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亀裂

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 ────1────

「うーん、女騎士ねぇ。 その騎士の目的って、やっぱりあんたなのかしら。 タイミング的に」

 かもしれないが、その可能性は極めて低いだろう。
 なにしろ昨日の今日だ。
 たとえ準備していたとしても、動きが速すぎる。

「いや、それはないだろうな」 

「なんでよ?」

「お前は知らないかもしれないが、組織ってのは大きければ大きい程、軽々しく動けないもんなんだよ。 騎士団みたいなデカイ組織なら尚更だ。 こんなに早く捕縛に踏み出せる筈がない」

「ふーん、そういうもんなのねー。 じゃあ何しに来たのかしらね、そいつ」

 問題はそこだ。
 シャロ村ではなくあの小屋にやってきたという事は、カイネルの手の者か、あいつらの差し金である可能性が高い。
 賞金稼ぎの線も無くはないが、そんな奴がわざわざ騎士と偽ってまでやってくる理由がない。
 しかも一人で。
 更に言えば、一人である以上、カイネルの刺客の線も消える。
 四人でも敵わなかった相手に、たった一人を差し向けるなんてバカにも程があるからな。
 よって、カイネルの刺客という線は消しても問題はない。  
 となると、残るはあいつらの差し金という事になるが、そうなると……。

「さあな、俺が知るわけないだろ。 騎士の考えなんて。 まぁ、誰が来たかは察しがつくが」

「うっそ、マジで? マジでわかったの? 誰よ。 誰なのよ、その女。 何者なわけ?」

「それは、着いてからのお楽しみだ。 ここで言っても別に構わないんだが、どうせならそっちの方が面白いだろ」

 ニヤッと笑いながら言った言葉に、ラミィが「えー! なによそれ、うっざ! 良いから教えなさいよ、勿体ぶらずに!」と問い質してくるも、俺は歩行速度を上げてスルー。
 一足先に、門へと差し掛かる。
 がそこで、とある人物と朝ぶりの再会を果たす事となった。

「彼処に居るのって、もしかしてリアか? なにしてんだあいつ、あんな所で」 
 
 何かあったのか、放心気味のリアが壁にもたれてボーッと地面を眺めていた。
 
「この間もそうだったけど! なんであんたはいちいち秘密にしようとすんのよ! こっちはあんたがギリギリまで秘密するもんだから、いっつもぶっつけ本番なわけ! わかる!? 毎回毎回無茶振りされる、こっちの気持ちが! ほんともうしんどい! お願いだから、その秘密主義はいい加減やめ……!」

「おい、ラミィ」

「……なによ、まだ私が話してんでしょうが」

「あそこ見てみろ」

 リアを指差すと、ラミィもようやくリアの存在に気が付いたらしく。

「あっ! リアー!」

 ハートマークでも周囲に浮かび出そうな程の好きを溢れさせ、リアに抱きつこうとした。
 が、リアはラミィに気が付くと、バツの悪そうな表情でハグを回避。

「ごふっ! おぉぉぉぉ……」

 壁に顔面を打ち付けたラミィが悶え苦しむ中、俺は元気の無いリアに声をかけた。

「よう、リア。 こんな所で何してるんだ? もしかして、お前もペリドットに呼ばれた口か?」

「え? ペリドットさん? ペリドットさんが何か……? ……そういえばさっき何か言ってたような……」

 リアが他人の話を聞いていないなんて珍しい。
 いつもならどんな話も真剣に聞く子なのに。
 やはりなにか……。

「リア、お前どうしたんだ。 随分元気無いみたいだが、なんかあったのか?」

「い、いえ……別になんでも……」

 なんでもという風には見えんが。

「……そちらこそ何かあったんですか? 急いでいるように見えますけど」

「ん、ああ。 なんでも小屋に騎士が一人近づいてきてるらしくてな。 ロゼが住んでる以上滅多な事は起きないだろうが、念のため見に行こうかと」

「そう、ですか」

 私も行くとは言わないんだな。

「ここで会ったのも縁だ。 折角だし、一緒に行くか?」

 と、誘ってみたが、リアは意外にも。

「え、えっと……ごめんなさい。 私はその…………遠慮しておきます。 すいません……」

 いつもは頼まなくても勝手についてくるリアにまさか拒否されるとは思わず、少し面食らってしまう。
 
「そ、そうか。 行かないのか。 ……わかった、なら俺らだけで行くとするか。 なぁ、ラミィ」

「……え?」

 ラミィの名を呼んだ直後、何故かリアが目を丸くする最中、ラミィが自分の鼻を指差して。

「あのさ、ソーマ。 私の顔見てみ? なについてる?」

「はぁ? 何がついてるって、別に何も……ブッ!」

 顔をよく見てみると、鼻から一本、赤い筋が垂れていた。

「何笑ってんのよ、あんた。 ブッ殺されたいわけ?」

「ふ……ふふ……あははははは! そりゃお前笑うだろ! そんななっがい鼻毛出てたら! お前も一応は女の子なんだから、ちゃんと鼻毛くらい切れよな! みっともねぇ! くっ、くくくくく……!」

「誰が一応よ、誰が! どこからどう見ても、れっきとした女の子じゃない! つか、これ鼻毛じゃないし! 鼻血だし!」

「ああそれ、鼻血だったのか。 てっきり鼻毛かと」

 ゴスッ。

「いって!」

「いい加減鼻毛から離れなさいよ、バカソーマ! マジでぶん殴るわよ!」

「言う前にもう殴ってるじゃねえか!」
 
「あんたがムカつく事言うからでしょうが!」
 
 怒りながら今度は二の腕に張り手をしてきたラミィは、リアに一言別れの挨拶を済ますと俺に鼻を鳴らしてズンズン突き進む。

「おい待てよ、ラミィ! 置いてくなって!」

 そんなラミィの後を追い、

「うっさい! ついてくんな!」

「無茶言うな!」

 口喧嘩しながら門を出た所で、リアが……。

「ま……待ってください! 私も……やっぱり私も一緒にいきます!」

 そう言ってこちらへ駆け寄ってきた彼女の表情は、どこか思い詰めた様子だった。



  ────2────

「……ねえソーマ、リアどうかしたの? なんか様子変じゃない? いつもならもっと喋るのに今日は全然喋らないし、ずっと俯いてるしいつものリアらしくないっていうか…………あっ! まさかとは思うけどあんた、リアになんか変なことでもしたんじゃないでしょうね! だったら只じゃおかないわよ!」

 濡れ衣にも程がある。
 こいつは俺をなんだと思ってるんだ。
 
「なんかって、なんだ。 俺は何もしてないぞ」

「じゃあなんでああなってんのよ。 明らかにおかしいでしょうが」

「んな事言われてもな、知らんもんは知らん」

 ラミィが「ふーん」と尚もこちらを怪しむ目を向けてくるが、実際心当たりがまったくない。
 昨日の別れ際まではいつも通りだったし、今朝、朝食を共にした時だって普段通りだった。

 今日も天気が良くなりそうだな、見てみろリア。
 雲一つ無い晴天だぞ。
 本当ですねー、朝日が気持ちいいなぁ。
 なんだか良い1日になりそうな気がしますね。
 だとか。

 あっ、今の振動……もしかしてペリドットさんがまた、防壁に設置された高密度魔力圧縮砲レールガンで、村に近づいてきた魔物を蒸発させたんでしょうか。
 魔物さん、可哀想に。
 ご冥福をお祈りします~。
 いい加減学べば良いのにな、魔物も。
 毎朝毎朝、お仲間が消滅してるんだからよ。
 あ、あはは……もう、ソーマさんったら。

 などの当たり障りの無い話はした記憶はあるが、リアを落ち込ませたり怒らせるような話はしていない筈。
 少なくとも朝の段階ではこんな風では無かった。
 となると、考えられるのは……。
 
「どうせお前がまた怒らせでもしたんじゃねえか? 毎度のように」

「んなっ! 言い掛かりはやめなさいよ! 私がリアを怒らせるような真似をするはずないじゃない!」

 バカだバカだと思ってはいたがここまでとは。

「言い掛かりじゃねえわ。 実際二日に一回は怒らせてるだろ。 一昨日だって……」

「うぐ……!」

 俺の鋭い指摘にラミィは押し黙る。
 しかしそこは理不尽王のラミィさん。

「う……うるっさーい!」

 バシバシバシッ。

「いって! なにしやがんだ!」

 逆ギレしてきた挙げ句、何度も何度も全力で叩いてきたのである。

「おい、やめろ! やめろっつってんだろが! この……!」

 なんとか逃れようと腕を掴んで抵抗するも、ラミィは止まらない。

「ふん!」

「ぐっ! ……いった…………え、マジでいてぇ……」

 脹ら脛を蹴るんじゃない。
 地味に痛いから。
 
「あーはっはっは! 無駄な抵抗するからそういう目に遇うのよー! ざまあ~……って、ちょ、ちょっとソーマ? あんたそれは流石に少し大袈裟すぎじゃない? そんな強くやってないわよ? ……ご、ごめん。 大丈夫?」

 ゆっくりとしゃがんで脹ら脛を擦る俺の姿に、流石にやりすぎたと思ったラミィが不安げな顔で隣にしゃがむ。
 
「そこまで心配するほどの痛みじゃないが、二度とするなよ。 後からじわじわ来るんだよ、脹ら脛は」

「へぇ、そうなの。 良いこと聞いた。 また腹立ったら脹ら脛蹴ろ」

 おい。
 
「ププー! なーによ、その顔! 笑えるー! ちょっとその顔でストップね! 似顔絵にして、村に貼り出してやるわ! きっと皆笑うわよー? ふひひ!」

「お前な……」
 
 と、趣味で持ち歩いている落書き帳を片手に、ヘラヘラ笑っているラミィに呆れていた最中。
 リアが深い溜め息を吐いた後、かろうじて聞こえる声量でこんな事を……。

「ああもうほんとムカつく……」

 リア……?
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