空気より透明な私の比重

水鳴諒

文字の大きさ
上 下
6 / 22
―― Chapter:Ⅰ ――

【006】交通事故

しおりを挟む


 ――それは、翌日の放課後の事だった。
 帰路についた佳音は、何気なく横断歩道手前の電信柱を見て、ぎょっとした。
 そこには灰色の、まるで死神のローブのような衣を纏っていて、顔が見えない長身の人物が立っていたからだ。気配も何もなかったが、視線を合わせた瞬間、背筋が粟立った。風貌もそうだが、なにか不気味な気配を感じる。

 すぐに正面へと視線を戻し、佳音は歩く足を速めた。そして横断歩道を通り過ぎ、まっすぐに歩道の正面を見た時だった。子供が正面に見える。手には濃いピンク色の風船を持っている。少し後ろには母親らしき女性が立っていた。前方からは巨大なトラックが走ってくる。何気なくそちらを見ながら歩いていた時である。

「あっ、飛んでっちゃう!」

 子供が声を上げた。
 風船を持つ手を緩めたようで、向かって左から右に流れる風にのり、風船が車道側へとはみ出して、空に上がり始める。追いかけて、子供が飛び出した。改めてシャドウを見れば、トラックが近づいている。

伊緒いお!」

 母親が走り出そうとしていたが、その時にはトラックが隣を通りぬけた。
 佳音が丁度、子供の真横を通過しようとした時の事である。佳音は咄嗟に道路へと飛び出した。

「危ない!」

 声を上げた佳音は、伊緒と呼ばれた五歳くらいの男の子を抱き寄せる。そして顔を上げれば、目の前にはトラックが迫っていた。減速しようとしているのが分かる。このままではぶつかる。そう覚悟し、なんとか子供だけでも助けようと、佳音は思わずその子を、歩道側に突き飛ばした。そして顔を腕で庇ってしゃがみ込む。

 ――衝撃を受けてからのことを、佳音は覚えていない。


しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

思い込み、勘違いも、程々に。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,094pt お気に入り:4,928

王妃のおまけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:89

妻が座っていた~浮気?とバレた僕と彼女の奇妙な18週間

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:796pt お気に入り:21

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:8,186pt お気に入り:9,106

処理中です...