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高飛車令嬢レイシア=ブランスール
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────1────
お前に会いたいと仰っている方が居る。
いきなり門番にそう言われた俺とリアは、断るわけにもいかず渋々同道。
都の最奥に広がる行政区なるエリアに建てられた、一際豪華な建物に連れていかれた。
「ここだ。 ここにお前を待っているご令嬢がいらっしゃる。 寄り道せず真っ直ぐ向かえ。 機嫌を損ねたくなければな」
「ああ、わかった」
無難にそう答えた俺は屋敷のメイドに連れられ、ある部屋に到着。
促され、部屋をノックした。
コンコン。
「お嬢様、例の男性が参りました。 すぐお会いになりますか?」
「もちろんですわ。 すぐにお通ししなさい」
げっ、この声は!
「どうしました、ソーマさん? 顔色が優れないようですが」
「い……いや、なんでもない」
小首を傾げるリアに俺は苦笑いを浮かべ、扉を開けた。
そこには案の定、あの女が……。
「ホーホッホッホ! お久しぶりですわねぇ、ソーマ! ご機嫌マジで麗しゅうですわー! オーホッホッホ!」
椅子に腰掛け、いかにも貴族趣味なゴテゴテな扇子を仰ぐこの高笑い銀髪縦ロール女の名は、レイシア=ブランスール。
王都でも指折りの上流貴族、ブランスール家のご令嬢である。
「俺はまったくご機嫌麗しくないがな、レイシア」
「あら、冷たい。 でもそれが貴方ですわよね、ソーマ。 懐かしい……ふふふっ」
「ソ、ソーマさん。 貴族の方にそんな口をきいて大丈夫なんですか? 不敬にあたるんじゃ……」
他の貴族なら確かにそうだろう。
だが相手はレイシアだ。
遠慮する必要はない。
「問題ねぇよ。 なんならリアもタメ口で話してみたらどうだ。 なあレイシア、良いよな」
言うと、リアは「え!?」と目を丸くして俺に助けを求める。
そんなリアに、扇子をパチンと畳んだレイシアは、安心させるように笑みを浮かべ。
「ええ、もちろんですわ。 わたくし、お堅い方は苦手ですもの。 好きにお喋りなさい、そこの……」
「リ……リアゼルです。 リアゼル=シャロです、レイシア様」
「リアゼルね。 ではソーマが呼んだようにわたくしもリアと呼ばせて貰うわ。 よろしくね、リア」
「は、はいぃ……」
相も変わらず緊張しているリアに、レイシアはクスクス微笑む。
そのやり取りを微笑ましく見ていたら、こちらに意識を戻したレイシアがこんな事を言ってきた。
「そういえば聞きましたわよ、ソーマ。 貴方、遂にパーティーどころかギルドから追放されたそうね。 いつかやると思ってました」
おい。
「いつかやるってなんだ。 人を犯罪者みたいに言いやがって」
「あら、間違いじゃないでしょう? 乙女の純情を弄ぶのは大変重い罪だと思うのだけれど?」
「うっ!」
ごもっともで。
「……ふふっ、ふふふふふ! あはははは!」
「レイシア様……? どうし……」
「冗談ですわ、冗談! 本気にしないでくださいまし! ホーホッホッホ!」
本当にこいつは昔から……。
笑えないんだよ、お前の冗談は。
「お前な……」
「オホホ、ごめん遊ばせ。 わたくしに相談もせずに姿を消した愚か者への腹いせのつもりでしたが、少々やりすぎましたわね。 申し訳ありませんでしたわ。 深く反省致します」
「……いや、相談せずに一人で決めた俺に非があるからな。 責めたりしねえよ。 ……ところでどうして俺を探してたんだ? ただ文句を言いたいが為だけに探してた訳じゃないんだろ」
「ええ、もちろんですわ。 ただ、貴方に知らせておくべきかと思いまして。 あの男……カイネルの動向について」
………………。
────2────
「刺客……?」
レイシアから聞いた話は、半分予想通りの話だった。
「そう、刺客。 あの男は刺客を送り込もうとしていますわ。 ソーマ、貴方を殺そうとね」
それを聞いたリアは「うーん?」と唸って。
「あの、レイシア様。 その刺客ってもしかして、ロゼ=トールと言いませんか?」
「……? ええ、その通りですわ。 何故その名をご存じで?」
俺とリアは視線を交わして肩をすくませたり、苦笑いを浮かべたりする。
「どうしてもなにも、ロゼならもう来たぞ。 今では俺達の仲間になってる。 なっ、リア」
「ですです」
「……は? それマジですの?」
コクリと頷くと、レイシアは膝から崩れ落ちた。
「わ……わたくしの苦労はなんだったんですの! あんまりですわ!」
「そう言われてもな。 もう二週間も前の話だし」
「しかもだいぶ前でしたわー! これではわたくし、本当に役立たずではありませんか! もー!」
牛かな。
「話ってそれで全部か? 他に用が無いならもう行きたいんだが」
「ま……まだですわ。 まだ話したい事がありますの……」
「……なんだよ。 これでも忙しい身なんだ。 手早く終わらせてくれ」
「わかっておりますわ……」
いつもの元気に戻らないレイシアが取り出したのは、一枚の紙だった。
「なんだこれ。 契約書……?」
「ですの。 わたくしの勘ですが、カイネルはまだ諦めていないと思いますわ。 そこでこの契約書の出番という訳ですの」
「だからなんの契約書なんだよ」
「もしカイネルが何かを仕掛けてきた時、わたくしを尋ねて貰えたら何があろうとも力を貸す契約を記した契約書ですわ。 もちろん、貴方に非がない場合に限りますが」
なるほど、つまり……。
「俺の後ろ楯になるってことか?」
「ええ、そうですわ。 貴方とは一夜限りとはいえ、肌を重ねた間柄。 もう他人ではありませんわ。 ですから力にならせて欲しいのです。 もう……蚊帳の外は嫌なのですわ」
「レイシア……」
そういう事なら、と俺はサインを…………ハッ。
「ソーマさぁん、今のどういう事ですかぁ? 肌を重ねたとか聞こえましたがぁ?」
なにやら背後からとてつもない覇気と圧を感じた俺は、サインを一旦止め、ゆっくりと振り返る。
するとそこには────
「も、ち、ろ、ん。 説明してくれますよね? 一から十まで何もかも」
炎属性の中級魔法、業火と思われる爆炎の球体を右手に浮かしているリアが、俺を殺さんばかりの笑顔を浮かべていた。
お前に会いたいと仰っている方が居る。
いきなり門番にそう言われた俺とリアは、断るわけにもいかず渋々同道。
都の最奥に広がる行政区なるエリアに建てられた、一際豪華な建物に連れていかれた。
「ここだ。 ここにお前を待っているご令嬢がいらっしゃる。 寄り道せず真っ直ぐ向かえ。 機嫌を損ねたくなければな」
「ああ、わかった」
無難にそう答えた俺は屋敷のメイドに連れられ、ある部屋に到着。
促され、部屋をノックした。
コンコン。
「お嬢様、例の男性が参りました。 すぐお会いになりますか?」
「もちろんですわ。 すぐにお通ししなさい」
げっ、この声は!
「どうしました、ソーマさん? 顔色が優れないようですが」
「い……いや、なんでもない」
小首を傾げるリアに俺は苦笑いを浮かべ、扉を開けた。
そこには案の定、あの女が……。
「ホーホッホッホ! お久しぶりですわねぇ、ソーマ! ご機嫌マジで麗しゅうですわー! オーホッホッホ!」
椅子に腰掛け、いかにも貴族趣味なゴテゴテな扇子を仰ぐこの高笑い銀髪縦ロール女の名は、レイシア=ブランスール。
王都でも指折りの上流貴族、ブランスール家のご令嬢である。
「俺はまったくご機嫌麗しくないがな、レイシア」
「あら、冷たい。 でもそれが貴方ですわよね、ソーマ。 懐かしい……ふふふっ」
「ソ、ソーマさん。 貴族の方にそんな口をきいて大丈夫なんですか? 不敬にあたるんじゃ……」
他の貴族なら確かにそうだろう。
だが相手はレイシアだ。
遠慮する必要はない。
「問題ねぇよ。 なんならリアもタメ口で話してみたらどうだ。 なあレイシア、良いよな」
言うと、リアは「え!?」と目を丸くして俺に助けを求める。
そんなリアに、扇子をパチンと畳んだレイシアは、安心させるように笑みを浮かべ。
「ええ、もちろんですわ。 わたくし、お堅い方は苦手ですもの。 好きにお喋りなさい、そこの……」
「リ……リアゼルです。 リアゼル=シャロです、レイシア様」
「リアゼルね。 ではソーマが呼んだようにわたくしもリアと呼ばせて貰うわ。 よろしくね、リア」
「は、はいぃ……」
相も変わらず緊張しているリアに、レイシアはクスクス微笑む。
そのやり取りを微笑ましく見ていたら、こちらに意識を戻したレイシアがこんな事を言ってきた。
「そういえば聞きましたわよ、ソーマ。 貴方、遂にパーティーどころかギルドから追放されたそうね。 いつかやると思ってました」
おい。
「いつかやるってなんだ。 人を犯罪者みたいに言いやがって」
「あら、間違いじゃないでしょう? 乙女の純情を弄ぶのは大変重い罪だと思うのだけれど?」
「うっ!」
ごもっともで。
「……ふふっ、ふふふふふ! あはははは!」
「レイシア様……? どうし……」
「冗談ですわ、冗談! 本気にしないでくださいまし! ホーホッホッホ!」
本当にこいつは昔から……。
笑えないんだよ、お前の冗談は。
「お前な……」
「オホホ、ごめん遊ばせ。 わたくしに相談もせずに姿を消した愚か者への腹いせのつもりでしたが、少々やりすぎましたわね。 申し訳ありませんでしたわ。 深く反省致します」
「……いや、相談せずに一人で決めた俺に非があるからな。 責めたりしねえよ。 ……ところでどうして俺を探してたんだ? ただ文句を言いたいが為だけに探してた訳じゃないんだろ」
「ええ、もちろんですわ。 ただ、貴方に知らせておくべきかと思いまして。 あの男……カイネルの動向について」
………………。
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「刺客……?」
レイシアから聞いた話は、半分予想通りの話だった。
「そう、刺客。 あの男は刺客を送り込もうとしていますわ。 ソーマ、貴方を殺そうとね」
それを聞いたリアは「うーん?」と唸って。
「あの、レイシア様。 その刺客ってもしかして、ロゼ=トールと言いませんか?」
「……? ええ、その通りですわ。 何故その名をご存じで?」
俺とリアは視線を交わして肩をすくませたり、苦笑いを浮かべたりする。
「どうしてもなにも、ロゼならもう来たぞ。 今では俺達の仲間になってる。 なっ、リア」
「ですです」
「……は? それマジですの?」
コクリと頷くと、レイシアは膝から崩れ落ちた。
「わ……わたくしの苦労はなんだったんですの! あんまりですわ!」
「そう言われてもな。 もう二週間も前の話だし」
「しかもだいぶ前でしたわー! これではわたくし、本当に役立たずではありませんか! もー!」
牛かな。
「話ってそれで全部か? 他に用が無いならもう行きたいんだが」
「ま……まだですわ。 まだ話したい事がありますの……」
「……なんだよ。 これでも忙しい身なんだ。 手早く終わらせてくれ」
「わかっておりますわ……」
いつもの元気に戻らないレイシアが取り出したのは、一枚の紙だった。
「なんだこれ。 契約書……?」
「ですの。 わたくしの勘ですが、カイネルはまだ諦めていないと思いますわ。 そこでこの契約書の出番という訳ですの」
「だからなんの契約書なんだよ」
「もしカイネルが何かを仕掛けてきた時、わたくしを尋ねて貰えたら何があろうとも力を貸す契約を記した契約書ですわ。 もちろん、貴方に非がない場合に限りますが」
なるほど、つまり……。
「俺の後ろ楯になるってことか?」
「ええ、そうですわ。 貴方とは一夜限りとはいえ、肌を重ねた間柄。 もう他人ではありませんわ。 ですから力にならせて欲しいのです。 もう……蚊帳の外は嫌なのですわ」
「レイシア……」
そういう事なら、と俺はサインを…………ハッ。
「ソーマさぁん、今のどういう事ですかぁ? 肌を重ねたとか聞こえましたがぁ?」
なにやら背後からとてつもない覇気と圧を感じた俺は、サインを一旦止め、ゆっくりと振り返る。
するとそこには────
「も、ち、ろ、ん。 説明してくれますよね? 一から十まで何もかも」
炎属性の中級魔法、業火と思われる爆炎の球体を右手に浮かしているリアが、俺を殺さんばかりの笑顔を浮かべていた。
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