6 / 9
乾いた色
しおりを挟む
私には、
才能がない
その事は
痛い程に自覚していた
だからこそ
それを技量で埋める事にした
ただ、綺麗に
ただ細かい部分に至るまで
描き込む事だけ
それだけを
徹底的にやってきた
結果は
自ずとついてきた
賞を取ったのだって
一度二度じゃない
言い知れない
渇きを覚えたのは
そんな時だった
転換点は
ある市のコンテスト
金賞に輝いた
その作品は
ほぼ完璧な出来の模写だった
ほぼ、というのは
所々に甘い箇所
例えば、歪んだ線や
観察が行き届いてない場所がある
という意味だ
「名前は…灯、か…」
彼女であれば
或いは、
好敵手になるかもしれない
私の手の届く限りで
彼女の事で調べてみて
わかった事と言えば
名前と、せいぜい
どこの中学か
という事だけだ
接点を持つことなんて
到底、
不可能だと思われた
いっその事
その中学まで
赴いてやろうとも考えたが
さすがに憚られた
どうする事も出来ずに
一年あまりが過ぎ
私も学年が一つ上がり
彼女の名前すらも忘れかけた
そんな、
ある日
教室を出た廊下で
偶然聞こえた会話の中に
『灯』の名前を耳にした
瞬間、
あの日の絵が
生々しささえももって甦る
私は思わず話をしていた子達に詰め寄る
きっと私は【凄い】顔をしていたのだろう
彼らも少々ひきつった顔をしていたが
そんな事は
些細過ぎる事
気にもならない
曰く、彼女は
市のコンテストで金賞をとっている
全て符号する
彼女のクラスを聞き出すと
私は走り出していた
そういえば、
あの時、
彼女の事を教えてくれた子達に
礼すら言っていない気がする
彼女の教室に辿り着いた私は
迷わず扉を開いた
気づいた者から
談笑が止まる
空気が冷たく
異物でも見る視線が刺さる
無理もない
入学して間もない新入生の教室に
前触れもなく上級生が現れたのだから
だが
当時の私には
それすらも
気にする余裕はなかった
私は近くの女子を捕まえ
彼女の所在を聞くが早いか
彼女の机へと辿り着くと
前置きなく
こう問い詰め寄った
「ねぇ!
市で賞を取ったっていうのは、
君であってるかい?」
教室は
にわかにざわついている
だが、当時の私にとって
それらは雑音にすら劣る
状況を慮る事なく
また彼女の羞恥心すらも
考慮する事なく
返答に窮する彼女に
私はさらに続ける
「ねぇ、聞いているか?
後輩」
この時ばかりは
先輩風だろうが
何だろうが
使える物は
全て使った
だからこそ
彼女の囁きにすら劣る返答すら
一語一句聞き漏らす事はなかった
「まぁ…そうです」
きっと私の脳内では
踊り狂っている状態だったろう
実はよく思い出せないんだ
考えるより先に口が動いていた
「美術部へ来ないか?」と
一応は疑問符を使っているが
事実上の命令に近かったと思う
しかし
だからこそ、
次の返答は
私を地の底に叩き落とすものだった
「いや…、私、絵は…」
才能がない
その事は
痛い程に自覚していた
だからこそ
それを技量で埋める事にした
ただ、綺麗に
ただ細かい部分に至るまで
描き込む事だけ
それだけを
徹底的にやってきた
結果は
自ずとついてきた
賞を取ったのだって
一度二度じゃない
言い知れない
渇きを覚えたのは
そんな時だった
転換点は
ある市のコンテスト
金賞に輝いた
その作品は
ほぼ完璧な出来の模写だった
ほぼ、というのは
所々に甘い箇所
例えば、歪んだ線や
観察が行き届いてない場所がある
という意味だ
「名前は…灯、か…」
彼女であれば
或いは、
好敵手になるかもしれない
私の手の届く限りで
彼女の事で調べてみて
わかった事と言えば
名前と、せいぜい
どこの中学か
という事だけだ
接点を持つことなんて
到底、
不可能だと思われた
いっその事
その中学まで
赴いてやろうとも考えたが
さすがに憚られた
どうする事も出来ずに
一年あまりが過ぎ
私も学年が一つ上がり
彼女の名前すらも忘れかけた
そんな、
ある日
教室を出た廊下で
偶然聞こえた会話の中に
『灯』の名前を耳にした
瞬間、
あの日の絵が
生々しささえももって甦る
私は思わず話をしていた子達に詰め寄る
きっと私は【凄い】顔をしていたのだろう
彼らも少々ひきつった顔をしていたが
そんな事は
些細過ぎる事
気にもならない
曰く、彼女は
市のコンテストで金賞をとっている
全て符号する
彼女のクラスを聞き出すと
私は走り出していた
そういえば、
あの時、
彼女の事を教えてくれた子達に
礼すら言っていない気がする
彼女の教室に辿り着いた私は
迷わず扉を開いた
気づいた者から
談笑が止まる
空気が冷たく
異物でも見る視線が刺さる
無理もない
入学して間もない新入生の教室に
前触れもなく上級生が現れたのだから
だが
当時の私には
それすらも
気にする余裕はなかった
私は近くの女子を捕まえ
彼女の所在を聞くが早いか
彼女の机へと辿り着くと
前置きなく
こう問い詰め寄った
「ねぇ!
市で賞を取ったっていうのは、
君であってるかい?」
教室は
にわかにざわついている
だが、当時の私にとって
それらは雑音にすら劣る
状況を慮る事なく
また彼女の羞恥心すらも
考慮する事なく
返答に窮する彼女に
私はさらに続ける
「ねぇ、聞いているか?
後輩」
この時ばかりは
先輩風だろうが
何だろうが
使える物は
全て使った
だからこそ
彼女の囁きにすら劣る返答すら
一語一句聞き漏らす事はなかった
「まぁ…そうです」
きっと私の脳内では
踊り狂っている状態だったろう
実はよく思い出せないんだ
考えるより先に口が動いていた
「美術部へ来ないか?」と
一応は疑問符を使っているが
事実上の命令に近かったと思う
しかし
だからこそ、
次の返答は
私を地の底に叩き落とすものだった
「いや…、私、絵は…」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる