【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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ダイニングテーブルの向かい側に座る小町が、嬉しそうな顔で俺に笑い掛けている。
結婚が1年間延期になったからかもしれない。



久しぶりに小町の笑顔を見ながら、俺は言った。



「俺は、好きでもない人と結婚なんてしないから。」



驚いている小町を見詰めながら、もう1度伝える。



「俺は、好きでもない人と結婚なんてしないからね。
俺はそんなのしないから。」



「普通は・・・普通は、そんなのしないけど、でも・・・私は・・・私は、“加賀社長の一人娘”で・・・。」



「うん、小町はそうだけど。
俺はそういうのもないから。
だから俺は、好きでもない人と結婚なんてしない。
誰とも結婚するつもりはないから。」



俺は死ぬその瞬間まで小町のことだけを好きでいるから。
だから、誰とも結婚はしない。



そこまでの想いを伝えるのは小町にとって酷だから、ここまでの言い方でしか伝えられないけど。
でも、そう伝えた。



「俺は薬を創るから。」



俺は薬を創る・・・。



でも、それは小町の結婚相手となる為ではなくて・・・



「俺は薬を創るために加賀製薬にいるから。」



そう、告げた・・・。



俺は小町の結婚相手には選ばれなかったけど、小町の結婚相手が社長として就任する加賀製薬で薬を創り続ける。



「それだけなら極められる。
俺はそれだけなら極められるから。」



小町の結婚相手の為に・・・。



そして、小町の為に・・・。



小町の為だけに・・・。



俺は加賀製薬で薬を創り続ける・・・。



その一刀しかないから。
でも、その一刀ならあるから。
その一刀を小町の結婚相手の為に振るい、それが加賀社長の一人娘である小町の為にもなる。



驚いている顔の小町を見ながら、椅子からゆっくりと立ち上がる。



小町を見詰めながら・・・笑った。



「小町、ごめんね。」



俺は選ばれなかった。
俺では選ばれなかった。



ごめん・・・。



ごめん・・・。



ごめん・・・。



あと1年間、その1年間で小町の覚悟が出来ている為に。



その1年間で小町が幸せになれるように。



居候の俺ではなく、婚約者と付き合えるように。



居候の俺ではなく、婚約者と恋が出来るように。



小町の為に・・・。



小町が幸せになる為に・・・。



俺は・・・



俺は・・・



戦場から去った・・・。



降参した。



小町の為に、降参をした。



小町の為に・・・。



小町の為だけに・・・。



俺自身の幸せの為ではなく、小町の為だけに・・・



降参をした・・・。
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