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このおじいさんには申し訳ないけれど、試させてもらった。
抑え込む力はないとしても、その“目”はまだ生きているのか試させてもらった。



俺は・・・俺と長峰は、高みを目指さなければいけないから。
それはこの会社でなくなっていい。



和の会社にだって何度も誘われていた。
なんなら、藤岡社長にだって何度も誘われていた。



でも、俺と長峰は須崎社長と板東社長の元に歩いた。



時代の先を見に、この会社まで歩いてきた。



そして、俺も長峰も秘書になった。



須崎社長でも板東社長でもなく、このタイミングで松居会長が俺と長峰を秘書にしたと聞いた。



だから、試させてもらう。



このおじいさんの“目”がまだ生きているのか、試させてもらう。



そのつもりで松居会長に聞いたら、松居会長は俺の胸の辺りを見ることもなく答えた。



「商店街に並ぶ雪だるまを持ってる。」



自分から聞いたのに、それには驚く。



そんな俺を松居会長は鋭い目で見上げてきた。



その目は須崎社長とよく似ている。
須崎社長よりも、それよりも鋭い。



まるで、人1人どころか何人も、何十人も、何百人も殺したことがあるような目で。



「普通の雪だるまじゃない、まるで化粧をさせたみたいな雪だるま。」



「はい、そうです・・・。
化粧をさせました・・・。」



「長峰と一緒に?」



「須崎社長や板東社長から聞きましたか?」



「聞いてない。
俺は見えても普段は干渉しないことにしているから。
見えいてることによって難しくなってしまうこともあるからな。」



「そうですか・・・。
長峰も商店街の雪だるまを持ってるということですか?」



「そうだな、持っている。」



それを聞き嬉しい気持ちにもなりながら、俺は聞いた。



「僕、それだけですか?
他には何か持っていませんか?」



そう言いながら右手で自分の胸の真ん中をおさえた。



あの日の正仁さんの右手の熱を思い出しながら、おさえた。



松居会長は俺の胸の辺りをジッと見て、すぐに口を開いた。



「それだけだな。
でも、それだけでも持っている人はなかなかいない。
そんなにクッキリとハッキリ、持っている人はなかなかいない。」



そう言われ・・・



そう言ってくれ・・・。



でも、俺は嬉しくなかった。
何も嬉しくなかった。



俺はこの胸に長峰を持つことは出来なかったらしい。
常にこの胸に雪の枝という宝剣があるよう、あの日正仁さんが武器を与えてくれてのに。



でも、俺のこの胸には入ってくれなかった・・・。



長峰は、俺の胸の中にはいなかった・・・。
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