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―― Chapter:Ⅱ ――
【011】学園祭の班編制
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翌日は、十一月に控えた青戸未来学園の学園祭における、クラスの出し物の決定と、班編制が行われることになった。学級委員長の香坂が教卓の前に立っている。机の前に座り、変わらず無視されている佳音は、今度こそ自分の考えを主張しようと思っていた。さすがにこの場でまで無視されることはないだろうと考える。
「それでは、出し物の決定ですが、なにか案がある人」
「劇は?」
「合奏は?」
「合唱にしようよ」
「誰がピアノ弾くの?」
「展示物とかでよくない?」
「カフェにしようよ。喫茶店」
「メイド?」
「そこは猫でしょ」
手を挙げるわけではないが、一斉に教室内が騒がしくなった。香坂はそれらを拾って、黒板に書いていく。そして多数決が行われ、結果二年一組は合奏をすることに決まった。
「では次に、担当を決めます」
「はい! 私、ヴァイオリンがいいです!」
佳音がそう声を上げた。
ヴァイオリンは、小学生の頃から、ずっと習ってきた。すると笹沼先生が言った。
「七花は確か習い事でヴァイオリンをしていたはずだ。ヴァイオリンの担当にしてくれ」
笹沼の援護に嬉しくなる。香坂も頷き、黒板にヴァイオリンと書いた。ヴァイオリンは弾ける生徒が少ないから、本来はなくてもいい存在だが、逆に弾ければ存在感はある。その時、雛乃が佳音の方を見た。
「サボるんじゃないよ。みんな佳音のヴァイオリン、聞きたがってるんだからね」
ぽつりと言われて、佳音は驚いた。久しぶりに話しかけられたからだ。
「う、うん」
おろおろしながら頷いた佳音だったが、雛乃はそれには答えず再び前を向いた。
ただ少しだけ、気分が浮上した佳音は、ほっとした気持ちで、班編制を見ていた。
なお、この学校の学園祭は、中高合同で三年に一度行われる非常に大規模なものなので、準備期間として、九月から十月まで、毎月一週間ずつ準備の週がある。その間は、学園へは自由登校となる。青戸未来学園の独自の制度だ。このために、他の二年間の授業時間は調整されている。九月の自由登校期間は、来週からだ。
久しぶりに言葉を交わしたチャンスを逃さないようにと思い、この日は思い切って、朝食の時に、雛乃に声をかけた。
「ねぇ、私も一緒に食べていい?」
「……」
しかし雛乃は、相変わらず無視をする。胸がきゅっと痛んだが、気を取り直して、次に佳音は水城沙耶の元へと向かった。彼女は以前からいつも一人で昼食を食べている。もしかしたらという思いで声をかけた。話題だってある。恋バナだ。それに親しいと話してくれたではないか。
「あ、あの、沙耶ちゃん。よかったらお昼ご飯一緒に……」
「……」
しかし沙耶は目を合わせようともしてくれなかった。黙々と、既に食べ始めていたお弁当のおかずを、箸で口に運んでいる。
浮きがちだった彼女から見ても、自分は空気のような存在、いいや必要性で言えば空気の方が大切な、無視して構わない存在なんだと思い知らされた気になった。
今、浮いているのは己であり、希望を持つだけ無駄だった。
「それでは、出し物の決定ですが、なにか案がある人」
「劇は?」
「合奏は?」
「合唱にしようよ」
「誰がピアノ弾くの?」
「展示物とかでよくない?」
「カフェにしようよ。喫茶店」
「メイド?」
「そこは猫でしょ」
手を挙げるわけではないが、一斉に教室内が騒がしくなった。香坂はそれらを拾って、黒板に書いていく。そして多数決が行われ、結果二年一組は合奏をすることに決まった。
「では次に、担当を決めます」
「はい! 私、ヴァイオリンがいいです!」
佳音がそう声を上げた。
ヴァイオリンは、小学生の頃から、ずっと習ってきた。すると笹沼先生が言った。
「七花は確か習い事でヴァイオリンをしていたはずだ。ヴァイオリンの担当にしてくれ」
笹沼の援護に嬉しくなる。香坂も頷き、黒板にヴァイオリンと書いた。ヴァイオリンは弾ける生徒が少ないから、本来はなくてもいい存在だが、逆に弾ければ存在感はある。その時、雛乃が佳音の方を見た。
「サボるんじゃないよ。みんな佳音のヴァイオリン、聞きたがってるんだからね」
ぽつりと言われて、佳音は驚いた。久しぶりに話しかけられたからだ。
「う、うん」
おろおろしながら頷いた佳音だったが、雛乃はそれには答えず再び前を向いた。
ただ少しだけ、気分が浮上した佳音は、ほっとした気持ちで、班編制を見ていた。
なお、この学校の学園祭は、中高合同で三年に一度行われる非常に大規模なものなので、準備期間として、九月から十月まで、毎月一週間ずつ準備の週がある。その間は、学園へは自由登校となる。青戸未来学園の独自の制度だ。このために、他の二年間の授業時間は調整されている。九月の自由登校期間は、来週からだ。
久しぶりに言葉を交わしたチャンスを逃さないようにと思い、この日は思い切って、朝食の時に、雛乃に声をかけた。
「ねぇ、私も一緒に食べていい?」
「……」
しかし雛乃は、相変わらず無視をする。胸がきゅっと痛んだが、気を取り直して、次に佳音は水城沙耶の元へと向かった。彼女は以前からいつも一人で昼食を食べている。もしかしたらという思いで声をかけた。話題だってある。恋バナだ。それに親しいと話してくれたではないか。
「あ、あの、沙耶ちゃん。よかったらお昼ご飯一緒に……」
「……」
しかし沙耶は目を合わせようともしてくれなかった。黙々と、既に食べ始めていたお弁当のおかずを、箸で口に運んでいる。
浮きがちだった彼女から見ても、自分は空気のような存在、いいや必要性で言えば空気の方が大切な、無視して構わない存在なんだと思い知らされた気になった。
今、浮いているのは己であり、希望を持つだけ無駄だった。
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