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5話 元婚約者に遭遇
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「成程」
「エーヴァお嬢様をお連れしたいのは山々なんですが、今のリッケリだと前々から登録のある人間でないと通してくれないそうです」
港に出て直接ハムン商会と話をした。やはりシャーリー様との件で一時的な渡航制限がかかっている。
「……分かったわ。少し時間をちょうだい」
「ええ」
「あと、これなんだけど」
私が作った銀細工を見せた。
「おや。良い物ですね」
目利きの良い商人に自分の作った銀細工を良いと言われると嬉しい。
いいえ、そうじゃないわね。
「私が行けない場合、これをとある方に渡してもらうことはできる?」
「それぐらいなら可能でしょう」
「数日時間をちょうだい。どうしても入島が難しくて同乗できない場合は、これを運ぶだけを頼みたいの」
「問題ありませんよ。今日の出立は見送り、その次以降、要相談でよろしいですか?」
「ええお願い。ありがとう」
私のように便乗して入島しようとする人間が思いの外多かったのだろう。随分と早くに手を打ってきた。ティルボーロン様の手腕と考えればさすが優秀でいらっしゃると思えるけど、今はお会いできないことの方が辛い。
お礼を伝え、踵を返す。ひとまず家に戻るしかない。
「エーヴァ?」
「……ヒャールタ・グング」
少し歩いたところでタイミングよろしく、先日婚約破棄を申し出してきた件の男と再会した。
「お前、なんでこんなところに?」
「あなたには関係ないでしょう」
この男は私の前だとかなり横柄な態度になる。両親の前だと物腰柔らかい青年を演じて、私の前では常に上から目線だ。
だから私はこの男とお茶以外のことはしなかった。
「仕事は辞めてんのに……まさかまた銀糸か? あの遊び、まだやってんのかよ」
「遊びではありません」
私が銀細工を作っていることは残念ながらこの男に知られている。
この元婚約者も両親と同じく、こうした物の製作に反対した。だから私は誰にも知られないように、こっそり作り続けて今に至る。
「どうせお前のことだ。その遊びと同じで政務の仕事も遊び半分でしてたんだろ」
「え?」
「悪女に便乗して出しゃばって政務なんてしてるから辞めさせられんだよ。大人しく裏で事務支援でもしてればまだよかったのに、代表で表に出るからこうなるんだ。いいか? 政務は遊びじゃないんだぞ」
この人何を言ってるの?
私はただ誠実に自分のできる限りで仕事をしてきたのに、遊びですって?
そんな台詞、言われる筋合いないわよ。
「お前ら女が図々しく前に出て政務をやろうとするから、今こうして国中混乱してるんだろう。いい迷惑だな」
「どういうことですか?」
聞き捨てならない。
「言葉通りだ。女が前に出るなんてありえない。第二王子殿下の元婚約者だってそうだ。政に女がでしゃばるから今こうして国が混乱するんだろう」
「違います! シャーリー様がいなくなったから混乱してるんです! シャーリー様がいたからこの国は立ち直ってきてたのに!」
「そんなわけあるか! お前もいい加減そんな子供の遊びさっさとやめればいいのに」
「ほっといてください! それにもう婚約者でもないんだから私に関わらないでください!」
「なんだと?!」
元婚約者が腕を大きく上げた。殴られる。今まで何度かその兆候はあったけど、婚約者だからと踏みとどまっていたようだった。婚約破棄して関係なくなった途端に私を殴るなんてクズにも程があるわ。
「やめなさい」
私の目の前が塞がり、目の前に来ていた拳が止まった。
細い女性の手によって阻まれている。
ヒャールタ・グングが不機嫌に唸った。
「部外者が口を挟むな」
「嫌ですね」
はっきりとその女性は元婚約者に言ってのけた。
「シャーリーを悪く言う輩を見過ごすことなんてできない」
「!」
……ああ!
ああ、シャーリー様を悪と呼ばない人がいた! それだけで救われる気分だった。
そう。シャーリー様は悪女ではない!
「シャーリーの功績を知っているの?」
「は?」
「災害復興、国交改善、経済立て直し、ソッケ国内すべての商会へ税金の話をつけてまとめ上げた。彼女自ら現場に出て話を聞いていたから、シャーリーを知ってる人間の方が多いはずだけど?」
「なんだと?」
「今後私の前でシャーリーを悪く言わないでくれます?」
「なにを」
「それに三国共通していると思いますが、男女関係なく職を得られる環境です」
「それは」
「あと人に暴力振るう時はそれなりの覚悟を見せるべきです」
女性の雰囲気が一気に変わる。鋭く痺れる空気は独特で到底女性が出せるものじゃない。
美しい白金の髪に金の混じる黄緑の瞳、男性の暴力を片手で受け止める力、身なりの良い出で立ち、側に護衛騎士が一人、シャーリー様のことをよく知る人物。
まさかとは思った。
遠目でしか見たことないドゥエツ王国外交特使の特徴と一致している。
「……ループト公爵令嬢?」
正義の味方のような登場と振る舞いだった。
元婚約者ヒャールタ・グングはループト公爵令嬢に怖気づいて何かはっきりしない言葉を発してから逃げるように去っていく。
振り向いて私に向き直った美しい笑顔の女性は物語の主人公そのものだった。
「怪我ない?」
「エーヴァお嬢様をお連れしたいのは山々なんですが、今のリッケリだと前々から登録のある人間でないと通してくれないそうです」
港に出て直接ハムン商会と話をした。やはりシャーリー様との件で一時的な渡航制限がかかっている。
「……分かったわ。少し時間をちょうだい」
「ええ」
「あと、これなんだけど」
私が作った銀細工を見せた。
「おや。良い物ですね」
目利きの良い商人に自分の作った銀細工を良いと言われると嬉しい。
いいえ、そうじゃないわね。
「私が行けない場合、これをとある方に渡してもらうことはできる?」
「それぐらいなら可能でしょう」
「数日時間をちょうだい。どうしても入島が難しくて同乗できない場合は、これを運ぶだけを頼みたいの」
「問題ありませんよ。今日の出立は見送り、その次以降、要相談でよろしいですか?」
「ええお願い。ありがとう」
私のように便乗して入島しようとする人間が思いの外多かったのだろう。随分と早くに手を打ってきた。ティルボーロン様の手腕と考えればさすが優秀でいらっしゃると思えるけど、今はお会いできないことの方が辛い。
お礼を伝え、踵を返す。ひとまず家に戻るしかない。
「エーヴァ?」
「……ヒャールタ・グング」
少し歩いたところでタイミングよろしく、先日婚約破棄を申し出してきた件の男と再会した。
「お前、なんでこんなところに?」
「あなたには関係ないでしょう」
この男は私の前だとかなり横柄な態度になる。両親の前だと物腰柔らかい青年を演じて、私の前では常に上から目線だ。
だから私はこの男とお茶以外のことはしなかった。
「仕事は辞めてんのに……まさかまた銀糸か? あの遊び、まだやってんのかよ」
「遊びではありません」
私が銀細工を作っていることは残念ながらこの男に知られている。
この元婚約者も両親と同じく、こうした物の製作に反対した。だから私は誰にも知られないように、こっそり作り続けて今に至る。
「どうせお前のことだ。その遊びと同じで政務の仕事も遊び半分でしてたんだろ」
「え?」
「悪女に便乗して出しゃばって政務なんてしてるから辞めさせられんだよ。大人しく裏で事務支援でもしてればまだよかったのに、代表で表に出るからこうなるんだ。いいか? 政務は遊びじゃないんだぞ」
この人何を言ってるの?
私はただ誠実に自分のできる限りで仕事をしてきたのに、遊びですって?
そんな台詞、言われる筋合いないわよ。
「お前ら女が図々しく前に出て政務をやろうとするから、今こうして国中混乱してるんだろう。いい迷惑だな」
「どういうことですか?」
聞き捨てならない。
「言葉通りだ。女が前に出るなんてありえない。第二王子殿下の元婚約者だってそうだ。政に女がでしゃばるから今こうして国が混乱するんだろう」
「違います! シャーリー様がいなくなったから混乱してるんです! シャーリー様がいたからこの国は立ち直ってきてたのに!」
「そんなわけあるか! お前もいい加減そんな子供の遊びさっさとやめればいいのに」
「ほっといてください! それにもう婚約者でもないんだから私に関わらないでください!」
「なんだと?!」
元婚約者が腕を大きく上げた。殴られる。今まで何度かその兆候はあったけど、婚約者だからと踏みとどまっていたようだった。婚約破棄して関係なくなった途端に私を殴るなんてクズにも程があるわ。
「やめなさい」
私の目の前が塞がり、目の前に来ていた拳が止まった。
細い女性の手によって阻まれている。
ヒャールタ・グングが不機嫌に唸った。
「部外者が口を挟むな」
「嫌ですね」
はっきりとその女性は元婚約者に言ってのけた。
「シャーリーを悪く言う輩を見過ごすことなんてできない」
「!」
……ああ!
ああ、シャーリー様を悪と呼ばない人がいた! それだけで救われる気分だった。
そう。シャーリー様は悪女ではない!
「シャーリーの功績を知っているの?」
「は?」
「災害復興、国交改善、経済立て直し、ソッケ国内すべての商会へ税金の話をつけてまとめ上げた。彼女自ら現場に出て話を聞いていたから、シャーリーを知ってる人間の方が多いはずだけど?」
「なんだと?」
「今後私の前でシャーリーを悪く言わないでくれます?」
「なにを」
「それに三国共通していると思いますが、男女関係なく職を得られる環境です」
「それは」
「あと人に暴力振るう時はそれなりの覚悟を見せるべきです」
女性の雰囲気が一気に変わる。鋭く痺れる空気は独特で到底女性が出せるものじゃない。
美しい白金の髪に金の混じる黄緑の瞳、男性の暴力を片手で受け止める力、身なりの良い出で立ち、側に護衛騎士が一人、シャーリー様のことをよく知る人物。
まさかとは思った。
遠目でしか見たことないドゥエツ王国外交特使の特徴と一致している。
「……ループト公爵令嬢?」
正義の味方のような登場と振る舞いだった。
元婚約者ヒャールタ・グングはループト公爵令嬢に怖気づいて何かはっきりしない言葉を発してから逃げるように去っていく。
振り向いて私に向き直った美しい笑顔の女性は物語の主人公そのものだった。
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