【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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大急ぎで玄関まで迎えに行く。
長い長い廊下を大急ぎで走り、玄関に座り込み俯いている武蔵の後ろ姿に向かって声を掛けた。



「武蔵!!!」



私が武蔵の名前を呼ぶと・・・



呼ぶと・・・



呼んでも、武蔵は振り向いてくれなかった。



いつもは心底嬉しそうな顔で、心底幸せそうな顔で振り向いてくれるのに、振り向いてくれなくて・・・。



その代わり、ゆっくりと立ち上がり・・・革靴を脱いでからゆっくりと顔を上げた・・・。



「こんなに夜更かしで大丈夫?女子大生。」



“女子大生”と・・・。
武蔵が私を“女子大生”と呼んだ・・・。
“小町”ではなくて、“女子大生”と・・・。



驚いている私の横を、武蔵がいつもと同じ笑顔で・・・優しい笑顔で、通り過ぎていって・・・



そんなことをされたのは初めてで・・・。



それに・・・



それに・・・



武蔵からは凄いお酒の匂いがして・・・。



たまに会社の飲み会に参加しているのは知っていたけど、こんなにお酒の匂いがしたのは初めてで・・・。



驚きながらも武蔵の後をついていく。



「武蔵、飲み会だったの?」



「そうだね、会社の人と飲んできて。」



「会社の人・・・?研究室の人?」



「そうだね。」



武蔵が優しい声で、いつもと変わらない優しい声で返事をしてくれるけど、早足で部屋へと向かっていく。



私と話したくないかのように・・・。



「もしかして、女の子と飲んできたの・・・?」



そうなのかなと、思ってしまった。
お父さんからの話を聞いて、そうなのかなと思ってしまった。



「うん。」



「そうなんだ・・・。」



それにも驚いて、ショックで、それからは無言で武蔵の部屋の前までついて行った。



「それじゃあ、おやすみ。」



武蔵がそう言って、私のことを見ることなく部屋の扉を開けてしまって・・・



部屋に入ってしまって・・・



その扉が閉まる直前、無我夢中で右手を伸ばして扉が閉まるのを阻止した。
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