【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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“お互いの部屋には出入りしないように”



夕方に聞いた社長からの・・・小町のお父様からの言葉がグルグルとする頭の中で反響してくる・・・。



「武蔵、少し話したい。
部屋に・・・入りたい。」



「部屋には入れられないよ。
俺はただの居候だからね、加賀社長の大切な一人娘を部屋には入れられないよ。」



「少しだけ、少し・・・話すだけ。」



「何?ここで聞くから。
ここで聞くから、早く話して。
明日も仕事だから。」



怒られるのだと思った。
“あの夜”、この子に怒ると言われていたから。
怒られるのだと思った。



そう覚悟をしたのに・・・



この子の口から出てきた言葉は・・・



「好きな人、いる・・・?」



だった・・・。



その言葉には泣きそうになった。



答えられるわけがない。



今の俺に答えられるわけがない。



選ばれなかった。



俺は選ばれかった。



俺は“あの夜”だけ付き合えた男で・・・



婚約者が決まった今は、ただの居候で・・・。



そんな俺が、答えられるわけがなかった。



“小町”だと、答えられるわけがないのに・・・。



そんな意地悪な質問をしてくるこの子に、答えた。



「いないよ。」



「いないの・・・?」



「うん、いない。
他には?他に何か話があるよね?」



怒ってほしかった。
もう、心の底から怒ってほしかった。



そしたら謝れるから。



一刀で戦ったけど勝ち取れなかったと、謝れるから。



なのに、この子は・・・



「・・・婚約のこと?」



そんな・・・そんな、分かりきっていることを言ってきて・・・



「婚約者なんてどうでもいいよ。
そんな話はどうでもよくて。
そうじゃなくて、俺に何かあるよね?」



そう、聞いた。



そう聞いたのに・・・この子は困った顔で俺を見上げているだけで・・・。



怒らない・・・。



この子は怒らなくて・・・。



無理だと思われていたのかもしれない。



ずっと、無理だと思われていたのかもしれない。



だって、俺は一刀しか極められない。



あの村田隼人でも婚約者候補から外れたのに、一刀しかない俺には無理だと思われていたのかもしれない。



だから・・・



だから、“あの夜”・・・“あの夜”だけ、付き合った・・・。



だから、俺のことを怒らない・・・。



この子は怒ってもくれない・・・。



「キミがそんな感じだと、逆にしんどいね。」



「何が・・・?」



名演技のこの子には完敗だった。
俺だけが“あの夜”、本気で思っていた。
この子の結婚相手になろうと、本気で思っていた。



「若い女の子が考えることは25歳にもなったオジサンにはよく分からないよね。
女子大生、明日も大学でしょ?
俺も寝るから、おやすみ。」



そう言って、扉を閉めた・・・。
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