【完】可愛くて美味しい真理姉

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
164 / 280
9

9-12

しおりを挟む
「送ってくれてありがとう。」



「うん・・・。」



社宅のマンションの前で向かい合い、私は和君にお礼を言った。



なんだか・・・“女の子”みたいだった・・・。



家の前まで男の人に送って貰えるなんて、なんだか“女の子”になれたみたいだった。



全然違う・・・。



“岩渕さん”だった頃と、全然違う・・・。



それはそうで・・・。
あの頃は、和君の“正義”で私と一緒にいてくれただけで・・・。



こんな目で見てくれていなかった・・・。
あの頃は、ここまで熱い眼差しで見てくれたことなんてなかった・・・。



きっと、なかった・・・。



可愛いから・・・。



今の私は、“可愛い私”だから・・・。



可愛い女の子にはこんな瞳をするらしい・・・。



こんな瞳で・・・



連絡先を聞いてくれて・・・



“また会いたい”と言ってくれて・・・



家の前まで送ってくれるらしい・・・。



その事実を知って・・・



苦しくてなった・・・



悲しくなった・・・



悔しくなった・・・



“岩渕さん”はやっぱり泣きそうになった・・・。



でも、天国のお母さんに見えるように顔を上げ続ける。
初めて男の人に送って貰った、“可愛い私”が見えるように、顔を上げ続ける。



「おやすみなさい。」



和君にそう言って笑い掛ける。
なのに・・・和君は何も言ってくれなくて・・・。



真剣な顔で・・・熱い眼差しで、私を見詰めてきて・・・



「まだ・・・寝ないで・・・。」



と・・・。
しおりを挟む

処理中です...