魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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15話 テンプレ過去回想、と思ったけど少し違う気もする

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「というわけ」
「……そこからアステリを引き入れて、この城に?」
「そうそう」

 あたり一面もふもふになった。もふもふを堪能しつつのテンプレ過去語りにエフィは難しい顔をしている。
 というよりは、アステリと同じ。情報過多による脳内パンク状態になっていた。
 それでもエフィはきちんと話を理解して、その末に考えてもいるようだ。頭良さそう。
 さすがにひじりとリーサの生涯を語るのはやめたけど。

「イリニが魔王になった話がない」
「そこも聞くの?」
「当然だろ」

 アステリが中身を見て知ったことが知りたいのかと思ったら、ここにきてから今の立場になるまでも知りたいらしい。
 脳のキャパ大丈夫だろうか。

「じゃ、続きね」

 城建築後、最初の客は山を管理するドラゴンとフェンリルだった。ドラゴンは空から、フェンリルは地上からこの魔物が多く生きる山を守ってきたらしい。
 秒で現れて驚いたけど。
 そしたあちらはアステリと同じ。その強い魔力故にあっさり私の中身とこれまでを見てきて、勝手に納得して、この城を山脈に住まう魔物の拠点にすると言い出した。
 間借りするわけだし仕方ない。用が済めば去るわけだし、ここに集まってくるのは基本魔力の高い人間の言葉を話せる子たちしかこなかった。
 まあラッキースケベが原因で触手とか来ちゃったのは不可抗力なんだけどね。
 そうして築城後、意外と早くに使者はやってくる。

「イリニ・ナフェリス・アギオス侯爵令嬢にパノキカト国王からの遣いで参りました」
「ご苦労様~」

 自国パノキカトで聖女をしてた頃の護衛騎士がやってきた。一度目に私を取り押さえて、床に押さえ込んでくれた人。
 もちろん恨みはない。彼は本来の主人である王太子殿下の命通りに動いただけで、あの時だって小さく謝罪してくれたもの。
 まあその後あっさり元婚約者に首切られたんだけどねえ。

「聖女様?」
「パノキカトでは、私はもう聖女じゃないんでしょ?」

 精霊王が認めても、あの国の王太子殿下が聖女ではないというなら、もう私は聖女でない。
 神殿もそう強くはでないし、ピラズモス男爵令嬢が聖女認定されれば、大衆の視線はそちらに向いて綺麗に私のことを忘れてくれるはず。

「しかし、神官長は何も仰らず、新しい聖女は出てきていないのです」
「ピラズモス男爵令嬢が新聖女じゃなくて?」
「なにも。そのような啓示はないとのことです」

 ゲームのシナリオ通りでいくなら、精霊王の新聖女ご指名の啓示があるはずなのに。
 確かにどこにも精霊王の気配はない。私がばたばたしている間にピラズモス男爵令嬢が聖女にでもなっているかと思ってたけど……となるとテンプレ通りじゃないな。どういうことよ。

「ま、いいわ。エウプロ・セーゴリアー騎士団長様が何用かしら?」
「え、知って?」
「エンブレム」

 騎士団長に昇格したことを驚いていたけど、目立つところにエンブレム引っ提げてれば気づくもの。
 まああれか、私を討伐するための一個師団作りました的な感じ?

「外にもかなりの兵がいるみたいだけど?」
「……貴方だから、正直に話します」
「ありがと」

 一つは婚約破棄の為の信書のやりとり。
 これはオッケーというか大歓迎なので、早速サインして渡した。中身に私が何かしなければいけないことの明記はなかったから問題ない。
 魔法で後々書き換えられないかアステリにも見てもらったし。
 これを騎士団長が持って帰り、受理の信書が私にくれば終わり。

 そしてもう一つ。
 自国でないとはいえ、城の建築への反対。
 ようは取り壊せと。
 これはアステリが拒否した。
 挙げ句、自国の中でないに干渉しないよう伝え、騎士団長は引き下がった。

 さらにもう一つ。
 聖女である必要がないなら聖女の称号を使うなと。
 これには一瞬なに? と思ったのだけど、ようはピラズモス男爵令嬢が新聖女ならないのは私が聖女という立場にしがみついているから、ということらしい。
 あの元婚約者、やっぱり馬鹿だな。
 聖女であるかないかは神殿を通して啓示がおりる。精霊王以外は何もできない。

「最後の申し渡しについては、アギオス侯爵令嬢がいずれの提案も拒否した場合、パノキカトの法に乗っ取って処罰することの許可が出てしまっています」
「阿呆くさ」

 ようは私を殺したいだけじゃない。

「魔物がこの城に集まっていることも陛下は懸念しているようでした」
「別に攻めて滅ぼそうなんて思ってないわよ」

 ただ集まってきただけだし。

「ええ、貴方はそういう方ではない。しかし貴方を失ったことで、民の一部で暴動も起き始めています。パノキカトには新しい聖女が早急に必要なのです」
「だからって、私を殺すのが許されるとかないわ」
「はい……本当に酷い事を……」

 この騎士は私が元婚約者のかわりに公務をこなしていたことも、真面目に王妃教育を受けていたのも知っている。
 目の前の騎士からすれば、こんなに国に尽くしていたのに、早く死ねと言うなんてひどくね? というところなのだろう。
 そう思ってくれる人が一人でもいるだけで幸せなこと。どっちにしても王太子殿下の阿呆さに溜息しかでないけどね。

「私死ぬ気ないんだけど。聖女だって、こちらから願い下げなのに」

 精霊王は未だ出てくる気なし、と。
 どうしたいんだろう。力だけ強めて終わりなんて。
 というか、聖女の声に耳を貸さないって問題だと思うんだけど。

「しかし、っ!」

 目の前の騎士が言葉を続けることはできなかった。
 轟音が響いたからだ。
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