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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――
【020】初めての修行
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和成とともに帰宅したスミレは、この日はゆっくりとお風呂に入って、早めにねむることにした。自分の部屋でベッドに横になり、電気を消す。そしてまぶたを閉じたときだった。
「えっ?」
直後、スミレはさくらがきれいな学校の土手にいた。
見覚えがある。これは、転校する前に通っていた小学校の校庭だ。
「ゆめ……?」
そうつぶやいたとき、くすりと笑う声が聞こえてきた。
おどろいてふりかえると、そこには天神様が立っていた。
「ゆめではない。これから、ゆめを見る時間のあいだ、ねむっているときに、スミレには修行をしてもらう」
「修行……」
「ゆめの中でならば、龍樹のように物の怪を見たり、和成のように死者のこえを聞くことができる。まずはゆめの中で修行をし、過去や未来を見ることからはじめ、それがうまく出来るようになれば、おのずと現実でもその力をはっきできるようになるだろう」
二人と同じ力をつかえるようになると聞いて、だえきを飲みこんでから、大きくスミレはうなずく。
「がんばります! それで、なにをしたらいいの?」
「まずは見ておれ」
天神様はそういうと、さくらの木のみきに背中をあずけた。きょろきょろとスミレは周囲を見わたす。すると――水色のランドセルをせおった女の子が、さくらの木の下へとやってきた。
「あ」
それを見て、スミレはびっくりして目を見開く。そこにいたのは、おさない日の自分だったからだ。小さなスミレは、小学校二年生で、子供用のスマートフォンで時間をしきりに気にしている。
「スミレ。あちらには、今はスミレの姿が見えていない。過去の生きている人物には、基本的にスミレは見えないのだ」
スミレはうなずきながら、むねが痛くなった。
これは、自分の本当のお母さんが死んでしまった日のことだと思い出したからだ。
この日、小学二年生のその日の朝、母はスミレに言った。
『むかえに行くから待っていてね。ちょっと遅くなったらごめんなさい。そうしたら一緒にごはんを食べにいきましょうね』
それを信じて、スミレは待っていた。
しかし、五時になっても、六時になっても、お母さんは来なかった。もっと遅くなるのかな? そう考えながら、ずっと待っていた。
だが、スミレの実の母は、学校へ向かう途中に交通事故にあっていた。
スミレに気づいた学校の先生が家に連絡を取り、そして病院へと連れて行ってくれた。父はちょうど出張中だった。
この日からスミレは、『母親からの約束』がこわくなった。とくに、『遅れる』と言われるのがこわくなってしまった。今のお母さんの水紀もそれを知っているから、遅くなる時は、伝言というかたちで、和成に連絡を任せている。
思い出すと、みぞおちのあたりがぐっと重くなった。
「スミレ」
そのときだった。優しい声がしたから、顔を向けると、そこには実の母親のアカネが立っていた。
「お母さん!」
思わずスミレは抱きつこうとしたが、その手はからぶり、アカネにふれることはできなかった。天神様に抱きとめられる。
「夢の中の人間には、基本的にふれることはできない」
「……っ」
「だが、言葉をかわすことはできる」
天神様はそう言うと、優しくスミレの頭をなでた。うなずいてスミレは、振り返って改めてアカネを見る。
「約束をやぶってしまってごめんなさい」
「いいの、ううん、いいの。だいじょうぶ」
「けれどあれ以来、あなたは傷ついてしまったでしょう?」
「それは……」
「今のお母さんを信じてあげて。きっと、スミレとの約束をやぶったりしないわ。私が見守っているからね」
やわらかく笑ったアカネの体が、すうっと消えはじめる。
「お母さん、まって! まだ言いたいことがいっぱい――」
次のしゅんかん、スミレは目を覚ました。天井に向かいうでをのばしており、目からは涙がこぼれていた。
「ゆめ……?」
どうしてもそうは思えず、これが天神様の修行だったのだろうかと考えながら、スミレは学校へ行くための身支度をはじめる。すると水紀が卵焼きを作っていた。それを見て、スミレは勇気を出してみることにする。
「ねぇ、お母さん」
「おはよう、どうしたの?」
「今日は遅くなる? 早くなる?」
「えっ」
すると水紀がおどろいた顔をした。それからじっとスミレを見ると、小さく笑った。
「遅くなるのよ」
「うん、うん。帰ってくるの、待ってるね」
「そうね」
水紀はどこか気が抜けたような顔で笑ってから、静かに言った。
「もう、怖くはない?」
「わからないけど、だいじょうぶになったかもしれない」
「そう。昨日ね、アカネさんの夢を見たの。『もうスミレは大丈夫』と話していたから、私も『私がスミレを守りますので安心してください』と話しておいたのよ」
フライパンから手をはなすと、水紀がぎゅっとスミレを抱きしめた。
うでをまわしかえしながら、やっぱり夢じゃなかったようだと、スミレは思った。
「えっ?」
直後、スミレはさくらがきれいな学校の土手にいた。
見覚えがある。これは、転校する前に通っていた小学校の校庭だ。
「ゆめ……?」
そうつぶやいたとき、くすりと笑う声が聞こえてきた。
おどろいてふりかえると、そこには天神様が立っていた。
「ゆめではない。これから、ゆめを見る時間のあいだ、ねむっているときに、スミレには修行をしてもらう」
「修行……」
「ゆめの中でならば、龍樹のように物の怪を見たり、和成のように死者のこえを聞くことができる。まずはゆめの中で修行をし、過去や未来を見ることからはじめ、それがうまく出来るようになれば、おのずと現実でもその力をはっきできるようになるだろう」
二人と同じ力をつかえるようになると聞いて、だえきを飲みこんでから、大きくスミレはうなずく。
「がんばります! それで、なにをしたらいいの?」
「まずは見ておれ」
天神様はそういうと、さくらの木のみきに背中をあずけた。きょろきょろとスミレは周囲を見わたす。すると――水色のランドセルをせおった女の子が、さくらの木の下へとやってきた。
「あ」
それを見て、スミレはびっくりして目を見開く。そこにいたのは、おさない日の自分だったからだ。小さなスミレは、小学校二年生で、子供用のスマートフォンで時間をしきりに気にしている。
「スミレ。あちらには、今はスミレの姿が見えていない。過去の生きている人物には、基本的にスミレは見えないのだ」
スミレはうなずきながら、むねが痛くなった。
これは、自分の本当のお母さんが死んでしまった日のことだと思い出したからだ。
この日、小学二年生のその日の朝、母はスミレに言った。
『むかえに行くから待っていてね。ちょっと遅くなったらごめんなさい。そうしたら一緒にごはんを食べにいきましょうね』
それを信じて、スミレは待っていた。
しかし、五時になっても、六時になっても、お母さんは来なかった。もっと遅くなるのかな? そう考えながら、ずっと待っていた。
だが、スミレの実の母は、学校へ向かう途中に交通事故にあっていた。
スミレに気づいた学校の先生が家に連絡を取り、そして病院へと連れて行ってくれた。父はちょうど出張中だった。
この日からスミレは、『母親からの約束』がこわくなった。とくに、『遅れる』と言われるのがこわくなってしまった。今のお母さんの水紀もそれを知っているから、遅くなる時は、伝言というかたちで、和成に連絡を任せている。
思い出すと、みぞおちのあたりがぐっと重くなった。
「スミレ」
そのときだった。優しい声がしたから、顔を向けると、そこには実の母親のアカネが立っていた。
「お母さん!」
思わずスミレは抱きつこうとしたが、その手はからぶり、アカネにふれることはできなかった。天神様に抱きとめられる。
「夢の中の人間には、基本的にふれることはできない」
「……っ」
「だが、言葉をかわすことはできる」
天神様はそう言うと、優しくスミレの頭をなでた。うなずいてスミレは、振り返って改めてアカネを見る。
「約束をやぶってしまってごめんなさい」
「いいの、ううん、いいの。だいじょうぶ」
「けれどあれ以来、あなたは傷ついてしまったでしょう?」
「それは……」
「今のお母さんを信じてあげて。きっと、スミレとの約束をやぶったりしないわ。私が見守っているからね」
やわらかく笑ったアカネの体が、すうっと消えはじめる。
「お母さん、まって! まだ言いたいことがいっぱい――」
次のしゅんかん、スミレは目を覚ました。天井に向かいうでをのばしており、目からは涙がこぼれていた。
「ゆめ……?」
どうしてもそうは思えず、これが天神様の修行だったのだろうかと考えながら、スミレは学校へ行くための身支度をはじめる。すると水紀が卵焼きを作っていた。それを見て、スミレは勇気を出してみることにする。
「ねぇ、お母さん」
「おはよう、どうしたの?」
「今日は遅くなる? 早くなる?」
「えっ」
すると水紀がおどろいた顔をした。それからじっとスミレを見ると、小さく笑った。
「遅くなるのよ」
「うん、うん。帰ってくるの、待ってるね」
「そうね」
水紀はどこか気が抜けたような顔で笑ってから、静かに言った。
「もう、怖くはない?」
「わからないけど、だいじょうぶになったかもしれない」
「そう。昨日ね、アカネさんの夢を見たの。『もうスミレは大丈夫』と話していたから、私も『私がスミレを守りますので安心してください』と話しておいたのよ」
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