【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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静かな空間の中、ジルゴバートが吹き続ける笛の音だけが響いていく。



響いていた、その時・・・



王座の間に女の狂ったような笑い声が重なった。



その笑い声の主を確認すると、ユンスが現れていたのに王妃の座から動くことなく座り続けていたマルチネス王妃だった。



「貴方って本当にロンタスが大好きよね~!!!」



狂ったように笑いながら続ける。



「ロンタスなんて国王ではなく国王の代理だった男じゃない!!
本当に優秀だったのは兄の方!!
髪の色も真っ白、頭脳も剣も何もかも兄である国王の方が優秀だった!!」



皇太子妃教育では学ばなかったことをマルチネス王妃が笑いながら話し始めた。



「隣国の3ヶ国が共謀し攻め込んできたことでロンタスの兄は死んで、その兄の代理となったのがロンタス!!
ロンタスは兄より何もかも劣っていた!!
そんなロンタスが剣王なんて言われているなんてね!!」



マルチネス王妃が狂ったように笑う中、ジルゴバートは狂ったように笛を吹き続ける。



「ロンタスが剣王といわれるのは剣の腕があったからじゃない!!
兄が残した13人の側近達が優秀であっただけ!!!
その13人の側近達のことをロンタスは“13の剣”だと言い続けていた!!!
“13の剣”があったから隣国の3ヶ国をまとめ1つの王国に出来たのに、サンクリア王国の剣王ロンタスだなんて言われて笑っちゃうわよ!!!」



マルチネス王妃が更に狂ったように笑う。



笑い続ける。



「ロンタス自身は真っ赤な髪の色をした出来損ないの弟!!!
唯一持っていたのは白い翼を持った魔獣、グースだけ!!!
兄が死んでから現れたからって兄の化身だと信じていたとか、本当に頭まで劣っている!!!」



「「13の剣・・・。
白い翼のグース・・・。」」



ソソと言葉が重なった。
それは分かったけれど、ソソのことは見ずに天井窓の縁に立ち続けているユンスのことを見上げた。



「「赤い髪の色・・・。」」



頭部だけに毛があるユンス。
天井窓の縁に立つユンスは赤い毛を持っていた。



太陽を背中にそのユンスが私達のことを見下ろしているのをソソと一緒に見上げていた。



その時・・・



グースの大きな大きな鳴き声が空から落ちてきて、大きな大きな風が吹き込んできた。



そして現れたのは、真っ白な翼を持つグース。
他のグースよりも遥かに大きなグース。
ソソが乗っていたグースだった。



ソソのグースが王座の間に着地をすると、すぐにソソの方へと近付いてきた。
そのグースをソソが優しく撫でながら労い、困った顔で笑った。



「お前はいつも必ずお前から来てくれるのに、俺の魔獣であるはずのエリーは何処へ行ったんだ?
ユンスが逃げ出したことも教えに来ないで。」



姿が見えないエリーにソソが文句を言った。



そしたら、その時・・・



また王座の間に大きな風が吹き込んだ。



割れた窓を見上げると、来た。



来た。



チチのグースが来た。



チチのグースにチチが乗り、チチの前には瞬間移動が出来るはずのエリーまで乗っている。



「チチ・・・!!!」



私がチチを呼ぶとチチは怪しく笑い、そしてグースを王座の間に着地させた。



グースから降りたチチに駆け寄ると、チチはグースに乗っていたエリーに両手を伸ばし下ろしてあげている。



そんなエリーを見て、私は驚いた。



「え・・・人間・・・?」



どこをどう見ても人間の姿をしているエリーに驚いていると、私よりもずっと驚いた声を出した女が。



「何で・・・!?どうして・・・!?」



声の主は今度もマルチネス王妃だった。
死んでしまう直前のような様子になるくらい驚いていて。



そして・・・



「死んだはずでしょ・・・っエリナエル・・・!!!!」



そう叫んだ。



ソソの魔獣、エリーのことを見ながら。



ソソがまだインソルドにいた頃、初めてエリーが半獣の姿になった時にチチが付けた名前、エリーという名前の魔獣を見ながら。



私の前に現れる度に私を抱き締め、10歳だった頃のソソの気持ちを伝え続けてくれていたエリーのことを。



ソソと同じ水色の目を持つエリーのことを。



“エリナエル”と、叫んだ。
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