ピアスと傷と涙と、愛と。

夜鮫恋次

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序章 悲しみは涙と共には流れ消えない

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「もしかして、優華ちゃんのピアスって、自傷?」


 尋常じゃない数のピアスが耳についていることに気づいた恋人が怪訝な顔で聞いてくる。

 優華は、「あー、えー、あーっと……」と真実を言えずにオドオドしてしまった。


 右耳には、ヘリックス二個、トラガス一個、ロブ三個。

 左耳には、インダストリアル二個(クロスしてる)、アンテナ一個、ロブ三個。


 到底、常人では考えられない数と、位置のピアス。

 この恋人なら、自傷だと言っても、「つらかったんだね」と受け入れてくれるかもしれない。


 自分のピアッシングに、『自傷』という意味があると知った恋人との末路なんてわかってる。

 そんなの破滅しかなかった。


 理解?


 綺麗事じゃ、恋愛は、できないんだ。


 相手を尊いと思えなくなった時が、破滅の始まり。


 ああ、終わりだ。

 と、思った。


『……同棲も、なにもかも、無しにしたい。キミとの、関係も』


 同棲の話も出ていた、交際一年記念日の数日前だった。

 もう、なんだかめんどくさくて、理由も聞かずに、了承してしまった。

 やっぱり、精神疾患患者は幸せにはなれないんだ。

 ブスだし、小太りだし、何重苦だよ、と思ったら、彼を自由にしてあげるのが自分の役目だと思ってしまった。


 気付けば、通販サイトのアプリを開き、ピアッサーを買っていた。


 そうだ、唇にしよう。


 後ろから開ける、ラブレットタイプのピアッサーにした。


 ピアッサーは翌日発送され、翌々日には届き、即刻、開けた。


「(……痛、くないな、やっぱり私、痛覚馬鹿になってる)」


 そう思うと、右の口角より内側にあけたピアスがジンジン痛みだして。


「(……いたい)」


 心が痛い。

 肉体の痛覚が鈍っても、精神の痛覚が、鈍らない。


 もう、なにも、望まない。


 恋愛はもうしない、と優華は誓った、のに。






「……貴方にはボクと同じものを感じました。だから、わざと、手に触れました」


 それから数か月後。

 お気に入りの手芸ショップに、友人たちと向かい、布を選んでいると、ある男性に遭遇した。


 優華と同じ、耳や唇などにピアスの沢山ついた、落ち着いた、少し大人しそうな、男性だった。


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