終焉のヒュプノス

明紅

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御神体の謎

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オリバーたちは村に戻ってからも、飯を食っている時も、そして食事後も遺跡で発見した異物についての論議を続けている。
オレとリリアは、サラから預かった白いスティックの分析をオレの部屋で続けていた。
このスティックが扉を開ける為だけに作られたとは到底思えない。
でも分解するわけにもいかないよな…。

ん?

滑らかな質感のスティックの表面に指を滑らせてみると、ほんの少し、本当に気付くか気付かないかってほどの継ぎ目があることに気がついた。

その繋ぎ目らしきところを中央にして上下に引っ張ってみた。
しかし、何の反応もない。

引っ張ってもダメか…。
じゃぁ。

次は継ぎ目を軸にして左手を下に右手を上にして力強く握り右手を反時計回りに捻ってみた。
すると少し抵抗はあったが半回転ほど回って二つに別れた。
丁度半分に別れたスティックの片方は先端にあの青い宝石が付いている。
もう一方は、さっきまで気が付かなかったが更に縦に半分に開くことが分かった。
早速開いてみると半円形の片面には幾つかのボタン状のものが並んでいて、もう片方の面には細い棒が埋め込まれてあった。

なんか携帯ゲーム機みたいだな。
どっかに電源的なのがあったりして…あった…。
ボタンのついてない側の側面、もう片方のスティックとの設置面に丸い溝が彫られていたので軽く押してみると、埋め込まれていた細い棒が浮き上がり、本体との間に光の膜を形成した。
「おぉ!!動いた…。」
バッテリーが生きてたってことだよな?
どんな理屈なんだ?

「創くん、何なのそれ?」
「うーん…多分何かの端末…的な?わかんねぇ。」
そのまま光の膜を見ていると中央に何かマークが浮かび上がり数行の文字が浮かび上がった。

「これってディスプレイなんだ…。」
「ディスプレイって?」
「あぁ…ほら”眠りの柱”でオリバーが作業してるところにあっただろ?」
「あったっけ?」
「あったよ。観察力ないなぁ。」
「で、何?文字が出てるみたいだけど…これって創くんの世界の文字だよね?」
「え?」

言われて気がついた。
確かに読める。
これ…英語だ…。
…でもオレ…英語苦手なんだよなぁ…。

「あっ消えちゃったよ。」
表示されていた文字が消え動画の再生が始まった。

「誰か出てきた。」
リリアのヤツ興味津々だな。

『私の名前は如月荘壱きさらぎそういち。太陽系第3惑星地球から来た。西暦2122年に地球を飛び立って、この星に着いたのは、予定の52年より大幅に遅れ、地球時間で200年程過ぎてしまっていた…到着地も想定していた星とは違う様だ…。』
動画に出てきた男の下に漢字で名前が表示されている。

「この人日本人だ…。ん?如月?どっかで聞いたような…?」

続けて画面に銀河系の画像と太陽系の配置図が表示され地球に矢印が表示された。

『この星に到着して半年、上陸前にこの星に『デーヴァ』と名付けた。しかし先住民とも何度かコンタクトは取ってみたが言葉と文化の壁が大きく、コミュニケーションに苦労している。』
「…なんて言ってるの?」
リリアの問いかけに人差し指を自分の唇に当て静かにする様に促した。

『向こうの大陸には15機の移民艦が降りた筈だが、大気中に含まれる何らかの成分で電波が遮断されてしまって、未だに連絡が取れない。こちら側にも5機降りたが、2機着陸に失敗。俺たちが乗っていた移民艦もご覧の有様だ。』
カメラが切り替わって大破した宇宙船だろうか?巨大な何かが荒野に横たわっていた。

『墜落前になんとか数十機のシャトルと数百機の脱出ポッドを放出した。その後、海の近くに集落を作ることができた。しかし通信障害のため地球とも連絡が取れない。この星の位置もハッキリしないままだ…。恐らくこのままこの地に骨を埋めることになるだろう…。』
「ねぇ、なんて言ってるの?」
リリアに肩を小突かれて何かを触ってしまった様で、動画が消えてしまった。

「あー!」
「あ…ごめんなさい…。」
「リリア…我慢って言葉知ってるか?」
「ごめんなさい。」
リリアは頷きながら呟く。

「…あとでちゃんと内容を説明するから、もう少し待ってろよ。」
「…はい…。」
コイツ本当に反省してんのか?
椅子に座って俯いたままのリリアを一瞥いちべつしてもう一度再生させるべく幾つかのボタンを触ってみた。

触ってみてわかったのだが、これは所謂動画を再生させる為のプレーヤーなんだな。
ってことは、これが再生ボタンかな?

動画は何十年にもわたって撮影されたものを繋ぎ合わせたものだった。
時間にして2時間弱、ちょっとした映画並だ…。
内容的にはこの如月って男の私的な日誌みたいだったが、この星の、いやこの大陸の事情は良くわかった。
まず、この大陸の広さはアフリカ大陸ほどの大きさで北東から南西に斜めに長く広がっていた。
あの祭壇のある場所はその西端に位置していた。
比較的詳細な地図も出てきた。
サラたちの村はこの頃からあった様だが、当時はもっと多くの集落に分かれていたみたいだ。
地図には移民船の降りた箇所に5つの印が付けられ、それぞれに名前が記されていた。
その一つ、大陸の下半分の中央部分には首都ムートリアと書かれた場所がある。
恐らくここがサラの言っていた”東の都”何だろうな。
サラの親父さんは王様に会いに行ってる訳だから…ってことは王都なのかな?

祭壇の地下に埋まっていたのは、墜落した移民艦の一部だったこともわかった。
そして、あの扉の奥には将来、子孫や先住民たちが、それなりの文明レベルに達していれば役に立つ『遺産』とも言うべきものが納められているとも言っていた。
まぁ、今の今まで活用はされてないみたいだけど…。

そして動画の最後には、少し年老いた姿の如月が現れ…。
『…この星に移住して500年強…惑星の風土病で移民の大半が死んでいった…、この星で生まれた新世代は環境に順応し”超能力”とも言える不思議な力を身につけるに至り、今では遺伝子の近かった先住民との交配も進み大陸全土に都市を築くまでに至っている。』
ん?オリバーが言ってたことと少し食い違いがある様な…?
あれ?今500年って言わなかったか?
この人…いくつなんだよ…。
まさか定期的にコールドスリープを繰り返してる?
それとも、俺の身体みたいに…?

動画はさらに続いていた。
『移民艦2番艦ムートリアは船を中心に大きな国を作り、異種交配で生まれた新世代と先住民が共に暮らしている。」
ってことは、サラたちは地球人の血を引いてるってことか?
『100年ほど経ってようやく海の向こうの大陸に降りた15機の移民艦とも無事再会することは出来た。3万人収容の最大の移民艦ハルキュオスも無事だと言うことが分かった。』
…ハルキュオスって、移民艦の名前だったんだな…。

『…デーヴァに着いて500年…向こうもこちらと同様に移民世代はほぼ生き残ってない様だった。今はこの星で生まれた新世代が殆どだと言うことだった。15機の移民艦は着陸後すぐ連結させて巨大な都市を築いた様だ。しかし…人間というのは本当に過去から学ばない愚かな種族だと改めて思う。それぞれに発展していった二つの”国”は再会出来た数十年後には大陸間で大きな戦争が起きてしまい、ようやく根付いた新しい世界を…そして折角生きながらえた移民の子孫とこの星で生まれた多くの新しい命が失われることになってしまった………。』
…ハッキリとは言わないけど…かなりの人が亡くなったってことだよな…。

『…戦争の理由…それは本当にくだらない事だ…ハルキュオスの降りた大陸には先住民と呼べる人類は存在せず、肉食の巨大な獣や爬虫類の闊歩する地だった、その為そういった獣たちから都市の防衛する日々が続き、必然的に兵器が増えていった様だ。そして先住民の居ない向こうの大陸は純血の地球人だけで構成される国家となっていた…。対してこちらの大陸では先住民との交配も進み新たな人類が多く誕生し、純潔地球人種はごく一部となっていた。恐らくそれが1番の原因だろうと俺は思う。かつて地球人は自分と違うものを否定しそして嫌い排除しようと考えてしまう傲慢な種族だった…それがこんな遠い星に来てまで…。悲しいことにこれが現実だ…。』

15機…そうか”眠りの柱”って移民船だったんだ…。
それに戦争って…。
そうか…オリバーが解読した本ってハルキュオスに残されてた本何だろうな…。
書かれていた事も自分達に都合の良いものとか色々間違ってるんだろうな、きっと地球の歴史なんかも混じってるんだろうな…。
恐らく…いや多分こっちが…この如月って人が言ってることが正しい歴史に近いんだと思う。

あっ…。

ついつい動画に夢中になっててリリアのこと、放ったらかしだった…。
「…ごめん…退屈だっただろ?」
「………。」
あ…ダメだ…完全に拗ねてる…。

「ほら今から内容を説明してやるから…。」
「ふわぁ…あぁ…。眠いから良いや…。明日皆にも話すんでしょ?その時聞から…じゃぁね、おやすみぃ…。」
リリアは、あくびをしながらそう言うと『バンッ』っと力強く扉を閉めて部屋から出て行った。

怒ってるな…。
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