君の見た色

Sora10gp

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行き場を失った色

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憎しみの対象は
何も彼女にではない


寧ろ
その境地に辿り着けない
自分への物だ



だから、


私はナイフを
手に取った


最初に切り裂いたのは
自分でも最高傑作だと自負していた絵


これは公園のベンチ


他より長い時間をかけて
観察し


製作した


陽の当たり具合
それによって出来る日焼け


影の延び具合


置きっぱなしになった傘


周囲の木々


全てがその作品の
味を引き立てている



だが、これすらも
彼女の独創的な絵には
遠く及ばない


そんな事を繰り返して
それでも彼女はいつもと変わらず


やさしく言葉をかけてくれる

挨拶をくれる


自分の絵が切り刻まれる

それは
誰かわからない
相手から向けられる


そのものだ


その日、
部活はないというのに
彼女は絵を描く
という話を耳にした

足音を殺し、
息を潜めて美術室を覗くと

彼女は、どうやら
美術室のすぐ側に聳える
桜の木を描いている

一度、全体をふわりと描いて
それから彼女が見ているという
【色】を乗せていく

大胆に、
繊細に


絵に命を吹き込んでいく

その光景自体が
まるで、一枚の絵画だ


彼女が立ち去るのを待つつもりが

私は思わず声をかけてしまった

「相変わらず、
不思議なタッチの絵ね」と

彼女の小さな身体が跳ねる

彼女は振り返り

「せ、先輩…
驚かせないでくださいよ…」

その声は
どこか震えている気がした


私は嘯く
「普段から
そういう風に描けばいいのに」

嘘だ、
彼女が私以外の誰かに
こういう絵を描いている
姿を見せなくないとしているのを


私は知っている


「印象派…それでいて象徴的でありながら
どこか抽象派でもある…」

全てが彼女の絵を研究して
似た絵を探して
参考書を漁りまくった


「見れば見るほど
引き込まれるみたいな…」

私は、ずっと前から
引き込まれっぱなしだった


そして、
「入部当時は
ああいう絵ばかりだったのに」

そう言って私が指差したのは
最初の違和感に気づいた
あのユリのデッサンだった

彼女は笑顔を作り
「絵は自由な物なんだ、って
先輩が言ってくれたじゃないですか」

そんな懐かしい事

今の私は
口が裂けても言えやしないだろう

ただ私は

「そういえば、
そういう事も言ったね」

と、忘れたフリ
酷い事をしている自覚はある

だけど彼女は
更に

「ええ、だから
今こうして描いているのは
先輩のせいなんです
責任、とってもらいますからね」


と、笑みを浮かべて
まるで悪戯に
舌でも出しているみたいな言い方


胸がズキリと痛む
「まいったな…」


これは本音だった



そして、
彼女は思い出した様に口にする

「それは、そうと先輩は
今日はどうして美術室に?
今日部活ない日ですよね?」


心臓が早鐘を打つ
知られたくないと思った

彼女にだけは
何があっても


「あぁ…、でも
それは後輩もそうだろ?」

私は曖昧に
濁すような返事を
何とかと搾り出す


私はポケットの中の
パレットナイフを
思わず握りしめてしまう


あの日以来
何故か一度も
手放せずにいた



彼女が
不意に話題を変える

「先輩、これからどこか
ご飯でも食べに行きませんか?」


これ以上彼女と居たら
全てが露呈する

それだけはダメだと
心が警鐘を鳴らす


私はきっと許されない


それならいっそ…
全ての罪を警察にでも自白して
償おう


彼女に知られるのは
その後で構わない



面と向かって
拒絶されるよりは


ずっといい



「…悪い、これから少し
野暮用があるんだ」


しかし、
彼女は逃してはくれなかった


「その【野暮用】
私も一緒に行っちゃダメ、ですか?」


あぁ、
この子は全て知っている

そう直感するも

私は最後の抵抗を試みる



「…はは、面白い事を言うな…
後輩は…」

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