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赤ちゃんでも最強

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「おぎゃーおぎゃー!」

「奥様、おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」

「ああ……わたしの可愛い坊や。 ほら、こちらに……」

 え、ちょっと待って。
 まさかの赤ん坊スタート?
 そんでもって、今俺を優しく抱いているこの美人さんが母親?
 頭がついていかない。

「この子がわたしの子供なのね。 なんて幸せなのかしら。 ねえ、アンドリュー」

「うん……そうだね。 僕らは幸せものだよ、マリア。 こんな子宝に恵まれて」

 んで、こっちが父親か。
 優男だがどこか頼り甲斐のありそうな人だな。
 これは親ガチャ成功と見てもよさそうだ。

「ふふ、いつ喋ってくれるのかしら。 今から待ち遠しいわ」

「ははは、まだまだ先だよマリア。 産まれたばかりなんだから」

「わかってるわよ、アンドリュー。 ちょっと言ってみただけ! 良いでしょ、別に!」

 うわぁ、バカップルだ。
 稀に見る真正のバカップルだ。
 産まれたばかりで申し訳ないが、少し離れたい気持ちに……。

「え……?  ア……アアア、アンドリュー!? リュートが! リュートちゃんが……!」

「こ、これは一体なにが……!」

「ひぃぃぃ!」

 ……あれ?
 なんか俺、浮いてない?
 いやこれ浮いてるわ、完全に。
 どういう事なのよ、これ。
 なんで浮いてんのさ。
 超常現象かな。
 あ、もしかしてあれか。
 創造魔法とかいう……。

 両親も余りの光景に、呆然とただ見上げている事しか出来ないでいる。
 これは申し訳無いことをした。
 とりあえず降りよう。

 ポスッ。

 ふう、これで一安心……、

「だっ、旦那様! 奥様! その赤ん坊からお離れください! ご子息は普通ではございません! それこそかの魔王を彷彿とさせる……!」

 なわけがなかった。
 だって赤ん坊が飛んだんだぜ?
 そりゃ騒ぐよ、魔王呼ばわりもされるよ、そりゃあ。

 どうしよう、なんとか誤魔化さないと。
 なんとか弁明を……って、ダメだ。
 声なんか出したら余計に悪化する。
 多分、創造魔法を使えばなんとかなりそうではあるが、やらない方が良い。
 絶対良い方向には行かないから。
 かといってこのままじゃ……うーん。
 と、悩んでいた最中。
 両親がこんな事を……。

「魔王……ですか。 ふふ、そんな訳ある筈がないじゃないですか。 ほら見てください、この寝顔。 ただの愛らしい子供にしか見えませんよ。 でしょう、アンドリュー」

「ああ、そうだな。 可愛い我が子だ。 魔王なんかじゃないよ、決して」

 セーフ!




 あれからおよそ二ヶ月。
 なんとなく、この力の扱い方がわかってきた。
 この創造魔法ってやつは、その名の通り、自分の思うがままに魔法……つまるところ現象を創造する魔法、みたいだ。
 チートが過ぎませんか、女神様。
 神業がごとき力なんですけど。
 とはいえ、何でもかんでも出来る訳じゃない。
 行使するには明確なイメージが大切だ。
 浮くにしろ、風を操るにしろ、イメージがリアルな程効果が高まり、持続力も増す。
 だからこの魔法でもっとも大事なのは、想像力と知識量。
 これを鍛えれば鍛えるほど、創造魔法はドンドン強くなる。
 現に今では小一時間程度なら、浮くだけに飽きたらず、

「待て、リュート! そろそろ休憩にしないか!? 父さんもう体力が……」

 こうして父さんと追いかけっこする事が可能となるまでに成長した。
 ちなみに俺の方が数倍速いから、父さんじゃ絶対に捕まえられない。

「アンドリュー、もうそろそろお茶にしない? 疲れたでしょう?」

「うん、まあね。 でもリュートを放っておく訳にはいかないよ。 もし魔物に襲われでもしたら……」

「あら、その心配は要らないんじゃないかしら。 むしろ貴方の方が足手まといになりそうだもの。 いつもみたいに」

 ごもっとも。

「うぅ……父親の面目が立たないなぁ。 はいはい、今行くよ。 ほら、リュートも」

 へいへい、仕方ない。
 たまには父さんの顔でも立てると…………ん?

 魔力探知レーダーになんか引っ掛かった。
 魔物か?
 方角は目の前の森みたいだが……。

 ガサッ。

「!」

 うおお、藪からなんか凄いの出てきた。
 狼……なのか、こいつ?
 にしては妙な威圧感が……。

「リュート? 何して……リュート!」

 飛び出してきた冷気を纏う狼に、父さんは剣を抜いて俺を守るよう魔物に立ち塞がる。

「この狼……まさか……………」

「貴方!」

「下がっているんだ、マリア!」

 魔法師の母さんが父さんに加勢しようとしたが、父さんがそれを拒否。
 母さんも父さんの様子からまともじゃない相手と悟ったのか、魔物から距離を取り、魔法陣を出現させ待機する。

「この尋常じゃない膨大な魔力……もしかして、この魔物は……」

「ああ、間違いない。 魔王が使役していたという、Sランクの魔物。 フェンリルだ」

 フェンリル、キター!
 見た目からなんかそれっぽいとは思ったけど、まさか本当にあの有名な魔物、フェンリルだったなんて。
 これぞ異世界の醍醐味。
 異世界に来て良かった。
 ……でもこいつ、父さんの言い方からして多分、魔王直属の配下だったって事だよな。
 だとしたら相当高位の魔物な筈。
 そんな魔物相手に父さんは大丈夫なのか?

「グルルルル……」

「くっ!」

 あ、ダメっぽい。
 二人とも腰が引けてる。
 やっぱりかなり強いのか。
 
「……! アンドリュー!」

 フェンリルが吐き出した氷のブレスを母さんは咄嗟に結界魔法で防ぐ。
 が、明らかに向こうの魔力の方が高い。
 あれでは耐えきれないだろう。

「ッ!」

 案の定、結界が破壊されかけている。
 仕方ない、手を貸すか。
 えっと、魔力不足で強度が足りないんだから、結界に魔力を注ぎ込んで強度を増すイメージで。

「ばぶっ」

「……え?」

 上手くいった上手くいった。
 壊れる寸前だったバリアは瞬時に再生。
 フェンリルのブレスを防ぎきる。
 流石に防がれるとは思わなかったのか、フェンリルが一瞬怯んだ。
 その隙を見逃さなかった父さんは、一気呵成に。

「うおおおおおっ!」

 斬りかかる、が。

 ガキンッ。

「な、なんという堅さ! これでは剣が通らん!」

 フェンリルの身体に傷を一つとしてつける事叶わず、逆に体当たりでぶっ飛ばされてしまう始末。

「ぐあっ!」

「貴方!」

 更にフェンリルは追い討ちをかけるべく、またブレスを……。
 やれやれ、傍観はここまでかな。
 いっちょやりますか。

「我々もここまでか……すまない、マリア、リュート。 守ってやれず……」

「ごめんなさい、リュート。 お母さん達の力が及ばないばかりに……」

 なんか悲壮感にうちひしがれてるが、そんな必要はない。
 何故ならこの程度のブレス、俺には驚異ですらないのだから。

「リュ……リュートちゃん……?」

「リュート……お前、なにを……」

「ばぶぅ」

 母さんが作っていた結界を見よう見真似で作ってみたバリアを、目の前に展開。
 先程のアレとは強度もカバー範囲も段違いのソレは、いとも簡単にフェンリルのブレスは妨害した。
 
「「………………」」 

 父さんと母さんが固まってしまったが、好都合。
 口を挟まれない内に、決める!

「あいだぶ!」

 属性は火。
 構築は空間。
 範囲は円。
 このイメージを元に魔法を生成。
 最後に魔力をぶちこんで一丁上がり。
 名付けて!

「ばーぶー!」

 グランドカノン!

「ウオオオオオン! ……キャイイン…………」

 初めこそは威嚇していたフェンリルだったが、天まで届きそうな火柱が周囲に幾つも吹き出した途端、豹変。
 情けない鳴き声を上げながら、その場で踞ってしまった。

 俺としては今ので消し炭にするつもりだったのだが、いかんせんグランドカノンは直接狙う魔法ではなく、相手の動きを逆手に取って焼き尽くすトラップ型の魔法。
 まさか動かないとは思わなかったから、不発に終わってしまった。
 なら……今度は直接当てる魔法を使うだけだ。

「ばぶぶ!」

 属性は火。
 構築は指向性。
 範囲は点。
 直線上の全てを灰塵にしろ!
 
「あーだーぶー!」

 バレットレーザ…………!

『待て!』

 ……ん?
 今なんか頭の中に声が響いたような。
 気のせいだろうか。
 両親や遅れてやってきた近衛騎士らを見てみても、誰一人と口を開いていない。
 やはり俺の気のせいか。
 じゃあ続きを、と改めてバレットレーザーを発射しようとしたその時。
 またしても、あの声が聞こえてきた。
 真正面から。

『どうかこの通りだ、許してくれ! いや、許してください! 自分にはもう貴方様に逆らう気はございません! なのでどうか一つ温情を……!』

 ……え? 
 今こいつ喋った?
 魔物なのに?
 どうやら本当にこいつが喋っているらしい。
 しきりに、何とぞ何とぞと命乞いを繰り返している。
 俺としても殺生はしないに越した事は無いから、このままお帰り頂きたいところなのだが、まだ言葉を発せない未熟児だから言葉による意志疎通は不可能。
 ボディランゲージでなんとか伝われば良いのだが。

「だあ、だぶだぶ。 だぶー」

 伝われ、俺の想い!

『……?』

 ダメだ、伝わってないっぽい。
 万事休す。

『もしや、まだ言葉を…………確かにまだ赤子であらせられるが、同じ年の頃、魔王様は既に魔力通話テレパシーで我らとお話になられた。 であれば、あの方と同程度。 いや、あの方以上の魔力を持つ貴方様であれば出来そうなものだが……』

 なるほど、だからこいつの言葉が脳内に直接伝わってきてたのか。
 物は試しだ、やってみよう。

「あぶぅ……」

 属性は無。
 構成は伝播。
 範囲は対象指定。
 多分、これなら……。

『あー、あー。 俺の声聞こえる? 聞こえてたら返事してくれ』

『おお! 聞こえる! 聞こえますぞ、主殿!』

『よかったよかった。 失敗したらどうしようかと……今なんて?』

 主とか聞こえたんですけど。
 聞き間違いかな。

『主? 主っつった、今?』

『主殿! 主殿! はっはっ』

 繰り返さんでよろしい。

『ちょっと待って。 なにその主って。 俺、お前の主になったつもりないんだけど』

『魔物足るもの、強者には従うのみですから! 温情をかけて戴いたのなら尚更! くぅーん』

 この弱肉強食論よ。
 まあでも分からないでもない。
 自然界ってそういうもんだし。

『ふむ……わかった。 ならお前はこれから俺のペットな。 もう俺の指示無しに人を襲うなよ』

「わおーん!」

「ひっ!」

 喜びを表現してるのか知らんが、吠えるんじゃない。
 母さんが怯えてるじゃないか。

『ではこれよりよろしくお願い致します、主殿!』

『うん。 よろしく、リル』

「……! ウオオオオン!」
 
 いちいち吠えんと気が済まんのか、こいつは。

『今度はなんだ! 何度も吠えるんじゃねえ! ビックリするだろうが!』

『これは失礼。 主殿に名を与えて戴いた事がとても嬉しく、つい遠吠えをしてしまいました。 お許しを……主殿』

『まあ今後気をつけてくれれば別に……』

『有り難き幸せ! 不肖、このリル! 主殿に一生仕える所存です! 主殿! 主殿! はっはっ!』

 異世界に転生したわずか二ヶ月。
 俺はフェンリルをペットにした。
 なんというかこう、異世界モノの主人公っぽくなってきて、早くも楽しくなってきた。
 明日は果たして何が起きるのか、今からとても楽しみだ。
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