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理子がそう言うと、お兄ちゃんは凄く驚いた顔をしていた。



「それ・・・でも、“お母さん”の特別な、呼び方・・・。」



「そうだよ?
理子のことを1番可愛いと思ってる時に呼んでくれてた呼び方。」



「それを・・・僕が・・・?」



お兄ちゃんが驚きながらそう言ってきて、理子は大きく頷く。



「だって理子、お兄ちゃんのことが1番大好きになったから。」



「・・・ぇ・・・」



お兄ちゃんの口から小さな声が漏れ、理子はニヤニヤしてしまった。



「だって、ピンク色の鮫を見付けてくれたのはお兄ちゃんだもん!!
この広い現実の世界で、お兄ちゃんが理子を見付けてくれたの!!」



そう言ってから、理子はカメラを下に下ろした。



そして・・・



「・・・ゎっ」



お兄ちゃんに、抱き付いた・・・。



「理子のことを見付けてくれてありがとう!!
理子、お兄ちゃんのことが大好き!!
1番大好き!!!大大大好き!!!」



大好きや大大好きは、家族といる時によく感じる。



でも、お兄ちゃんのことはそれ以上で・・・



大大大好きだと、思った・・・。



お父さんは理子が産まれる前に死んじゃった。



お母さんは理子が3歳の時に死んじゃった。



お父さんの記憶はないし、お母さんのことも何も覚えていない。



とにかく、理子は小さかったから何も覚えてはいなくて。



なんとなく覚えているのは、幼稚園に入ってからだと思う。



理子はいつも何かに怒っていた。



いつも何かにイライラしていた。



いつも何かを不安に思っていた。



いつも何かを怖いと思っていた。



早く死んで、お父さんとお母さんに会いたいとも思っていた。



いつも誰かに怒られているような理子と会って、お父さんとお母さんは喜んでくれるかは分からないけど・・・。



皆から嫌われているような理子を見て、お父さんとお母さんは理子を好きになってくれるかは分からないけど・・・。



でも、理子はお父さんとお母さんに会いたかった・・・。



会って、抱き締めて貰いたかった・・・。



会って、強く強く、抱き締めたかった・・・。



そう望んでいた理子は・・・



今は、“生きていたい”と・・・



“生き延びていたい”と・・・



強く、強く、思っている・・・。



ピンク色の鮫として・・・



生きて、生き延びる・・・。



お母さんが見付けられるように・・・。



天国にいるお母さんが、理子を見てすぐに理子だと分かるように・・・。



だからもう、たまに何かに怒って・・・



たまに何かにイライラして・・・



たまに何かに不安に思って・・・



たまに何かに怖くなるだけ・・・。



「お兄ちゃんが、大大大好き・・・。」



お兄ちゃんを強く抱き締めて甘噛みした理子に、お兄ちゃんも理子のことを少し強く抱き締めてくれた・・・。



「りーちゃん・・・」



“りーちゃん”と小さく呟いたお兄ちゃんの声が、理子の身体に甘く噛み付いた・・・。



甘く、甘く・・・



噛み付いて、この身体から離れなくなった・・・。
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