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第十二話 フラッシュバック
しおりを挟む海遊館デートの後、優華と祥馬はうまくやっていた。
付き合う、付き合わないは別としても、今まで以上に仲良くやっているように見えた。
祥馬が異変を感じたのは、デートから二か月後の朝だった。
いつもは優華の方が早く起きるのに、優華が起きてこないのだ。
最近は部屋の鍵も意味をなさず、開けっ放しになっていて、お互いの部屋には自由に行き来できるようになっているのが幸いだった。
「優華ちゃん?」
「………」
おかしい。
いくら身体を揺すっても、優華が起きない。
しかし、息はしているし、脈もある。
祥馬はとりあえず、優華の血の繋がらない姉の夕映にラインで電話を掛けた。
―――~~~~~♪
『はい?』
呼び出し音が少し鳴って、少し不機嫌な夕映が電話に出てくれた。
「夕映さん、優華ちゃんが身体揺すっても起きへん!」
『起きへん?? ……ゴミ箱見て。薬のシート捨ててない?』
「え、ちょっと待って! ……あ!! 何シートか捨ててある!!」
ゴミ箱を確認すると、いつも優華が眠れないときに飲んでいる不眠時の頓服薬のシートがいくつか空になった状態で捨ててあった。
『馬鹿もん!! はよ救急車呼び!! 病院決まったらまたライン寄越して』
「わ、わかった!」
祥馬は夕映とのライン通話を切ると、すぐに救急車を呼び、『同居人が薬の大量服用した』と通報した。
十分ほどで救急車は到着して、近くの福祉病院に優華は搬送された。
「祥馬くん!!」
「ゆかちぃは?」
救急車の中で優華が治療を受けている間に、祥馬は約束通り、夕映にラインをしていた。
夕映はその後由真にも連絡したらしく、病院には夕映と由真が急いで来てくれた。
「今、胃洗浄するって中に入っていきました」
「祥馬くん」
―――ばっちーん!!
祥馬は夕映に平手打ちをされた。
二度目だ。
「なんで気づかんかった。何シート飲んでた。貴様にゆかちぃを預けた私らがどんな思いで今ここにおるかわかるか!?」
「ゆえさん、落ち着いて。ゆかちゃんは自分隠すの上手いからやって」
「でも!!」
「……なんで、気づかんかったんやろ。なんで、頼ってくれんかったんやろ……」
へなへな、と病院の待合室の椅子に落胆した様子で腰掛ける祥馬。
何処か、泣いている気がした。
薬の大量服用。
所謂オーバードーズと呼ばれるそれは、過剰なストレスにより、起こす患者が多いという。
順風満帆だったはずなのに。
優華になにがあったのか。
それはここにいる三人にはわからず、ただ治療が終わるのを待つのみだった。
優華はその後、何とか一命をとりとめたが、一歩間違えればもうこの世にはいなかったと医師に言われ、三人は絶句した。
それから、優華が目を覚ましたのは五日後で、話せるようになったのは一週間後だった。
その間、祥馬と夕映と由真は代わる代わる病院を訪れ、看病をしたが、優華は生きることを拒絶しているように思えた。
しかし、日常生活ができるようになったので今回は祥馬との部屋に帰宅を許された。
「……祥馬くん」
「どうしたん? なにがあったん?」
「怖いねん。また独りになったらって」
帰宅して、二人でソファーに座ってコーヒーを飲んでいると、優華は膝を抱え泣きそうな目でそう呟いた。
「ボクが優華ちゃんを見捨てると思ったん?」
「だって、怖い」
優華は静かに語りだした。
元カレとのことや、両親に置いて逝かれたこと。
もう貴方しかいない。でも依存してしまうのは良くない。
そう考えたらフラッシュバックとパニックでオーバードーズをしていたと。
「依存したらいい」
「でも」
「依存して、ボクしか見れんくなったらいい」
「祥馬く、」
祥馬は優華を優しく抱きしめ、その柔らかい唇を奪った。
「……祥馬くん」
「結婚を前提に、ボクと真剣交際してほしい」
もう、苦しい思いはさせない。
優華は泣きながら頷いて、祥馬に抱き着いた。
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