天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒

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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【003】カレーとウワサ

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 龍樹と別れてスミレが家に帰ると、カレーのよいにおいがした。

「おう。今日はカレーだ」

 キッチンからリビングへと振り返った和成が、スミレに声をかける。両親が不在の時は、大体の場合、和成が食事の用意をしてくれる。見かけによらず料理が好きらしい。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 スミレはそう言ってから、カバンをソファの上に置く。そして今日は疲れたなと思いながら、となりに座った。

「ほら」

 すると和成が、リンゴジュースをコップに入れて持ってきてくれた。

「お兄ちゃん、気がきく。たまに本当、気がきく」
「たまに? いつもきくだろ。わかってねぇなぁ、お前は」

 わざとらしくそう言ってから、和成がスミレの正面のソファに座る。すると、息を呑んだ気配がした。

「おい、スミレ」
「なに?」
「お前、今日どこかによってから帰ってきたのか?」
「えっ、どうして……?」

 和成は、じっとスミレを見ている。いつになく真剣な顔をしていた。

「……」
「え、なんで? お兄ちゃん?」
「どこに行ってきたんだ?」
「え、えっと……」

 スミレはこまった。いきなり心霊スポットで人形を回収するなんて話をしても、信じてもらえないと思ったし、天神様のことをそもそもどう説明したらいいか分からなかったからだ。

「ぬいぐるみを人形供養に持っていったけど? 深珠神社に」

 ウソはつかなかったが、スミレはごまかすことにした。

「……へぇ。きっとずいぶんと変わった神社なんだろうな」
「どうして?」
「別に。ま、がいはないだろ。それより夕食にするぞ」

 それ以上、和成はなにも言わなかった。
 この夜食べた和成のカレーは、とても美味しかった。


 次の日、和成はいつも早く出るので、スミレは一人でゆったりと歩きながら学校へと向かった。

 そして教室に入ると、南が待っていましたとばかりに顔を向ける。

「おはよ、スミレ。ねぇ、聞いた?」
「なにを?」
「深珠ロッジに、またお化けが出たんだって。三年の先ぱいが見て気絶して、今入院中だってウワサ」

 深珠ロッジというのは、深珠市の有名な心霊スポットだ。
 肝だめしの定番の場所で、毎年のように幽霊のもくげき情報がある。

「『人形が』『人形が』ってうわごとみたいに言ってたらしいよ」

 心霊スポットでの『人形』という言葉に、スミレはドキリとした。
 思わず視線で龍樹のすがたを探すと、龍樹は前を向いていた。いつも通りにしか見えない。

「こわいよねぇ」
「そ、そうだね……」

 南にも昨日のことは説明のしようがないため、スミレは一人もんもんとしながらその日を過ごした。そして放課後、南と部活に行こうとしていた時だった。

「天月、ちょっといいか?」

 龍樹に声をかけられた。クラスの視線が一気に集中する。昨日の件だとは分かっていたが、周囲がそれを分かるはずもない。

「う、うん」

 それでもなんとかうなずいて、スミレは南には先に行っていてほしいと告げて、龍樹とともに教室を出た。龍樹は階段わきに移動すると、スミレの目を見た。龍樹は、和成ほどではないが、スミレよりはずっと背が高い。

「深珠ロッジの話、聞いたか?」
「うん……」
「おそらく一体はそこにいる。元々あそこから回収した人形だったから」
「えっ、やっぱりそうなの……? 人形がいるの?」
「おそらくは。多分今日明日は、周辺にも近よるのが難しいかもしれないから、週末あけてくれないか?」
「あけるって……行くってことだよね?」
「ああ」

 うなずいた龍樹を見て、スミレは気が遠くなりそうになった。
 だが、早く人形を見つけ出して、このそうどうを終わらせたいという気持ちもある。

「……土曜日でも日曜日でも大丈夫だよ」
「だったら土曜日に。深珠ロッジのそばのバス停で待ち合わせをしよう」
「……わかった」

 正直、本当は行きたくない。だが、スミレには、ことわり方がわからなかった。



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