エデンに墜ちる

水鳴諒

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―― Chapter:1 ――

【004】滅亡アラートの発令

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 樫鞍は水折の頬に片手で触れると、もう一方の手で彼女をより強く抱き寄せた。水折が上目遣いに樫鞍を見た時、彼は僅かに顔を傾けて、水折の唇に己のそれを重ねようとする。

《緊急警報です。滅亡アラートの発令》

 その時、警報音と共に女性らしき機械音声が流れたため、慌てて二人は距離を取った。正確には、樫鞍が距離を取った。水折はビクリとしたもののそのままそこにいて、樫鞍だけが我に返ったように赤面した後、顔を背けてから、さも冷静な風を装って真面目な顔に変化した。

《楽園指定エリア【ヒタカミ】に、自然災害・土砂崩れが迫っています。このまま【ヒタカミ】の滅亡を承諾する場合は【YES】を、滅亡を却下する場合は【NO】を選択して下さい。【NO】を選んだ場合は、災害防衛兵器システムを起動します。一分以内の決断が望ましいです。放置した場合、自動的に【YES】が選択されます》

 二人が暮らす楽園研究室があるドーム全体に、この警報は鳴り響いている。腕時計型の拡張現実操作システムを一瞥し、樫鞍は警報を視覚化するために、ウィンドウ化した。すると二人のそばに、光粒子で出来た映像モニターが出現する。

 そこには近隣の山で発生した土砂の様子が映し出されていた。

 樫鞍の気分的には、勿論放置したかったが、距離を取ってしまった以上もう遅い。彼は落胆しつつ、苛立つような顔をした。その眼差しは険しい。

「リセット論派の私としては、まだヒタカミにはリセットする要素がないから、自然災害による滅亡は特に望まないし【NO】がいいな」

 水折の声で樫鞍は、慌てて彼女に顔を向ける。
 水折は、てっきり樫鞍の表情が険しいのは、選択に悩んでいるからだと考えていた。

「ああ……俺も、制限理論派としても、特別ヒタカミの滅亡は望まない。【NO】とする。双方一致だな」

 口に出してから、樫鞍は腕時計型システムに、意識を集中させて指令を与えた。思考を読み取るシステムが搭載されている。ただしそれは、表面的な思考であり、深層心理と呼ばれるような、無意識で思っていることは指示としては拾わないシステムだ。

《【ヒタカミ】の滅亡を却下しました》

 電子音声が響くと、ウィンドウの中の土砂崩れが、まるで土に溶けるようにかき消えた。流れていた場所までは押し流されているが、ある場所を境に、何事も無かったかのように消えている。

 これは目には見えない防波堤と、分解装置が働いた結果だ。
 同時に滅亡アラートは解除された。

「それにしても、【ヒタカミ】は、文明が起こるだけあって、それなりに災害は起きない方の土地にあるのに、最近は運が悪いね。滅亡アラート続きだもの」

 水折はそう言うと、俯いて息を吐いた。
 落胆しているのはなにも樫鞍だけではなく。無表情にしか見えない水折であるが、彼女もまた、先を期待していたのは間違いないからだ。それも彼女にしては、かなり積極的に言葉を発して迫ってみたところだったから、なんともやるせない。

「戦争が無くても人は滅びるという事だな」
「うん、樫鞍の言う通りだね。だから間違いを起こすまでは、地上の人間には楽しく生きて欲しいなぁ」
「……俺は、間違いを起こさないように教育し、あやまちを犯さないように脳機能に手を加えるべきだと思ってると何度も言ってんだろ? そうすれば、技術や理論も発達し、少なくとも予期せぬ災害で滅びる可能性は激減する」
「それじゃあ思った通りに生きられないし、独自性や楽しみの制限は、進化を阻害すると思うんだけれど?」

 こうして二人の討論……あるいは口論が、本日も始まった。
 時折よい空気になるのだが、現在までには、いつもこの流れとなる。
 別段二人とも対立したいわけではないのだが、代表する理論が違うせいなのか、中々恋愛が発展しないでいる。
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