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601号室のリビングの中、電気も付けずに壁にいる“カヤ”を見る。
窓から入る夜の灯りで“カヤ”が照らされる。



ステンドグラスの世界の中、“カヤ”の唇を右手の指先で少しだけ触れた。



「“カヤ”、ここにいたのか・・・。」



だから外の世界にはいなかった。
“カヤ”はここにいたから外の世界では見えなかった。



俺の“本当に好きな女の子のカヤ”はここにいた。
ずっとここにいた。



だからさっき会った女の子は“カヤ”ではない。



“カヤ”ではなかった。



だから会えてしまったんだと思う。
あの女の子は“カヤ”ではなかったから、あんな場所で会えてしまったんだと思う。



ビールを美味しそうに飲むあの女の子の姿を少しだけ思い出してしまい、慌てて“カヤ”の唇に自分の唇を付けた。



「何してるんだろうな、俺・・・。」



自分でも自分がおかしいことをしていると分かっている。



分かってはいるけど・・・



分かってはいるけど・・・



「俺も“普通”じゃなくなったな・・・。」



そう呟き、今晩も現れた“夏の夜”の“カヤ”を見る。



「“普通”ではない絵を描けるなら、俺は“普通”じゃなくていい・・・。」



今晩も赤いワンピースを着ている、俺のタイプど真ん中の“カヤ”のワンピースを脱がしていく。



「“カヤ”・・・。」



“カヤ”の名前を呼ぶと、今日も身体中に熱が回る。
熱すぎる熱が俺の魂までも焦がしていく。



壁にいる“カヤ”が俺を見詰め続ける中、妄想の中の“カヤ”と今晩もセックスをしていく。



「明日、カヤに伝えたいことがあるから・・・。
だから朝が来ても消えないで・・・。」



いつもいつも“夏の夜”の“カヤ”は朝が来るといなくなってしまう。
そして“あの頃”の“カヤ”が現れてくる。



でも俺はもう大人だから・・・。



“あの頃”の“カヤ”に告白をするなんてことはもう出来ない・・・。



「“カヤ”、あのさ・・・」



“カヤ”とセックスをしながら今晩も告白しようとする。



でも、やっぱり今日も出来なくて・・・。



告白をしてしまったらもう会ってくれないように思う。
だから高校の卒業の日、カヤは俺の前からいなくなってしまった。



女の子としてカヤのことを好きになってしまったから。



「画家になんてならなくてもよかった・・・。
カヤと一緒にいられればそれでよかった・・・。
ネコでも友達でも、何だってよかった・・・。」



今晩も“カヤ”に告白をすることなく、“カヤ”とセックスをしていく・・・。
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