うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第三章

5

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 彰太は聞こえないふりをして目を閉じたが、一翔は「……出なくていいの?」と止まった。彰太がいい、と言ったとたん、またチャイムが鳴った。

「とりあえず、誰が来たか確かめよう?」

 ね? 
 手を引かれ、玄関に連れて行かれる。彰太はしぶしぶドアスコープを覗き、目を丸くした。「琉兄だ」と、一翔を振り返る。え、と一翔が固まる。さすがに予想外だった。すると彰太が。

「そういえば、一翔がなかなか目を覚まさない、どうしようってライン送ったんだった」

 再びチャイムが鳴る。のほほんとする彰太に対し、慌てたのは一翔だ。

「と、とりあえず早く出ないと」

 そうだった。
 彰太が鍵を開け、ドアを開けた。そこには確かに、琉太がいた。彰太の姿を確認してほっと胸を撫で下ろすも、すぐに目を吊り上げた。

「──彰太。電話にも出ず、ラインにも返信しないとはどういうことだ?」

 彰太は頬を膨らませた。

「返信してくれなかったのは琉兄じゃん。おれずっと待ってたのに」

「はあ? ラインに気付いたのは少し遅れたが、すぐに返しただろうが!」

 えー? 
 彰太が奥の洋室に引っ込み、スマホを確認する。そして「あ、充電切れてる」の一言。

 部屋に上がった琉太は「……お前なあ」と拳を震わせた。背後で一翔が「す、すみません。俺のせいで」と謝罪した。琉太は怒りをおさえ、大きなため息をつき、一翔に視線を移した。

「……事情は、こいつからだいたい聞いてるよ。大変だったな。ここにいるってことは、全部片付いたってことでいいのか?」

「──はい」

 目を細め、静かに頷く一翔。琉太は何かを言おうと口を開きかけたのだが。わざとなのか天然なのか。二人の間に彰太がひょいっと入ってきたので、琉太は一旦口を閉じた。

「琉兄。仕事は?」

「……今日は土曜だ」

「あ、ホントだ。良かった。おれも会社休みだ。無断欠勤するところだった」

「お前……いや、いいわ」

 イライラしながら言いたいことをぐっと呑み込んだ琉太に、一翔は雰囲気を変えようと「琉太さんは、この近くに住んでいるんですね」と何の気なしに訊ねた。が。

「琉兄が住んでるのは千葉だよ」

 あっけらかんと答える彰太。一翔は、え、と口を半開きにした。見たところ大きな荷物はなく、着の身着のままといった感じだ。弟のライン一つで、千葉から奈良まで飛んできたのか。

 想像以上の溺愛っぷりに──一翔は気を引き締めた。琉太はこほんと咳払いを一つした。

「彰太。小遣いやるから、何か菓子でも買ってこい」

 真顔で「琉兄。おれ、もう社会人なんだけど」と彰太が答える。何かを察した一翔は、意識して優しく彰太に微笑みかけた。

「彰太。お腹空いたから、何か食べるもの買ってきてもらっていい?」

 彰太は一翔に向き直るなり「わかった。買ってくる」と即答した。

 何がいい?
 見えない幻のしっぽをふりながら訊ね、彰太は財布片手に早々と部屋を後にした。あまりの盲目っぷりに、琉太は少し心配になったほどだが、あんなに幸せそうにしている弟を見るのはそれこそ六年ぶりだったので、やはり嬉しくもあった。だが。

 琉太が「察しがよくて助かったよ」と一翔に向き合う。一翔は「いえ」と口元を緩める。

「何か俺に聞きたいことがあるのなら、何でも聞いて下さい」

 琉太は少し迷う素振りを見せたあと、覚悟を決めたように口を開いた。

「──その、何だ。お前は、男のあいつのこと、本当に恋愛対象として見てんのか?」

 質問の内容が意外だったのか、一翔は「……俺の家族のことは聞かないんですか?」と目を丸くした。

「さっき聞いた。全部片付いたからここにいるんだろ?」

「でも、嘘だったら? 彰太からお金を騙しとるためにここに来たんだとしたら?」

 俺は。
 一度言葉を切り、一翔は重い口を開いた。

「俺の中には、どうあがいても、あいつらの血が流れていることには変わりないんですよ?」

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