婚約破棄された家出令嬢の私、大好きな人に弟子入り! 溺愛は全然必要ありません!

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49話 王命、エーヴァと特使の婚姻

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 バーツ様にきちんとした返事もしていないのに。

「バーツ様は私の婚約者です!」

 勢いで言ってしまった。
 当然、両親には師匠としか伝えてないし、バーツ様にも師匠として来てもらっている。
 妹のシャーラが嬉しそうにしている以外は皆同じように驚いた。
 それに気づかず、元婚約者のヒャールタ・グングは不服そうに吐き捨てる。

「なんだと!」
「貴方とは結婚したくもありません、しません!」

 そんな平民風情と結婚だなんて馬鹿げてると元婚約者が叫ぶ。

「バーツ様は伯爵位を賜っています!」

 しかも諸島リッケリの領主でセモツ国との戦いでも活躍された方だ。銀細工師の筆頭としての活躍もある。

「そいつのお手付きでも俺はもらってやるぜ? どう考えたって俺の方がいいだろう」
「バーツ様をなんだと思ってるの!」

 無知ほど怖いものはない。諸島リッケリの名が出ればそれだけで目の色を変える。銀細工の話が最近のことで知らないとは訳が違う。

「ディーナ様に才能を見い出されて、リッケリの領主と銀細工の筆頭をされている。そんな方に対して失礼だわ!」
「ディーナ……ドゥエツ王国のループト公爵令嬢?」

 さすがにディーナ様は知っているらしい。
 そんなの嘘だろうと苛立った様子で攻め立てるのを言い返そうとした時、バーツ様が静かに私の手をとった。

「エーヴァ」

 しっかり目を合わせて微笑んでくれる。
 大丈夫だよと言われた気がした。

「失礼、御挨拶が遅れました」
「え?」
「私はバーツ・フレンダ・ティルボーロン。今は伯爵姓を賜っていますが、ドロム公爵家の者です」
「ドロム公爵? ループト公爵令嬢の右腕とも言われてる?」
「ええ。御存知でしたか」

 バーツ様の両親は確かにドゥエツ王国中枢に関わっていて、ディーナ様との関係もある。その話がこの男にまで伝わってたことによって一定のダメージになったようだ。

「元々エーヴァ嬢とは銀細工をきっかけに出会いましたが、領地経営やセモツ国との戦いではエーヴァ嬢の機転や知識にかなり助けられました」

 彼女がいなかったら諸島リッケリはセモツ国の海賊によって侵略されていただろう、とまで言ってくれた。

「銀細工でも新しい発想を生み出してくれる。私もいい刺激になっています」

 なにより、公爵家と疎遠だったところを和解し、解決できたのは私のおかげだと話す。
 その一歩を踏み出したとはいえ、公爵家の名前を出すとは思わなかった。

「我が公爵家は特段継がなくていいので、私はこちらのフィーラ公爵家へ入ろうと思っています」

 私がバーツ様の元へ嫁ぎ、妹がフィーラ公爵家を継ぐと勘違いされた時、目の前の元婚約者は間違いなく妹シャーラと結婚しようとするだろう。その可能性を防いで牽制した。さすがバーツ様だわ。

「なのでグング伯爵令息はご無理なさらず、お引き取りいただいて結構ですよ」

 はっきり帰れと言った。バーツ様もこの男に思うところがあるらしい。

「なんだと?」
「加えて、許可なく部屋に押し入り、公爵家へ数々の無礼を働き、閣下の言葉も受け入れず勝手をする様は許されない」
「俺とエーヴァの問題だ。黙っててもらおうか」
「いいえ。エーヴァ嬢がここまで罵られた。黙ってられない」
「え?」

 バーツ様から怒りが見えた。御両親と対峙した時とは違う激情だ。

「貴殿が真っ当な人物であれば身を引くことも考えたが、仕事ができないと決めつけたり、銀細工を学びに家をあけたことも疑うような人間にエーヴァ嬢は任せられない」
「なんだと」
「銀細工の師弟として、領主と賓客として共に過ごし、自然とエーヴァ嬢に惹かれた。これからも彼女の隣にいたいと思っている」

 バーツ様の言葉に胸がつまる。

「バーツ様……嬉しいです」

 こちらを見て微笑んでくれた。待つと言ってから、ずっと私を見守ってくれている。

「私はバーツ様を選びます」

 ありがとう、と言うバーツ様の囁きはヒャールタ・グングの乱暴な言葉で遮られた。

「ふざけんなよ! 認めるわけないだろうが!」
「認めるのは君ではない」
「御父様」

 御父様が再度周囲に指示を出し、なんとかあの男を拘束した。

「我が公爵家も私の娘も侮辱してくれた。今後二度とこの屋敷には来ないでもらおう」

 なんで、と叫ぶ元婚約者に「家ごとなくなってほしいのか」と静かに諭す。驚くほど綺麗に黙った。
 フィーラ家は公爵、目の前のろくでなしは伯爵。こちらが動けば伯爵家の取り潰しなんて簡単だ。

「しかるべき手段で連絡しよう」

 抵抗しつつも今度こそ部屋から出て屋敷の外へと追い出された。
 賠償金請求は当然とし、家の取り潰しはしないつもりだと御父様は言う。個人的にはしてやりたい。

「お姉様!」
「ああ、シャーラどうかした?」
「どうかした? じゃありません! やはりお二人は将来を誓い合った仲なのですね?!」
「あ……」

 うっかり婚約者だなんて啖呵切った。

「エーヴァ」
「バーツ様」

 気持ちはとっくに決まっていて、私が踏み出せるかどうかだった。ずっと寄り添ってくれて、今も私のことを庇ってくれる。

「旦那様!」

 焦りが見える中、礼儀正しく入ってくる執事長が持ってきた手紙は王族、王陛下からきたものだった。

「失礼」

 バーツ様に伝え奥で封を開けた御父様が驚きに固まったのが分かる。
 嫌な予感がした。

「エーヴァとネカルタス王国の特使との婚姻の話が出たそうだ」

 その場が凍りついた。
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