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第1章 『昔日の誓い』
9.途切れる意識
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「ユ――こ、この愚か者…! 帰りなさいと言ったはずです…! 早くこの場を去りなさい…! 今すぐ!」
咲夜は力の限り叫び、手を伸ばす。
考え得る汚い言い方で責め立てなければ、既にこの場に立っている年端もいかないニンゲンを遠ざけることは、叶わないだろうと思ったからだ。
酒呑童子が、視線こそ寄越しても、その命をわざわざ狩り取ろうとはしない程に非力な存在。
いくら弱っているとは言っても、目の前にいる自分を差し置いて子どもにかまけるようなことはしないはずだ。
何とかして、興味の対象をこちらへ向かせることだけ考えて、汚い言葉で責め立て続ける。
ただそれは、彼がそのまま身を引けばの話。
死、そのものと相対している筈の少年は、それでも頑として退かないどころか、咲夜の言葉も気にしないまま、小さく一歩、酒呑童子の方へと踏み出してみせたのだ。
咲夜自身、無意識の内に心が退いていた相手にだ。
駄目だ――
あと二歩、いや一歩でも踏み出そうものなら、酒呑童子は興味の有る無しに関わらず、目の前で邪魔に目障りな命を、枯れ葉を払うが如く、一息の内に奪ってしまう。
それだけは、駄目だ。
「早く帰りなさい、ニンゲン…! 異界の生き物が、このような世界へ来るべきではないのです…!」
考えられるだけの言葉で責め立てるも。
少年は、振り向くことすらしない。
「ぼ、ぼくは、さくやさまのヒーローだ……おまえなんか、ち、ちっとも、こわくないぞ…!」
少年はもう一歩、今度は大きく踏み込んだ。
「どうして、そんな……こんなこと……」
やがて、声を出すことすら難しくなった咲夜は、口を閉ざし、伸ばしていた手までも降ろしてしまった。
それを入れ替わるようにして、
『――、――』
酒呑童子の視線が、少年へと強く注がれる。
まずい。あと一つだけでも何か声を上げて、少年をこの場から退かせないと。
そんな思いも虚しく。
「う、うわぁぁぁぁぁああ…!」
握った拳を振るう少年の身体を、
『――』
酒呑童子は、いともたやすく弾き飛ばしてしまった。
叫び声もなく宙を舞うその身体を、咲夜は声も出せずに視線で追う。
そうして遠くの方に見える大木へと、鈍い音と共に打ち付けられると、その幹を伝って地面へと滑り落ちた。
溢れて止まらない鮮血。
手も足も、頭さえも、本来向くはずのない方向へと折れ、曲がってしまっている。
絶命してしまった――そう理解するのに、時間はかからなかったが、気持ちはそれを強く否定した。
「ユウ……ユ、ウ……?」
声を掛けても、それは答えず、動いてくれない。
まるで壊れた人形のように、ただその場に横たわるだけの物体として、動くことなく静かに佇んでいる。
『――、――』
まるで汚い何かを見つめるような目でユウを睨みつけながら、心底つまらなそうに吐き捨てる酒呑童子。
それを耳にした咲夜は、一瞬の内に頭の中が真っ白になってしまった。
咲夜は力の限り叫び、手を伸ばす。
考え得る汚い言い方で責め立てなければ、既にこの場に立っている年端もいかないニンゲンを遠ざけることは、叶わないだろうと思ったからだ。
酒呑童子が、視線こそ寄越しても、その命をわざわざ狩り取ろうとはしない程に非力な存在。
いくら弱っているとは言っても、目の前にいる自分を差し置いて子どもにかまけるようなことはしないはずだ。
何とかして、興味の対象をこちらへ向かせることだけ考えて、汚い言葉で責め立て続ける。
ただそれは、彼がそのまま身を引けばの話。
死、そのものと相対している筈の少年は、それでも頑として退かないどころか、咲夜の言葉も気にしないまま、小さく一歩、酒呑童子の方へと踏み出してみせたのだ。
咲夜自身、無意識の内に心が退いていた相手にだ。
駄目だ――
あと二歩、いや一歩でも踏み出そうものなら、酒呑童子は興味の有る無しに関わらず、目の前で邪魔に目障りな命を、枯れ葉を払うが如く、一息の内に奪ってしまう。
それだけは、駄目だ。
「早く帰りなさい、ニンゲン…! 異界の生き物が、このような世界へ来るべきではないのです…!」
考えられるだけの言葉で責め立てるも。
少年は、振り向くことすらしない。
「ぼ、ぼくは、さくやさまのヒーローだ……おまえなんか、ち、ちっとも、こわくないぞ…!」
少年はもう一歩、今度は大きく踏み込んだ。
「どうして、そんな……こんなこと……」
やがて、声を出すことすら難しくなった咲夜は、口を閉ざし、伸ばしていた手までも降ろしてしまった。
それを入れ替わるようにして、
『――、――』
酒呑童子の視線が、少年へと強く注がれる。
まずい。あと一つだけでも何か声を上げて、少年をこの場から退かせないと。
そんな思いも虚しく。
「う、うわぁぁぁぁぁああ…!」
握った拳を振るう少年の身体を、
『――』
酒呑童子は、いともたやすく弾き飛ばしてしまった。
叫び声もなく宙を舞うその身体を、咲夜は声も出せずに視線で追う。
そうして遠くの方に見える大木へと、鈍い音と共に打ち付けられると、その幹を伝って地面へと滑り落ちた。
溢れて止まらない鮮血。
手も足も、頭さえも、本来向くはずのない方向へと折れ、曲がってしまっている。
絶命してしまった――そう理解するのに、時間はかからなかったが、気持ちはそれを強く否定した。
「ユウ……ユ、ウ……?」
声を掛けても、それは答えず、動いてくれない。
まるで壊れた人形のように、ただその場に横たわるだけの物体として、動くことなく静かに佇んでいる。
『――、――』
まるで汚い何かを見つめるような目でユウを睨みつけながら、心底つまらなそうに吐き捨てる酒呑童子。
それを耳にした咲夜は、一瞬の内に頭の中が真っ白になってしまった。
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