39 / 59
39話 社交界での悲劇
しおりを挟む
「新しい銀の取引・適正価格についての会談前にか」
「はい。ディーナ様も宣伝に肯定的でしたし」
「そうだね」
私とバーツ様がソッケ王国に戻る頃、泊まり先にアリスが手紙を送ってくれた。内容は各国平等に銀を分配するために話し合いをするけど、前もって新しい銀の良さを見せてほしい、というものだ。
「新しい銀の価値が分かれば話し合いもしやすいわけだ」
「はい。ディーナ様がいらっしゃるので独占したくても不可能でしょうけど、自分の眼で見ているかいないかでは全然違うから、ですか?」
「そうだろうね」
「あらかじめ辺境伯と銀の一定取引について話はついていますが、改めて行うことで確実に各国の職人の銀細工分が確保できるでしょうし」
「そうだね」
銀細工師の貴重さにも注目が集まる。伝統文化として今まで以上に重宝される可能性も出てきた。
「新しい銀で縒った銀細工の名前、今日お伝えしますか?」
二人で考えるよう言われた総称。
面白いことに二人で散歩している時という何気ない時間に決まった。
後は伝えるだけ。問題はいつ伝えるかだ。
「いや、社交界で言うことでもないし、会談前だと各国の力の均衡が崩れる可能性もある。別の時に直接伝えよう」
「そうですね」
「うん。じゃあ行こうか」
銀細工の良さ、この際とことん広めよう。
私たちは急いで社交界用の銀細工を新たに用意する。忙しさの中に楽しさだけが私を包んだ。
* * *
「まあこんなに細かいのね」
「新しい銀ではより細かい銀糸を作れるので細工も極細のものが作れるようになりました」
ドゥエツ王国の社交界が割と好評だったからかソッケ王城でも多くの人から声をかけられた。
後々手紙で注文してくれる約束もとれたし、アリスがあらかじめ伝えてくれていたのか、私を知る貴族は遠巻きに見ているだけだ。
「ティルボーロン伯爵」
「王太子殿下……シェルリヒェット王太子殿下、王太子妃殿下」
バーツ様と一緒に挨拶したのはソッケ王国第一王太子とシャーリー様とドゥエツ王国王太子だった。各国挨拶のタイミングに来たとはいえ、こんなに早く社交界の場面で声をかけられるとは思ってなかった。おそらく一緒にいるソッケ王国の王太子が絡んでるからだろう。
「ティルボーロン伯爵はドゥエツ王国の、エーヴァ嬢はソッケ王国の銀細工師と聞いている」
私ってばいつの間にか公式の銀細工師になってる?
ディーナ様がはからってくれたのだろうか。
「新しい銀で作る細工は非常に美しいな」
「光栄なことでございます」
「シャーリーにその銀でベールを作ってほしい」
「え?」
私からも頼むとソッケ王国王太子も加わる。
シャーリー様は笑顔で頷いた。
二人の結婚式に私とバーツ様で作った銀細工を纏いたいと。
「今後のドゥエツ・ソッケ両国間の良好な関係を祝してぜひ」
「!」
先の戦争前にこじれた二国間の関係を改善させるためのものでもある、ということだ。あのろくでなし……ソッケ王国第二王子が勝手に出した宣戦布告がなかったことにされ、対セモツ国との戦争に切り替わった。この曖昧な部分を銀細工を贈り結婚式で使うというイベントで解消する気だ。
「喜んでお引き受けいたします」
バーツ様が応えた。よかった。これで安泰ね。私もバーツ様と一緒に礼をとり無事切り抜けた。
殿下たちが離れると声をかけてもらう数が先程よりも増えた。当然だろう。王太子とその妃の結婚式に使われるとなれば興味深く思うはずだ。
「私にもぜひ一つ」
「私にも」
「後日、お手紙をいただければ順番に対応いたします」
囲まれて対応しきれなくなる。その時だった。
「あら失礼」
「あ」
手にとって見られるよういくらか銀細工を持ってきていたけど、人同士がぶつかり一つが落ちてしまった。垣間見えた様子では誰かが手を叩いて落ちたようにも見えたけど……。
「動かないでください」
金属製独特の音が響く。
その後だ。
「銀細工が落ちたようですので回収します」
私の声は届かない。
落ちた時のカンという音と違ったぐしゃりと潰されるような音が耳を通った。嫌な音。
「まさか」
私が屈むと人垣が避けて輪が広がる。
すぐに床に落ちた銀細工を見つけることができた。
「エーヴァ」
「……そんな」
手にとった銀細工は踏まれ歪んでいた。
「はい。ディーナ様も宣伝に肯定的でしたし」
「そうだね」
私とバーツ様がソッケ王国に戻る頃、泊まり先にアリスが手紙を送ってくれた。内容は各国平等に銀を分配するために話し合いをするけど、前もって新しい銀の良さを見せてほしい、というものだ。
「新しい銀の価値が分かれば話し合いもしやすいわけだ」
「はい。ディーナ様がいらっしゃるので独占したくても不可能でしょうけど、自分の眼で見ているかいないかでは全然違うから、ですか?」
「そうだろうね」
「あらかじめ辺境伯と銀の一定取引について話はついていますが、改めて行うことで確実に各国の職人の銀細工分が確保できるでしょうし」
「そうだね」
銀細工師の貴重さにも注目が集まる。伝統文化として今まで以上に重宝される可能性も出てきた。
「新しい銀で縒った銀細工の名前、今日お伝えしますか?」
二人で考えるよう言われた総称。
面白いことに二人で散歩している時という何気ない時間に決まった。
後は伝えるだけ。問題はいつ伝えるかだ。
「いや、社交界で言うことでもないし、会談前だと各国の力の均衡が崩れる可能性もある。別の時に直接伝えよう」
「そうですね」
「うん。じゃあ行こうか」
銀細工の良さ、この際とことん広めよう。
私たちは急いで社交界用の銀細工を新たに用意する。忙しさの中に楽しさだけが私を包んだ。
* * *
「まあこんなに細かいのね」
「新しい銀ではより細かい銀糸を作れるので細工も極細のものが作れるようになりました」
ドゥエツ王国の社交界が割と好評だったからかソッケ王城でも多くの人から声をかけられた。
後々手紙で注文してくれる約束もとれたし、アリスがあらかじめ伝えてくれていたのか、私を知る貴族は遠巻きに見ているだけだ。
「ティルボーロン伯爵」
「王太子殿下……シェルリヒェット王太子殿下、王太子妃殿下」
バーツ様と一緒に挨拶したのはソッケ王国第一王太子とシャーリー様とドゥエツ王国王太子だった。各国挨拶のタイミングに来たとはいえ、こんなに早く社交界の場面で声をかけられるとは思ってなかった。おそらく一緒にいるソッケ王国の王太子が絡んでるからだろう。
「ティルボーロン伯爵はドゥエツ王国の、エーヴァ嬢はソッケ王国の銀細工師と聞いている」
私ってばいつの間にか公式の銀細工師になってる?
ディーナ様がはからってくれたのだろうか。
「新しい銀で作る細工は非常に美しいな」
「光栄なことでございます」
「シャーリーにその銀でベールを作ってほしい」
「え?」
私からも頼むとソッケ王国王太子も加わる。
シャーリー様は笑顔で頷いた。
二人の結婚式に私とバーツ様で作った銀細工を纏いたいと。
「今後のドゥエツ・ソッケ両国間の良好な関係を祝してぜひ」
「!」
先の戦争前にこじれた二国間の関係を改善させるためのものでもある、ということだ。あのろくでなし……ソッケ王国第二王子が勝手に出した宣戦布告がなかったことにされ、対セモツ国との戦争に切り替わった。この曖昧な部分を銀細工を贈り結婚式で使うというイベントで解消する気だ。
「喜んでお引き受けいたします」
バーツ様が応えた。よかった。これで安泰ね。私もバーツ様と一緒に礼をとり無事切り抜けた。
殿下たちが離れると声をかけてもらう数が先程よりも増えた。当然だろう。王太子とその妃の結婚式に使われるとなれば興味深く思うはずだ。
「私にもぜひ一つ」
「私にも」
「後日、お手紙をいただければ順番に対応いたします」
囲まれて対応しきれなくなる。その時だった。
「あら失礼」
「あ」
手にとって見られるよういくらか銀細工を持ってきていたけど、人同士がぶつかり一つが落ちてしまった。垣間見えた様子では誰かが手を叩いて落ちたようにも見えたけど……。
「動かないでください」
金属製独特の音が響く。
その後だ。
「銀細工が落ちたようですので回収します」
私の声は届かない。
落ちた時のカンという音と違ったぐしゃりと潰されるような音が耳を通った。嫌な音。
「まさか」
私が屈むと人垣が避けて輪が広がる。
すぐに床に落ちた銀細工を見つけることができた。
「エーヴァ」
「……そんな」
手にとった銀細工は踏まれ歪んでいた。
12
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる