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光一のことを私も強く抱き締め、光一の苦しすぎる胸の中で何度も頷く。



そしたら、光一の胸が・・・少し震えてきて・・・。



「俺でも、いい・・・?
桃子にウェディングドレスを着せるの、俺でもいい・・・?
俺が着せたい・・・。
俺が、桃子にウェディングドレスを着せたい・・・。」



光一が、そう・・・震えいる声で言ってきて・・・



「“お母さんのウェディングドレス”を着て、幸せそうに笑う桃子の隣・・・。
桃子の隣に並ぶ大好きな人、俺でもいい・・・?」



強く抱き締められて苦しい中、光一の顔を見上げる・・・。



そしたら・・・



そしたら・・・



驚くことに、光一は涙を流していて・・・。



初めて、泣いた・・・。



光一が、初めて泣いた・・・。



初めて泣いた所を、見た・・・。



泣いているからか・・・



それとも、私に恋をしてくれているからか・・・



光一の顔は赤くて・・・。



凄く、赤くて・・・。



会議室の窓、そこから射し込む光りで光一は黄金に光っているのに・・・



光一の顔は、赤くて・・・。



“あの日”蘇った理菜さんを思い出す・・・。



光一と理子のお母さんになって、この厳しい現実世界を生き延びると決めた日、封印していた思い出・・・。



私は光一の“お姉ちゃん”にはなれそうになかったから・・・。
血の繋がらない姉弟は結婚出来るのに・・・。
理菜さんがそう言ってくれていたのに・・・。



でも、私ではダメで・・・。
私は全然可愛くないから・・・。
全然可愛くないと、光一から言われていたから・・・。



生き延びたら認めてくれると、そう言っていた・・・。
ヨボヨボのババアになって死ぬ時、その時には私を“お姉ちゃん”だと認めてくれると、そう言っていた・・・。



だから、生き延びたかった・・・。
この厳しすぎる現実世界を・・・。
鬼ばかりいるように見える現実世界を・・・。



そしたら、伝えられる・・・。



そしたら、伝えられる・・・。



光一からは面倒そうな顔をされるだけだろうけど、それでも伝えられる・・・。



だから、私は早くヨボヨボのババアになりたかった・・・。



ヨボヨボのババアになって、聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声でもいいから、伝えたかった・・・。



ずっと伝えたいことが私はあった・・・。



そう思いながら、私は封印していた理菜さんとの思い出を蘇らせる・・・。



ずっと会いたかった、“その時”の理菜さんと・・・



今、再会する・・・。



“良い男に育ってるでしょ、光一。
光にソックリなの、あの人の血が流れてるからね。
自分が死ぬその時まで家族を守れる良い男になるよ、光一は。”



“光一のことを幸せにしてあげて、桃子!!”



“何でも破壊しちゃうからね、光一は!!
自分の幸せまで破壊しないように、死ぬまで見ててあげて!!”



理菜さんの姿を見ながら、黄金の光りではなく真っ赤に・・・燃えるように真っ赤に染まってきた光一の顔を見詰める・・・。



涙と鼻水でグチャグチャの、32歳のババアになった汚いような顔面だけど、見詰める・・・。



そして、口を開いた・・・。



ゆっくりと、口を開いた・・・。



「私を光一のお嫁さんにして欲しかった・・・。
一生・・・違う、死んでも・・・お嫁さんにでいさせて欲しかった・・・。
それで、理菜さんの所に、連れていって貰いたかった・・・。」



“うちに嫁においで、桃子。”



理菜さんの姿を見ながら、私は口を開く・・・。



「私の理想の“お母さん”なの・・・。」



「知ってる・・・。」



光一が、泣きながらも満足そうに笑って・・・。



「桃子を想う良樹の愛にも負けねーくらい、すげー愛してやるから・・・。」


そんな言葉とともに、燃えるように真っ赤に染まった光一の顔が私の顔まで下りてくる・・・。



そして・・・



唇が触れる、その直前に・・・



「カメラ、止めて。」



そんなことを言い出して・・・



驚き、パッと男さんを見ると・・・



カメラを回していて・・・



よく知っているカメラを回していて・・・



「今朝、あの後理子に事前に言ったらすげー煩くて。
俺がフラれる所をカメラに回せとかうるせーの。」



そんなことを言って、私は笑ってしまった・・・。



「確かに、これは理子には見せられない・・・。」



「だな・・・。」



そう言ってから、光一の唇と私の唇は・・・



重なった・・・。



きっと、夕陽に変わった光りの中、2人で燃えるように真っ赤に染まりながら・・・



重なった・・・。



「“本物”、調査報告書だけじゃなくて“男”も届けられて良かった。
・・・まあ、やっぱり泣き落としになるよな。」



男さんの小さな呟きには、光一と2人で顔を見合わせて笑った・・・。
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