3 / 59
序章 『招集』
3.医務室にて
しおりを挟む
そんな、軽い気持ちで来てみれば。
「なんですか、これ……」
辿り着いた医務室にてユウは、呻き声を上げて横たわる幾つもの姿を目にした。
腕の無い者。
脚の無い者。
中には、絶命寸前で呼吸を繰り返しているだけの者までいる始末。
「ここまでの被害……傷口も、見たことがないものですね。嚙み痕のようにも、千切られた痕のようにも見えます」
「ええ。他にも幾つか見られる異常性から、私が巫女様に報告致しました。本日の招集も、おそらくこれに関連した何かかと」
「調査、或いは有事の討伐、かな――って、お前、三叉じゃないか…! お前程のやつがやられるなんて」
ひとり見つけた妖へとユウが駆け寄る。
しゃがみ込み、よく観察してみると、全身そこかしこから血を流しながら浅い呼吸を繰り返している様子が分かった。
「死にゃしない程度ではあるんすけど……すんません、ユウさん。ドジ踏んじまって――痛っ…!」
「あっと、無理に喋らなくていいよ、ごめん。委細は咲夜様に聞くよ」
慌てて制するユウに、三叉は苦笑い。
命が弱っているのは確か。だが同時に、本人の話す通り、今すぐに死んでしまうような状態でないことも確かではある。
妖はそれぞれ、種族ごとに身体の強さが異なる上、生命を司る器官の場所も役割も違う。
特に三叉は、妖の中でもとりわけ頑丈な種族であり、生命器官も損傷はしていないように見える。
絶命している、そう確実に分かる状態でない限り、それを心配する必要はあまりないのが妖という生き物だ。
四肢の欠損に関しても、時間や程度は異なれども、再生はする。
「美桜さん、ここにいる皆は布団の上だっていうのにそれだけ運んできたってことは、まだ?」
「ええ。報告ではあと四名、ここへ運ばれてくる予定なのです」
「更に四人……ざっと二十、ですか。布団、ここに置いておきますね。咲夜様のところへ急ぎます」
言いながら、ユウは布団をおろすと、さっさと腰を上げて歩き始めた。
「お願い致します。今の時刻でしたら、朝の湯浴みをなさっているはずですから、大浴場の方へと行かれた方が早く出会えるかと思います」
「ありがとうございます、美桜さん。行ってきます」
小さく頷くと、ユウはそのまま医務室を後にした。
「なんですか、これ……」
辿り着いた医務室にてユウは、呻き声を上げて横たわる幾つもの姿を目にした。
腕の無い者。
脚の無い者。
中には、絶命寸前で呼吸を繰り返しているだけの者までいる始末。
「ここまでの被害……傷口も、見たことがないものですね。嚙み痕のようにも、千切られた痕のようにも見えます」
「ええ。他にも幾つか見られる異常性から、私が巫女様に報告致しました。本日の招集も、おそらくこれに関連した何かかと」
「調査、或いは有事の討伐、かな――って、お前、三叉じゃないか…! お前程のやつがやられるなんて」
ひとり見つけた妖へとユウが駆け寄る。
しゃがみ込み、よく観察してみると、全身そこかしこから血を流しながら浅い呼吸を繰り返している様子が分かった。
「死にゃしない程度ではあるんすけど……すんません、ユウさん。ドジ踏んじまって――痛っ…!」
「あっと、無理に喋らなくていいよ、ごめん。委細は咲夜様に聞くよ」
慌てて制するユウに、三叉は苦笑い。
命が弱っているのは確か。だが同時に、本人の話す通り、今すぐに死んでしまうような状態でないことも確かではある。
妖はそれぞれ、種族ごとに身体の強さが異なる上、生命を司る器官の場所も役割も違う。
特に三叉は、妖の中でもとりわけ頑丈な種族であり、生命器官も損傷はしていないように見える。
絶命している、そう確実に分かる状態でない限り、それを心配する必要はあまりないのが妖という生き物だ。
四肢の欠損に関しても、時間や程度は異なれども、再生はする。
「美桜さん、ここにいる皆は布団の上だっていうのにそれだけ運んできたってことは、まだ?」
「ええ。報告ではあと四名、ここへ運ばれてくる予定なのです」
「更に四人……ざっと二十、ですか。布団、ここに置いておきますね。咲夜様のところへ急ぎます」
言いながら、ユウは布団をおろすと、さっさと腰を上げて歩き始めた。
「お願い致します。今の時刻でしたら、朝の湯浴みをなさっているはずですから、大浴場の方へと行かれた方が早く出会えるかと思います」
「ありがとうございます、美桜さん。行ってきます」
小さく頷くと、ユウはそのまま医務室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる