先輩が好き過ぎる後輩と後輩が可愛すぎる先輩の話

菓子屋トモアオ

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@その夜

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「寒っ…」
「え?寒い?手繋ぐ?」
「繋ぎません!先輩酔すぎですよ!!」

居酒屋を後にした先輩と僕は、また駅に向かって歩いていた。
元々悪ノリスイッチが入ると長かったが今日は特に長い。先輩って酔うとこうなるのか。

「俺そんな酔ってないし」
「いやいや酔ってなかったらそれはそれで問題ですから…」

暫く歩くと駅についた。…が、なんだがこの時間の割には妙に人が多いような…

『只今、踏切に侵入した車と列車の事故により運転を見合わせております。ーー』
「えっ!?マジか…どうしよ」
「どうしたの?事故?」

先輩が僕の肩からひょいと顔をのぞかせた。今日ほんと距離感近いな!?

「事故、みたいです…ちょっと距離あるけどタクシー拾って帰ります。」

ジリジリと距離を取りながら帰る方法を考える。…まぁ、明日休みだからその辺のネカフェに行くのもアリだが。

「無理じゃない?タクシー乗り場、すごい人だし。」
「じゃあ、ネカフェに…」
「えー、ネカフェ行くくらいなら家来たらいいじゃん」

先輩の家!?そういえばこの近くだとか言っていた様な、いやいや待て待て、良くない良くないそれは良くない。

「だっ、だめですよそんな!あの、あの、申し訳ないですし!」
「別に俺はいいよ?」
「えっと、あの、着替えとかも無いですし、」
「俺ので良かったら貸すよ?大きめのとかあったし。」
「いや、その、僕の!心臓持たないので!!」
「ははっ、何それ。いーじゃんおいでよ、そんな広くないけど。」

どうしても泊まらせたいのか先輩は!嬉しいけど、僕の心臓と僕の僕が多分持たないんだって!

「それとも、俺ん家来るの嫌?」
「嫌なわけないです!!…あっ」

僕の馬鹿ぁぁぁぁ!
にっこり笑った先輩は僕の肩を抱き、

「じゃー、何の問題も無いよな?」

あっこの追い込み方部活時代のパワハラ先輩だ…割と無茶なスケジュールでもうんと言わされた…そんな強引な所も好き…。
こうなった先輩もう何を言っても無駄な事はよく分かっている。観念した僕は、半ば引き摺られながら先輩の家へ向かったのだった。

「どこかコンビニとかありますか?」
「家の前にあるけど、何、飲み足りない?」
「違います!下着とか歯ブラシとかを…」
「ああ…」

駆け足でコンビニに入り、必要な物を手に取ると、その横には0.01と書かれた箱。

「いやいやいや……」

半笑いで思考が先走り過ぎだと自分を諌める。先輩のあれは、酔っているのと僕の反応を面白がっているからで。別に同性の先輩の家に泊まることになったからと言って意識することは無い。はずだ。

「何が『いやいやいや』?」

突如背後から聞こえた先輩の声に僕は文字通り飛び上がった。キュウリを見た猫の様に。

「先輩!?いや、なんでもないです!」
「あーなるほど?何、切らしてるの?」

ニヤニヤと笑いながらその箱を指差す先輩。絶対全部わかって声掛けたよこの人。

「いや切らしてるとかそんなんじゃなくて、いや、あの、なんでもないんですって!」

何をどう言っていいかも分からず逆ギレしたみたいな言い方になってしまう。顔が熱い。今更酔いが回ってきたみたいだ。

「あはは、ごめんごめんそんな顔しないでよ。…そういえばあきちゃん、彼女とか居ないの?」
「居ませんよ、…居るわけないです」

急に振られた話題に、バレやしないかとそっと先輩から顔を逸らす。
先輩と初めて会ったその日から、僕は先輩一筋だ。…叶わなくても、想い続ける事は自由だろう。

「そっかぁ!あきちゃん独り身かぁ~」
「なんでそんな急にテンションあがるんですか」

そんなに後輩が非リアなのが嬉しいのか、先輩は僕の肩をバシバシ叩いた。というか漫研なんて非リアの集まりみたいなものだし、そう珍しいものでもないだろうに。

「独り身のあきちゃんに先輩がなんでも買ってあげよう」

謎にご機嫌になった先輩は僕の手の中の下着と歯ブラシをひったくってレジに行ったのだった。優しいのか優しくないのかよくわからない。


--------------------

先輩の家は駅から歩ける距離の結構綺麗なマンションの7階だった。先輩曰く、リフォームして綺麗に見えるだけで築年数は結構行っていて家賃もそう高くないんだとか。でも多分僕の安アパートの倍くらいしそう。

「お、おじゃまします…」
「はーいどうぞ。何にもないけど」

そう先輩に招かれ中に入ると、本気で何も無かった。これが本当にオタクの部屋なのか?いや、まぁ漫研の中ではかなりライトなオタクだったが…。
一人暮らしにしては広めのリビングには小ぶりな座卓にクッションがひとつ。大きめのテレビとテレビ台。ついでにここで仕事もするのかパソコンが一台。

「先輩ほんとにここに住んでるんですか…?」
「なんだよそれ、まぁ普段は寝に帰ってる様なものだからね。あ、水飲む?」

先輩越しに見えた冷蔵庫の中身はほぼ空だった。僕には酒と炭酸水しか見えなかった。

「何、俺の私生活知って幻滅した?」
「まさか!そんなこと、無いですけど…」
「けど?」

床に正座している僕に先輩が水を手渡す。僕としては先輩の方が水飲んで欲しいんだけど。

「先輩、ちゃんとご飯食べてますか?」
「うーーん…栄養は取ってる」
「サプリとかに頼りすぎちゃ駄目ですよ…」

そんなこんなで、知らない間に給湯器のスイッチを押したらしく風呂の準備が出来た。

「一人暮らしでちゃんと風呂浸かるって、めっちゃエラいですね」
「浴槽浸からないと疲れ取れないからさ。あきちゃんはシャワー派?」
「安アパート過ぎてシャワーって選択肢しか無いです。しかも水がお湯になるのに3~4分かかります。」
「面白いね。じゃあ今日は久々の浴槽で良かったじゃん」

生活レベルに収入の差が顕著に表れているような気がする。
寝室に着替えを取りに行った先輩から、寝巻き代わりに高校の体操服を渡される(大きめを買ったらしく高校時代先輩はよく裾を折っていた)。

「じゃあ入ろうか、風呂」
「あっはい、ごゆっくり」
「ん?あきちゃん入らないの?」
「え、入りたいです、出来たら」
「うん、だから入ろ?」
「えっ?」
「ん?」

気の所為だろうか。いや、残念ながら僕はそこまで察しが悪いわけじゃない。俺なんかしちゃいましたかね系鈍感主人公じゃない。残念ながら。

「一緒に、って事ですよね…?何故…??」
「その方が早く終わるから?もう時間も遅いし。」

まるで僕の方が変な事を言っているかのような言い方をする先輩。

「いいじゃん入ろうよ。それとも俺と入るの嫌?」
「嫌では無いんですよ嫌では無いんですけどね!」

またこの展開かよ!
…でも、僕の下心がこれはチャンスだと叫んでいる。漫研の合宿で温泉に行ったことはあるけど、完全プライベートで二人きり・・・・で風呂に入れる機会なんてもう訪れないかもしれない。それなら…

「先輩、俺も一緒に入ってもいいでs」
「俺先に入るから、来てた服洗濯機に入れてスイッチ押しといてー」
「ヴァッわっかりました早く入ってください!」

僕が悶々と悩んでいる間にいつの間にか全裸になっていた先輩。
不意打ちの好きな人の全裸はダイレクトに下半身に来るから良くないと思います。

ゆるく勃ってしまった愚息をなんとか鎮め、いざ、と浴室のドアをあける。
と、そこには…

立ち込める湯気の中の、体を洗っていたのだろう泡だらけの先輩。濡れた茶髪、白くて綺麗な肌、うっすら筋肉のついた背中、骨格の綺麗さを感じる、細い腰...

「あきちゃん?」

立ちすくむ僕に先輩が振り返り声を掛けた瞬間、僕はバァンと勢い良く扉をしめた。

「やっぱ無理!!!!」
「ちょっとあきちゃーん?入らないの?」
「入りますよ入りますけどね待ってくださいね!?」

美形の入浴シーンとか、罪深すぎないか?宗教画で勃ってしまった様な罪悪感…
あつい顔と股間を押さえながら必死に黒歴史漫画を思い出し鎮める。
いつの間にか、扉の向こうのシャワーの音は止まっていた。

「あーきーちゃーん、俺終わったよー」

逃げられない…




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長くなりそうなので分けます。
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