君の見た色

Sora10gp

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色を重ねる

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純白のカーテンを揺らす
この季節特有の
温かくなりだした
穏やかな風には

今は微かに桜の香りが混じり
時には花びらすらも舞い込む


そんな美術室の片隅で
私は筆を走らせる


純白のカンバスに描かれた
薄紅色の桜は

この美術室のすぐ隣に聳える
樹齢を優に百年は越えるであろう大桜


満開を迎えた
その桜を私は
まるで風景を切るとるように
丁寧に落とし込んでいく

描き上がった絵は
模写、としては少しだけ拙く
どこか抽象的で

自分で何と表現したからいいか

それでも無理やり表現するとすれば
『ふわふわとした』出来映えとなった


無論、
これは練習用の絵であり
このままでも
誰に咎められる事もない

でもー

私は、一度
周囲に眼をやる

美術室に、自分以外
誰もいない事を確認すると


新たに数色の
絵の具をバレットに置いていく


黄色、橙色、水色
紫、群青色


どれも一見すれば
この絵には必要のない色だ



そして、



それらの色を
無造作に、そして繊細に
カンバスへと乗せて行く

配色なんて
どうでもいい

端から見れば、
もう殆ど自棄糞の領域



しかし、
違う




実際、
これが正しい


私には
【こう】見えているのだ

勿論、あの大桜に
こんな描写はあり得ない事は
理解している


きっと、これは
桜に残された
【記憶達】なんだ


入学の期待と
希望に満たされた

黄色、


橙色は
きっと、誰かが
あの木の下で
告白でもしたのだろうか


そして、
慰めるように淡く紫


夏になれば
運動部は木の下で
身体を休める

そんな時に
安心するのね

水色が滲んでいる


そして、

卒業前になれば
そこで記念撮影

不安と別れを惜しむ
群青色は綺麗だけど
どこか寂しげだ


「相変わらず、
不思議なタッチの絵ね」


どうやら私は
少し夢中になりすぎていたらしい

突然の事に、肩が跳ねる
思わず振り返ると



美術室の入り口で不敵に微笑む
先輩の姿があった


「せ、先輩…
驚かせないでくださいよ…」


先輩からの返事はない

代わりに、
こちらへ歩み寄りながら

「普段から
そういう風に描けばいいのに」

そういう心地よい
嘲笑を口にし

描きかけながら
もう殆ど完成された
私の絵を覗き込む

「印象派…
それでいて象徴的でありながら
どこか抽象派の様でもある…」

「見れば見るほど、
引き込まれるみたいな…」


そういう風に言ってくれるのは
美術部でも
この先輩くらいなものだ


「は、はぁ…」

恥ずかしい様な
こそばゆい気持ちになる

「入部当時は、
ああいう絵ばかりだったのに」

先輩がそう言って指差したのは

私が描いた
ユリの花である


純白の広いカンバスに
ひっそりと咲く一本のユリ


周りの人には


きっとそう


【見えている】




でも



私にはー
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