の楽しさを私に教えてくれませんか?
私は“友達”と“恋バナ”もしたことがなくて・・・。」



それには自然と笑ってしまい、近付けてきた全然混ざっていないコーヒー牛乳を受け取った。



「大丈夫です、“心を開く薬”を入れておきましたから。
だから、私に教えてくれませんか?
“友達”の剛士君の妻ですが、私と“友達”になって・・・“恋バナ”の楽しさを教えてくれませんか?」



それに私は笑いながら頷き、何も混ざっていないコーヒー牛乳を一口飲んだ。
そして、無意識に顔を歪めてしまったのに気付いた。
誰かの前で顔を歪めたのは人生で初めてだった・・・。



それくらいに、このコーヒー牛乳は・・・



「全然美味しくない・・・。」



そんな本当のことを言ってしまったあたしに、瞳ちゃんは楽しそうな空気で笑った。



「美味しいコーヒー牛乳は・・・大好きなコーヒー牛乳はどこで、誰が作ってくれたコーヒー牛乳なんですか?」



瞳ちゃんがそう言って、あたしの唇にゆっくりと手を伸ばし・・・上唇の上に少しだけ触れた。



「飲み終わった後、剛士君とソックリですね。
少しついていました、“明ちゃん”。」



瞳ちゃんあたしを“明ちゃん”と・・・。
“明ちゃん”と呼んだ・・・。



そんな瞳ちゃんを見ながら、あたしは口を開いた。
そしてきっと、心も開いた・・・。



“友達”の剛士の家の珈琲店、その貸し切りは凄かった。
そして、“友達”は・・・“女友達”は凄かった・・・。



“女友達”はこんなことまで出来る・・・。
オーシャンがあたしにそう言った気持ちが分かった・・・。



“女友達”は凄い・・・。
本当に、凄い・・・。



人生で初めて、あたしの心を開いてしまった・・・。



口が開くより先に、涙が止まらなくなってしまった・・・。



今までの苦境、その時に泣かずに明るく楽しく笑っていた分、その時の涙が今一気に流れ出したくらいに・・・



涙が止まらなくなった・・・。



あたしは泣きたかった・・・。



あたしは本当は泣きたかった・・・。



だって、あたしは“女の子”だったから・・・。



だから、本当はあんなに強くはないから・・・。



本当はずっとずっと・・・



ずっとずっとずっと・・・



苦境の時は泣いてしまいたかった・・・。
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