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私には見えなかった色
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そこからはもう
なりふりなど考える余裕などなかった
今にして思えば
あれが引き返せる
最後の別れ道であったとさえ思える
それからは休み時間は勿論
トイレ中だろうが
登校中だろうが、
放課後だろうが
時間、場所関係なく
彼女を勧誘し続けた
狂気的に思わせていたかもしれない
だが、それが功を奏して
彼女は無事?
美術部への入部を果たした
でも、実際の彼女は
私の予想した人物とは
大きく違った
彼女の描く絵は
繊細で、かつ綿密
これはコンテストで見た物と
変わらない
しかしー
私は彼女が描いた
ユリの絵を眺める
綺麗な絵だと思った
細部まで書き込まれ
模写されている
線は歪んでいない
甘い箇所もない
けれどー
何かがおかしいのだ
まるで間違い探しの
間違いが見つからない時のような
そんな
強烈な違和感だけが残る
それは、
私が彼女の絵の違和感に気付いて
数日後の
ある日の事だった
その数日というもの
彼女は部活には真面目に参加し
私や顧問の話を
一見すれば真剣に聞いていた
これは私の
感覚の問題かもしれないが
空虚に対して話をしているような
そんな違和感だけが拭えずにいた
まるで、破けた風船に
それでも空気を入れ続けているような
そんな感覚だった
部活は、とうに終わり
帰ろうと思っていた
まさに
その時
私の目に
開け放たれた
美術室の扉が目に入る
電灯はついていない
単に閉め忘れただけか
そう思って近づいて
ふと、
人の気配に気付く
誰か
残っているのか
もしそうであれば
帰りを促そう
そう思って
中を覗いた瞬間
私の背筋は凍った
そこにいたのは
灯だった
彼女は徐に
バレットから色をとると
一瞬の間の後
筆をキャンバスに叩きつける
絶えず、何度も、何度も
何度も
何度も
私は呼吸すら忘れて
魅力される
それは
決して絵ではない
心や魂といった物の
叫び
だった
その光景を
どれ程の時間
見つめ続けた事だろう
一分、五分、
いや、一時間ほどが
経ったかもしれない
とにかく、気づいた時には
暫くそうしていた灯の動きは
止まっていた
肩で息をして
苦しみにあえいだ
次の瞬間
心底満足したように
彼女は笑ったのだ
彼女の肩の奥に見え隠れする
その【作品】は
私の全てを破壊するのに
十分な衝撃だった
価値観、経験、そんな物は
木っ端微塵に吹き飛んだ
彼女はきっと
解放されたに違いない
いや
違う
もう一押しが
必要なのだ
私は電灯のボタンに
手を伸ばした
その日から
私の渇望は
より現実の痛みを伴う物となった
彼女の才能、
それは
誰もが認めざるを得ない
それは
一番近くにいた私こそが
誰より認めざるを得ない
彼女のタッチは
常軌を逸している
一度、彼女は
こういう事を言っていた
「私には
人に見えない色が見えるんです」
と、それが仮に本当であれば
人の粋を外れた感覚で
それを才能、
と呼ぶのではないか
これまでも
私は、そういう輩を
努力という方法で
捩じ伏せてきた
しかし、
彼女は
彼女だけは
所謂、格が違った
いや、
違い過ぎた
勿論、
試した事がない訳がない
彼女のタッチ、色使い
何度と真似をしてみても
それは所詮、猿真似に過ぎず
及ばないどころか
足元にすら辿り着けない
彼女の事は
自分と同じ系統の部員
いや、ここでは敢えて
美術家と呼ぶが
向き合えば
向き合う程に
どうしても埋められない差を
実感させられる
それが
許せなかった
なりふりなど考える余裕などなかった
今にして思えば
あれが引き返せる
最後の別れ道であったとさえ思える
それからは休み時間は勿論
トイレ中だろうが
登校中だろうが、
放課後だろうが
時間、場所関係なく
彼女を勧誘し続けた
狂気的に思わせていたかもしれない
だが、それが功を奏して
彼女は無事?
美術部への入部を果たした
でも、実際の彼女は
私の予想した人物とは
大きく違った
彼女の描く絵は
繊細で、かつ綿密
これはコンテストで見た物と
変わらない
しかしー
私は彼女が描いた
ユリの絵を眺める
綺麗な絵だと思った
細部まで書き込まれ
模写されている
線は歪んでいない
甘い箇所もない
けれどー
何かがおかしいのだ
まるで間違い探しの
間違いが見つからない時のような
そんな
強烈な違和感だけが残る
それは、
私が彼女の絵の違和感に気付いて
数日後の
ある日の事だった
その数日というもの
彼女は部活には真面目に参加し
私や顧問の話を
一見すれば真剣に聞いていた
これは私の
感覚の問題かもしれないが
空虚に対して話をしているような
そんな違和感だけが拭えずにいた
まるで、破けた風船に
それでも空気を入れ続けているような
そんな感覚だった
部活は、とうに終わり
帰ろうと思っていた
まさに
その時
私の目に
開け放たれた
美術室の扉が目に入る
電灯はついていない
単に閉め忘れただけか
そう思って近づいて
ふと、
人の気配に気付く
誰か
残っているのか
もしそうであれば
帰りを促そう
そう思って
中を覗いた瞬間
私の背筋は凍った
そこにいたのは
灯だった
彼女は徐に
バレットから色をとると
一瞬の間の後
筆をキャンバスに叩きつける
絶えず、何度も、何度も
何度も
何度も
私は呼吸すら忘れて
魅力される
それは
決して絵ではない
心や魂といった物の
叫び
だった
その光景を
どれ程の時間
見つめ続けた事だろう
一分、五分、
いや、一時間ほどが
経ったかもしれない
とにかく、気づいた時には
暫くそうしていた灯の動きは
止まっていた
肩で息をして
苦しみにあえいだ
次の瞬間
心底満足したように
彼女は笑ったのだ
彼女の肩の奥に見え隠れする
その【作品】は
私の全てを破壊するのに
十分な衝撃だった
価値観、経験、そんな物は
木っ端微塵に吹き飛んだ
彼女はきっと
解放されたに違いない
いや
違う
もう一押しが
必要なのだ
私は電灯のボタンに
手を伸ばした
その日から
私の渇望は
より現実の痛みを伴う物となった
彼女の才能、
それは
誰もが認めざるを得ない
それは
一番近くにいた私こそが
誰より認めざるを得ない
彼女のタッチは
常軌を逸している
一度、彼女は
こういう事を言っていた
「私には
人に見えない色が見えるんです」
と、それが仮に本当であれば
人の粋を外れた感覚で
それを才能、
と呼ぶのではないか
これまでも
私は、そういう輩を
努力という方法で
捩じ伏せてきた
しかし、
彼女は
彼女だけは
所謂、格が違った
いや、
違い過ぎた
勿論、
試した事がない訳がない
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何度と真似をしてみても
それは所詮、猿真似に過ぎず
及ばないどころか
足元にすら辿り着けない
彼女の事は
自分と同じ系統の部員
いや、ここでは敢えて
美術家と呼ぶが
向き合えば
向き合う程に
どうしても埋められない差を
実感させられる
それが
許せなかった
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