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「家まで送っていくよ。」



牛丼屋の前でお辞儀をすると、拳が今日もそう言ってくれる。



「いらないよ!走ればすぐそこだし!!
反対方向なんでしょ?」



「そうだけど、もう夜だし。」



「大丈夫!私猿だし、強いし!!」



そう言って笑い、自分の短くまばらに切った髪の毛を触った。



そんな私を拳が優しく笑いながら少し長めに見てくる。



それがなんか恥ずかしくて目を逸らすと・・・



牛丼屋の窓ガラスに映った私の姿が見えた。



そこには、空手着を着た猿がいた。



男でも女でもなく、私は猿みたいだった。



少しだけ・・・
毎日のように出待ちをしている拳の学校の女の子達の姿を思い出した。



「拳ってさ、好きな女の子いるの?」



何気なく聞いた質問に、拳も何でもない感じで答えた。



「いないよ。」



「そうなんだ?
皆可愛い感じだったけどね。」



「皆って?」



「拳の学校の女の子達。」



「そうなの?
よく見てないから知らなかった。」



拳がそんな面白い返事をするからそれには大笑いしてしまった。



「妙は?好きな男子いるの?」



拳がいきなりそんなことを聞いてきて、一瞬驚いた。
でもすぐに気付かれないように笑った。



「こんな猿にそんなのないでしょ!!
でも、拳のことは好きだよ!!
うちら大親友だし!!
拳のクラスの“なんとか”っていう男子も言ってたしね!!」



そう言って笑った。
あと少しで、拳はいなくなってしまう。



それまでは大親友として喧嘩をする。



大親友に見えるようにして、喧嘩をする。



強くなりたいから。



私は強くなることを追究したいから。



だから・・・



「明日も朝6時に道場に集合ね!!」



そう言って拳に笑った。



両手を強く握り締め、笑った。



この拳(こぶし)に拳(けん)への想いを込めて・・・



握った・・・。
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