片想いしてる子の気を向かせたかっただけ

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4話

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「お前、赤点絶対とんなよ」
「はーい、がんばりまーす!」
と、部長の前では言ったものの、割と赤点常習犯の俺には自信がない。
そんな俺は今日彼女が当番なので図書室にいる。
図書室の奥で、かつカウンターも書棚も割と見える場所を陣取った。
テスト前になったから、生徒はいつもより多め。
モデルのランウェイがあって、結構過密だったスケジュールの中、俺はなんだかんだで図書室に通いつづけた。
彼女は無視したり、会話できても喧嘩腰だったりで進展がない。
彼女の喜ぶ言葉や態度がわからないから、何が正解かわかんねーし。
甘えてもダメ、男らしくしてもダメ、インテリ風を装ってもダメ、鈴木くんのように物腰柔らかく丁寧な対応してもダメ…何がいいのか。
今までの中で群を抜いて手強い。

このテスト明けには、部活ですぐに練習試合が入ってる。
全国常連の隣県の強豪校だから気合いが入る。しかもU19選抜で知り合った奴もいるから、久しぶりに会えるのもまた楽しみだ。
その試合の後には舞台練習も入ってくる。
全部こなしていくにはまずは目の前のテストをどうにかしないとなんだけど。
赤点なんてとって補修になったら、部活の練習も行けないし、舞台稽古にも影響が出かねない。

「…はぁ」
わからん。
数学は男の方が得意とか言った奴出てこい。
視界に入る彼女は司書さんに断り入れてるのか、カウンターで勉強している。
俺が頭よければ教えてあげるよーから近づくこともできたかな。
他の教科を開いても頭に入ってこないから、仕方なく最初にやってた数学に戻る。
やれるとこはやってすぐ終わり。わからないとこが多すぎる。
窓の向こうを見れば夕暮れ時。
もうここも閉まる時間になろうとしていた。周りの生徒もほぼいない。
いけない、そろそろ帰る準備しないとか。
「はぁ…」
せめてわからないとこが一つでもわかればなー。
赤点回避できなかったら部長もうるさいし、イケメンモデル兼俳優でスポーツマンの素敵な俺のイメージにも響いてきそう。

「……わからないの、問3?」
「え?!」
いきなり声をかけられて驚いた。
ぼけーとしてる俺も俺だけど…声かけてきたのが彼女だったから、もっと驚いた。
「これ、ここの公式使えばすぐ解ける」
指さされた教科書の公式…これを使うのか…。
「んん?」
公式使うってわかっても、そこからどうすればいいかわからない。
首を傾げて、ペンが進まない俺を見てわかってないのを察したのか、さらに言葉が下りて来る。
「問題にあるこの数字を、公式のここに代入して、出てきた数字と問題のこっちと=でつなげて計算」
「お、おおー」
言われた通り書いて計算していく。
詰まるとさらに説明されて、その通りにやると最後には答が出た。
「おおー!!」
こういう問題って公式使うだけしか書いてないからその過程がわからなかったから、いつもわからないままだったけど、今やっとわかった。すごいぞ、簡単なんじゃね?
「すげー!サンキュな!」
顔を上げて彼女にお礼を言った。不機嫌というわけではないけど、無表情に近くてほぼ読めない。
どちらかというと呆れ顔に近いのか?
「……致命的ね」
「…赤点回避できればいいんだよ」
強がってみる。
本当は勉強苦手だし、いい点数とって自慢できるぐらいになりたい。
けどどうしても…言い訳みたくなるけど、仕事や部活を優先して勉強は疎かになっていると思う。
「てか、あんたって頭いいの?」
「瀬良よりはね」
さらっと言いやがって。でもまぁ自分の頭の悪さは自覚してる。
特に数学苦手だしな。
にしても、思っていた以上にわかりやすい説明だった。言葉も難しいことを言わず、簡単な言葉に直して教えてくれてたし。
先生が解の途中を省略しがちなのに、俺が詰まれば1つ1つの工程を教えてくれてた。
口悪い割にはってやつだな。

「なあ」
「なに?」
「…鈴木くんのどこがいいわけ?」
なんだかあんまり見たくなくて、視線を教科書に戻して、会話のついでに問題を解こうとした。
まあ問題頭に入ってこないんだけど。
そんなだから彼女の表情はまったくわからなかった。
「……真面目で誠実なとこよ」
「へぇ…」
応えてくれた。
珍しく喧嘩腰じゃない。その声音は俺と向き合ったときに出るものじゃなくて、完全に鈴木くんに向けられてるものだった。
「鈴木くんはとても丁寧に接してくれるのよ」
「…まぁ、そうかも」
「佇まいが綺麗な所も素敵だし、図書委員の仕事もきちんとしてくれるし…そういう誠実さもある人が好きなの」
「…そ」
きっと…きらきらしてるんだろうなぁと思うと胸焼けがする思いだった。
恋をしている女子って、声もワントーンあがるし、雰囲気も柔らかくてふわふわした感じなる。
顔色も段違いでよくなるし、もちろん化粧とかお洒落とかそういったことにも熱心に力入れて変わる子もいる。
そういった熱意が羨ましいって思ってる。
俺が仕事や部活に入れてるものとは違う何か。
それが俺に向かれると途端興味がなくなるけど、傍から見てると羨ましくなってくるのはなんでなんだろうな。
そんなことを考え巡らせてたら、いつも通りに戻った声音が降りてくる。
「…あんたと違ってね」
「はぁ?!」
その一言すげえ余計!
と思ってノートから彼女の目を向けると、したり顔でにやにやしていた。
こいつ、俺がイラっとするのわかって言ったのか。なんてやつだ。
「っ!」
「ほらほら、頑張るのはいいけど、もう閉館だからね」
生徒は1人もいなくて、司書さんが片づけを始めていた。
俺は仕方なしに急いで片付けを始める。
本当こいつなんなんだよ。
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