婚約破棄された家出令嬢の私、大好きな人に弟子入り! 溺愛は全然必要ありません!

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50話 失う不安に向き合う

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「特使と婚姻……」

 なんで、こんな時に。バーツ様に返事ができると思えた時に王命があるなんてひどすぎる。

「……エーヴァ」
「御父様、私嫌です!」

 バーツ様がいい。
 バーツ様でないと意味がない。
 私の主張に御父様が瞳を閉じ深く息を吐いた。

「…………分かった。公爵家として、今回の婚姻の打診は断ろう」

 御父様のことだから、王命優先かと思った。けど難しい表情のまま私の意見を尊重してくれる。

「いいのですか?」
「……王命は絶対だ。だが、エーヴァの意見を尊重したい。今までずっとひどい親だった。結婚して出ていくなら最後ぐらい、親として子に良いことをしたい。なにより先程のグング伯爵令息への対応を見るにティルボーロン伯爵は信用できると私は思ったよ。私よりもエーヴァを深く理解している」
「御父様……」
「だが断るだけだ。主張は自ら行いなさい」
「はい」

 立場上、断ることすら難しい御父様が断りをいれるのは本来あり得ない。今までの会話が両親を動かしたのだろうか。けど、味方になってくれるのは単純に嬉しい。

「今日、これから謁見がある。そこで陛下から話があるだろう」
「分かりました。向かいます」

 準備を急ぎ、すぐに馬車に乗った。
 馬車の中、険しい顔をしたバーツ様が気になって話しかける。

「バーツ様、申し訳ありません。こんなに巻き込んで」
「いや、大丈夫。エーヴァの役に立てれば嬉しい」

 ただ、と眉を寄せて続けた。

「王命に逆らっていいのか、今も悩んでる」

 常識的に考えれば王命に背くなんて考えられない。それはバーツ様もよく知っている。

「今回、断りをいれることへの罰は全て私が受けます。両親やバーツ様が処罰されないよう嘆願しますわ」
「それはだめだ」
「私自身はどう処罰されようと構いません」

 だってこれは私の我が儘だもの。御父様は協力してくれると言ってくれたけど、王命に従うと言っても私は単身断るつもりだった。

「ネカルタス王国の特使アピメイラ公爵には祖父の頃から世話になってる」
「私も銀細工の素材購入でお世話になりました。バーツ様が何を使っているかも教えてもらって同じものを購入したんですよ」
「え、それは初耳」
「言ってなかったので……その、パサウリス様への恩義を感じているのですか?」
「……そうだね」

 元婚約者のヒャールタ・グングが相手だったら徹底的に立ち向かって私との結婚を取り付ける気持ちだと言う。

「アピメイラ公爵は少し変わっているけど、良い銀を探してくれた。銀細工というものが増えたのは公爵がいてくれたからというのもあるんだよ」

 元々銀はこの大陸には入ってなかった。それを少しであれ見るようになったのは特使のおかげだろう。銀細工用の銀糸だってパサウリス様がいなかったら手にできなかった。

「でも、それと私の婚姻は話が別です」
「そうだね」
「パサウリス様に譲る気なのですか?」
「……それがエーヴァの幸せに繋がると思った」

 そんなことない。
 私の幸せはバーツ様と共にある。銀細工は当然だけど、他のことで考えると諸島リッケリの領地経営も戦争への対応もすべてバーツ様とだったから乗り越えることができた。バーツ様だから調べて学んで役立とうと動いた。
 そう伝えようとしたところでバーツ様が言葉を続ける。

「けど、今は無理だ。僕はもうエーヴァじゃないと駄目だから」

 そう言うバーツ様の表情が曇ったままで、まるで失恋したような顔つきだった。

「バーツ、私はお断りすると言いましよね?」
「そうだね……けど王命は絶大な決定だ。しかも僕はソッケ国民ではない」
「関係ありません」
「エーヴァはそう言うって分かってる」

 無理して笑う様が痛々しい。バーツ様は今、無理をしている。

「不安ですか?」
「……ああ。格好悪いけどそうだ。エーヴァを失いたくないけど、失う可能性がちらついて落ち着かない」

 王陛下の意図は分かっている。その意図に対して応えればいいだけだ。
 こうなったら王陛下といえど、ぼっこぼこにしてぐうの音も出ないほど言い切ってやればいい。
 バーツ様が安心するぐらいに。
 私だってかつては……いいえ、今でも登りあがってくる失う恐怖はまだあって、バーツ様の気持ちはよく分かる。けど、ここは強く出る場面だ。

「今言おうと思ったのですが、やめました」
「え?」

 何を、とバーツ様が小首を傾げる。
 私ははっきりと「バーツ様の告白への返事です」と言い切った。

「こうなったら王命を覆して特使との婚約を全くなかったことにしてバーツ様との婚約をとりつけます」
「え、と?」
「その時にお返事します! いいですね? きちんとお応えするのは先の先です!」

 目をぱちくりするバーツ様。次にぷはっと笑った。

「なにそれ!」
「私なりのけじめです。曖昧だったのをはっきりさせます。それは王命を覆してから、二人きりできちんとお話するんです」
「はは……分かった。楽しみにしてる」
「ええ」

 馬車が王城に着いて、私たちは背筋を伸ばして馬車から降りた。
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