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「お疲れ様!」



営業部男性社員の人気メニュー、カツカレーを嬉しそうに持っている青田さんが、わたしと新卒の2人が座っている席に来た。



「お疲れ様です・・・。」



わたしが小さな声で言った挨拶は、若い子2人の挨拶に掻き消されていた。



「水沢さんのお弁当、今日もすげー美味しそう!!」



そう言いながら、空いていたわたしの隣に青田さんも座ってしまう。



「えーー!!青田先輩とのんちゃん先輩って、お知り合いなんですか!?」



「うん、経理部には頭上がんないから!」



青田さんの大きな笑い声と、女の子達の嬉しそうな声が聞こえる。



「でも、きみ達、先輩に“のんちゃん”はよくない。
ちゃんと水沢先輩とか、水沢さんがOK出したら“和(のどか)先輩”とかにしないと!」



そう、若い子2人に言ってくれた・・・。




「え~!!でも、みんなのんちゃんって言ってるし・・・」


「のんちゃん先輩って、見るからに“のんちゃん先輩”だし・・・」



そう言う若い子2人の言い分に、わたしも苦笑いしてしまう。



「でも、よくないから!
仕事が本格的に始まって水沢さん見てたら分かると思うけど、水沢さんすげー仕事出来るから!
しかも、仕事してる時、すげー怖いから!!」


「そうなんですか!?」


「すげー怖いよ、俺でも怖くてビビったから!」


「そうなんだ・・・」



と、変な誤解を若い子2人にさせていき・・・



「じゃあ、和先輩って呼ばせてもらってもいいですか?」



と、若い子2人が少しビクビクとしながらわたしに聞いてきて。
わたしは少し面白くて、笑いながら頷いた。




「あ、これあげる!
さっきアポ取ってたお客さんの所に行ったら貰ったんだ。」




そう言って、ポケットから緑色の箱のチョコレートを取り出した。




そして、わたしのお弁当箱の横に置く。




「あー!そのビターチョコレート美味しいですよね!!」



「私も食べた~い!!和先輩、ビターチョコレートとか食べられるんですか?」



そう言いながら、サッと箱を取っていかれて・・・



その瞬間、右隣から大きな手が現れて、その箱を掴んだ。




「お~い、君たち、ちゃんと水沢さんにOK貰ってから!!
勝手に取らない!!」



言っている内容は結構ビシッとした内容だけど、大きな声でキッパリ言い切る言い方が良いのか、怖いとはあまり思わない。
むしろ、言葉だけがストレートに心にちゃんと残る。




流石だな、と思う。
入社2年目から、営業部のエース・・・




「はい、あげる。」



と、緑色の箱のチョコレートを、今度はわたしの手に向かって渡してきた。



少し悩んだけど、わたしはその箱を受け取った。
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