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そしたら、竜さんが号泣した。
何を言っているのか何も聞き取れなかったけど、たまに「鮫島せんぱい」と叫んでいるのは何となく分かった。



大号泣する竜さんのことをオババせんぱいが小さく笑いながら見ている。



「不倫なんてするわけないでしょ、私だってこの商店街が大好きなのに。
この商店街は浮気や不倫をした人間は足を踏み入れることが出来ないんだから。
須崎って本物に頭も心も空っぽだよね。」



「・・・それは!!!俺の台詞だよ!!!
何で早く言わない!!!!
佐竹とやってなかったって何で早く言わない!!!!
離婚話になっても言わなかっただろ!!!
離婚してからも言わなかっただろ!!!
何で早く言わない!!!!」



「自分は散々可愛い女の子達に声を掛け続けてたのに私にだけそんなこと言ってこないでよ。
どうせ私は須崎より大きいし化粧をしても可愛い顔じゃないし素顔なんて“のっぺらぼうのタマゴ”だし。
夫婦でいるのに疲れちゃった、結婚生活をしてるのに疲れちゃったの。
子ども達の良いお父さんではいてくれてるから、それでもういいかなって思った。
子ども達のお父さんとお母さんでいる時間は凄く幸せで。
あなたから聞こえてくる言葉はいつも綺麗な言葉だったから、凄く幸せで。」



「それはそうだろ・・・。
子ども達には綺麗な言葉が残るようにって、鮫島せんぱいと約束したから。」



竜さんが号泣しながら鮫島光一を見た。



「鮫島せんぱいと約束したから、俺は守り続けた。
2人とも佐竹の子どもだと思いながらも俺は子ども達に残し続けた。
お父さんとお母さんから聞こえてくる言葉が綺麗な言葉であるように、俺は残し続けた。
喧嘩は2人の時だけにしてた、ちゃんと。
死んだとしても鮫島せんぱいは俺の永遠のせんぱいだから。」



竜さんがそう言って、座ったままゆっくりとオババせんぱいの方を向いた。



「セックスも結婚も簡単に出来る男に育ててやるって言われたんだ、鮫島せんぱいに。
その通り、俺はすぐにお前とセックスが出来たし結婚まで出来た。
でも、離婚して・・・俺に再婚まで出来るような教育をするよりずっと前に鮫島せんぱいは向こうに泳いでいった。」



泣きながら、でも真剣な顔でオババせんぱいを見詰めながらそう言った後、ゆっくりと身体を動かして土下座をした。



「でも、ちゃんと来てくれた。
信じられないことに、鮫島せんぱいは生きてた。
病室で何度も何度も鮫島せんぱいに伝えてた。
だからちゃんと俺の元までもう1度泳いで来てくれた・・・。
珠緒・・・」



竜さんがオババせんぱいを珠緒と呼ぶとオババせんぱいは竜さんにゆっくりと向き合った。



そのタイミングで、竜さんは言った。



「俺ともう1度結婚してください。」



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